第93話 『離れの木造小屋』リターンズ
第93話 『離れの木造小屋』リターンズ
「ねぇねぇ、明ちゃん。放課後クラブ見学行こ~」
入学式の翌日の昼休み、黒松は田川に声をかける。
あれから二人はクラス分けを見たのであるが、誰かの陰謀なのか、二人は同じクラスとなった。さらに・・・
「へ~二人ともどこかのクラブに入るんや~」
揚子である。彼女もこの二人と同じクラスになり、昨日の内に何故か仲良くなっていた。
さらに・・・
「あっ、私も行くわ。で、どこいくの?」
後ろから少し大人びた女性が現れる。彼女の名前は『生駒 敦美』。背もそこそこあり、セミロングが良く似合っている美人系の女の子だ。
「吹奏楽部に行こうかと思ってるの。」
「あれ・・・昨日『クラブ見学、めんどく~さ~い~』とか言ってなかったっけ?」
黒松の言葉に田川は反応する。
「え?そんなこと言ってたっけ?空耳空耳~」
黒松は『何も存じません』とい顔で答える。本当に覚えていないようだ。つくづく得な性格である。
そんな二人の会話に揚子が言う。
「そうなんや~、ちゅ~かうち既にブラバンやで。」
「「「え?マジ?」」」
3人は揃って言う。
「マジマジ、4月1日に・・・」
「「「早い、早すぎる~~~」」」
というわけで、放課後となる。
「へ~揚子ちゃんのお兄ちゃんヨーロッパへ行ってるんだ。カッコイイ!!」
黒松は目を輝かせて言う。
彼女たちは音楽室に向かいながら話をしている。勿論、場所を知っている揚子が先頭だ。
「せやで~、それにここの吹奏楽部にいたんよ。」
揚子は黒松に振り向きながら言う。
「そうか、それでそんな早い時期に入ってたのね。」
田川は感心したように言う。
「そうそう、ここの3年の柏原先輩が『入部届』入手してくれてん。」
「で、パートはどこなの?」
生駒は関心気に聞く。
「うん、うちはラッパや。」
「ラッパってトランペットね、私も中学のときトランペットやってたの。」
「ほ、ほんま~じゃぁ一緒にやろやろ、小百合ちゃんも明ちゃんも一緒に。今なら私以外新入生おらんから、希望通りいけるで。」
生駒の話を聞いた揚子はくるくると回りながら答える。その姿はちょっとした妖精の様だ。言葉はアレだが・・・
「え?本当!私、ラッパする~」
黒松は乗り気だ。
「そうね、あんた達と一緒なら楽しいかも。」
生駒も同意する。
「明ちゃんはどうするの?」
黒松は答えない田川を心配そうに覗き込む。
「えっと、私は・・・ホルンがいいかな~って。」
「「「ホルン?」」」
「そう、ホルン」
「え~明ちゃん、一緒にラッパしようよ~」
黒松は田川の袖を引っ張って駄々をこねる。しかし揚子は違った。
「あ~それもええかも。お兄ちゃんもホルンやったし・・・あの音色聞いたら・・・」
「「「聞いたら?」」」
「余りの美しさに失神しちゃう~」
「「「はぁ?」」」
揚子がうっとりとしてそう答えると、3人は呆れた声で返したのであった。
そして4人は音楽室に続く渡り廊下へ。そこにはいつもの様に吹奏楽部の面々は居なかった。放課後になったばかりなので、まだ部活が始まっていないからである。そのまま音楽室のある『木造二階建て』へと足を進める。
「こ、ここ?」
田川がその『木造二階建て』に指を指す。まだ、学校が始まったばかりで3人は音楽室に行ったことがないのだ。
「そう、ここやで。」
揚子は『えっへん』と威張って答える。威張るところではないのであるが・・・
「なんか・・・音楽室ってもうちょっと綺麗なイメージがあるんだけど・・・」
生駒も少し驚いている。だが・・・
「わ~渋い!カッコイイ!!」
黒松は二人とは美意識が違うようだ。やたらとはしゃいでいる。
すると後ろから男子生徒の声が聞こえた。
「よう、『アゲ』。早い・・・ウグッ・・・」
「『アゲ』言うな、ボケが!!」
柏原である。相変わらず彼は『禁句』を言い揚子から肘鉄砲を貰ってうずくまる。
その様子に3人は目が点になる。それを感じた揚子は・・・
「あは、やっちゃった。」
と、可愛く舌を出してごまかしたのであった。
(あれは絶対『禁句』だわ・・・)
3人はそう心の中に誓うのであった。
「ほんま、お前は相変わらずやな・・・」
「ごめんごめん、つい・・・」
柏原は素早く起き上がると揚子に言う。揚子もちょっと罰が悪そうだ。頭を掻きながらごまかしている。
「揚子ちゃん、その人は?」
黒松はそんな二人を見て言う。
「あ~この人はさっき話した柏原先輩。これでも3年生やねん。」
「これでもって・・・あ~君達、入部希望者かな?」
「入部希望と言うか、クラブ見学ですが・・・」
柏原の質問に田川が代表して答える。
「そっか~揚子、中々の戦果や。褒美を使わそう。」
「お~って褒美って何くれるん?新しいラッパとか?」
柏原の言葉に揚子は目を輝かせる。貰える物は何でも貰う主義だ。
「ラッパって・・・バルブオイルで勘弁してくだせぇ~」
「うむ、よきに計らえ~」
そしていつの間にか立場が逆転していた。
「あの~ここって演劇部じゃないですよね?」
その二人のやり取りを見て生駒が冷静に言う。
「すまんすまん、じゃぁ、早速上に上がるか。そこでスリッパに履き替えてな。」
「「「はい」」」
3人は元気よく答えて音楽室に上がっていく。
「お~い、犬山~っていないな。まだ、早いか。」
柏原は音楽室に入ると新マネージャーである犬山を呼ぶがまだ居ないようだ。
「あっ柏原先輩~♪明日香ならまだ来てませんよ~♪」
代わりに早くも音楽室に来ていた大倉が答える。
「大倉か、ちょうどええわ。早速クラブ見学がきたで~」
「わ~♪いいですね~♪そこの子達ですか?」
「せや、お~い、とっとと入ってき~や」
柏原がそういうと4人は音楽室に入る。
(へ~外観と違って中は整理されてるのね。)
田川は音楽室の中を見回しそう思った。
「えっと、私が副部長の大倉です。貴方達がクラブ見学者ね。あっ揚子ちゃんはいいのよ、並ばなくても・・・」
大倉はさっきと違い、落ち着いた口調で田川たちに話す。勿論、そのモデルは『古峰』である。まぁ、先ほどの柏原のやり取りを見られているので無駄ではあるが・・・
「とりあえず、ここの帳簿に名前と希望パート書いてね。」
大倉はそういうと『クラブ見学者名簿』という台帳を彼女らに渡す。まだ今年は誰もクラブ見学に来ていないのかそこは真っ白だ。3人は名前とクラス、希望パートを書いて大倉に渡した。
「え~と、黒松さんと生駒さんはトランペットで田川さんはホルンね。3人共楽器経験あるのかしら?」
受け取った名簿を見て大倉は3人に聞く。
「は~い、ないで~す。」
「ホルンの経験は無いです。ピアノを少し・・・」
「私は中学で・・・」
大倉は3人の言葉を聞くと復唱した。
「3人共無しっと・・・」
(スパーン)
「い、痛いの~♪」
柏原にスリッパで突っ込みを受けた大倉であった・・・
さっそく今高吹奏楽部の洗礼を受ける3人・・・果たして彼女らはちゃんと入部できるのでしょうか・・・