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3-13 リナと変人の出会い

 一方、ユリウスの上げた青色の信号弾を確認したリナ、ヤン、ブルーノの三人は、アデルが監禁されていた建物に突入を開始した。

 大勢の見張りが一斉にこちらに気づき、攻撃に転じようとする。全員が黒いローブに白い仮面をつけていて、異様な雰囲気だ。


【物質浮遊】(ジャグリング)


 リナがビー玉をまとめて一気に放り投げ、操って弾丸にする。


 ダン!ダン!!ダン!!!

 

「うわぁぁあっうがぁっ!!!」


 見張りが武器を持つ腕に正確に命中させていく。彼らは手にした剣や杖を、次々に取り落とした。


 「【拘束】(レストレイント)


 詠唱と共に、ヤンの目が青く光る。彼は視界に入れている敵に隙ができれば、その数に制限なく拘束できるのだ。彼が集中している間ずっと、拘束は持続する。相手は身じろぎ一つできなくなるので、その間に縄などで縛り上げてしまえば良い。


「どんどんいきますよ!!」

「くそっ!!」

 

 先陣を切って突入するリナに火炎放射の攻撃が襲いかかったが、ブルーノの『反射盾』がそれを弾く。リナは砂を蹴り上げて操り、攻撃主の目を潰した。


「うがぁあっ!!」

「一気にこの場を制圧してしまいましょう!」

「おう!!」


 その場はそのまま、リナたちが圧倒すると思われた――――しかし、そこでヤンが大声を上げた。


「うわぁっ!!」


 背後から鋭利なものが十本以上、突如飛んできたのだ。急に現れたそれは、氷柱だった。ブルーノの反射盾の速度では防ぎきれず、ヤンは転がって退避をする。ヤンの集中が途切れたことで、敵にかけていた『拘束』が解除されてしまった。あっという間に敵が起き上がり、次々と逃げ出していく。


「!!」


 ドシュドシュ!!ドシュ!!!


 逃げる敵に追撃しようとしたリナを、やはり大量の氷柱が襲ってきた。リナはそれらを全て正確に捕捉し、浮遊の魔法で停止させる。全て地面に打ち付けて破壊しながら、転がって退避した。

 次いで鳴り響いたのは、パチパチパチパチ、という場違いな拍手だった。リナがパッと顔を上げると、そこにいたのはユリウスから『要注意』と念を押されていた人物だった。


「なんという桁違いの練度。操作の正確性。そして威力!!リナさん、あなたは素晴らしい!!」


 そこで感嘆の声を上げているのは、長い白髪に深緑の目を持った、御伽噺のエルフのような人物――――第二王子派閥、筆頭公爵家嫡男、ファビアン・コルネリウスだった。


「ああ失礼、申し遅れました。私、ファビアン・コルネリウスと申します。以後お見知り置きを!」

「お前が居ることは、ユリウス様から聞いている!!遂に犯罪に手を染めたな、コルネリウス!!」


 何故かリナの方に向けて慇懃に名乗るファビアンに対し、ヤンが鋭く叫ぶ。しかしファビアンは相変わらずリナを熱心に見続けたまま、ヤンには目もくれずに話し続けた。


「犯罪……?違いますよ。私はあなたに会いたくて、ちょっと飛び入り参加させてもらっただけです。リナ・ロイエンタールさん」

「わ、私に……!?」

「そう。君です。他には一切興味がない」


 リナはぎょっとする。天下の公爵家の嫡男が、自分のようなメイド風情に、一体何の用だと言うのか。しかしそんな会話をしている間にも、敵の集団はどんどん退散していく。リナは慌てて、他の二人に叫んだ。


「ここは私が相手をするから、ヤンとブルーノは先へ進んで!!一人でも良いから捕まえて!!」

「わかった!!」


 自分を抜いて先へ進む二人のことを、ファビアンはちらりとも見ず。しかし瞬時に氷柱を何十本も生み出し、追尾するように打ち込んだ。


 バシュン!!


「させるか!!」

 

 リナは再び全て正確に捕捉して停止させ、地面に打ち付けて破壊した。ファビアンは目を見開き、興奮した様子でまた拍手をする。拍手の速度が先ほどよりも速い。


「やはり素晴らしい!!瞬時に対象を捕捉して、全て止めているのか!!」


 リナは相手にせず、短剣を何本か構え直す。そして落ち着いた声で尋ねた。ここは少しでも時間を稼ぐしかない。

 

「答えろ。先日の舞踏会、あの姿を消す『透明化』の大魔法陣……あれも、お前の仕業か?」

「はあ……?いいえ、あんなに面倒で、非効率なもの。私は全く興味がありませんね」

「……」

「私が今一番興味があるのは君です!それ以外にはあり得ない!」


 嘘を吐いている様子はない。ファビアンは眼鏡の奥の爛々とした瞳を隠しもせず、大声を出した。


「それより戦いましょう!さあ!さあ!!私の魔法は『元素操作』です。…………きっと、とっても楽しいですよ!!」


 その言葉を合図に、凄まじい攻撃が始まった。ファビアンがリナに向けて、爆弾のようなものを投げる。


 ドン!ドン!ドカン!!

 

 全てが絶妙なタイミングで爆発した。轟音が鳴り響く。リナは最小限の『突風』と『粉塵』を捕捉して停止させながら、爆発の間を縫うように駆けた。


「食らえ!!」


 短剣でファビアンの頸動脈を切り付けようとする。しかし瞬時に形成された氷壁が、それを阻んだ。


 ガン!!

 

「くっ!!」

「私特製の爆弾も止めるとは!!対象の条件を緩めて、指定しているのか……!?粉塵だけでなく、突風すらも止めて見せるとはっ!!」


 興奮した様子のファビアンに構わずローキックを入れるが、ジャンプで躱された。見た目がヒョロいから動けないだろうと思ったが、意外とすばしっこいらしい。リナは舌打ちをしながら転がり、ナイフを構えた。ファビアンは突風を起こし、それに乗って大きく距離を取る。


「待てっ!!」

 

 ナイフを数本投げて操作し、別々の角度からファビアンを切り付ける。


 パン!パン!パン!!


 ファビアンはくるくると手を回しながら自分の周りで小爆発を起こし、ナイフを全て破壊した。


「これだけの数の各対象を個々に認識して、別ベクトルで操作したのか……!?あなたはイメージ力が段違いだ!!」

「ごちゃごちゃうるさい!!」


 爆発の間にまた距離を詰めたリナはもう一度ファビアンに接敵し、横腹に蹴りを入れようとした。


 ダン!!


 しかしそれも、瞬時に生じた氷壁に阻まれる。次いで氷がリナを捕捉するように、パキパキと固まり始めた。距離を取ろうとするが、捕まって動けない。


「くっ…………!!」

「面白いです!素晴らしいです!!あなたは間違いなく、世紀に一人の天才……!!」


 脚を固定されて動けないリナの手を掴み、ファビアンはその端正な顔をぐいっと近づけてきた。氷壁全体を浮遊対象として指定し終わったリナは、即座に操作してそれを破壊する。しかし退避しようとしても、ファビアンが全く手を離さない。


「離せ!!」

「待って!戦いはもう良いです。よくわかりました!!」

「はあ!?」


 パキン!!

 

 リナはもう片手で、逆手に持った短剣を振り翳したが、今度はその手ごと氷塊で固められた。あまりにも硬い。それを破壊するのに難儀している間にも、ファビアンは早口で話し続ける。


「あなたは最高だ!舞踏会で見初めた通りだ!!やはり、私はあなたに非常に興味がある!!」

「うるさい……っ!!」

「これはもはや……そう、恋です!!!どうか……!!私の恋人に、なってくれませんか!?」


 ファビアンの突然の申し出に、リナはぽかんと呆気に取られた。

 何言ってるんだろう、この人。


「え…………お断りします」


 首を振って迷いなく断る。しかしファビアンはそこに跪き、キラキラと目を輝かせて言った。リナの腕を固めていた氷塊は、あっという間に溶けてなくなった。


「では、日を改めて申し込みます。何度でも申し込みます!!」

「いや、日を改められても…………。そもそも派閥が違うし、無理ですよ」


 当たり前のことを答える。というか、そもそも大切な主人のアデルを拉致した奴等の、味方をするような人物だ。恋人になんかなりたい訳がない。

 しかしファビアンは全くめげなかった。


「じゃあ派閥が同じなら?……いや、派閥なんてなくしてしまえばいいのでは!?」

「はあ…………?」

「とにかく、派閥問題を解決すれば良いんですよね!?私、尽力させて頂きます!!」

「え?…………え?」


 ファビアンはリナの空いた手をガシッと掴んで何度かぶん回し、うんうんと満足げに頷いた。そうしてとても……非常に良い笑顔で、去っていった。

 リナは呆気に取られたまま立ち竦み、それ以上追いかけることはなかった。相手は相当な実力者だ。深追いするなとユリウスに命じられているし、こちらに敵対して来ないなら、しつこく追いかける理由がない。

 ぽつんとその場に残されたリナは、小さな声で呟いた。


「あの人、敵の助っ人なんじゃ……?一体、何だったの……?」

 


 この出会いが、後の王位継承争いに大きな影響を生むとは――――この時点ではまだ誰も、予想していなかったのである。

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