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第91話 前代未聞の新入生

第91話 前代未聞の新入生


桜が舞う4月1日。

三浦たちは新2年生となった。しかし、新入生が入ってくるのはまだまだ先である。

何故かと言うと、この今高高校の入学式は4月7日なのである。

というわけで、今日は入学式に演奏する曲と『春研』で演奏する曲を決めなければならないのであるが・・・


三浦はいつもの様に朝7時に学校に登校する。いつもであれば、そのまま音楽室に向かうのであるが、先に守衛室に寄る。そう、今日から島岡は居ない。早朝から響くあのホルンの音が無いからだ。

三浦は守衛室で鍵を取り、台帳に記載する。改めてその台帳を見ると、「島岡 2-4 6:30」の文字が所狭しと書かれている。だが今日からこれは「三浦 2-・・・」

(あっ、まだクラス分け判かってないんだっけ・・・)

ということで、三浦はそこに「三浦 1-2 7:00」と記載して守衛室を出た。


三浦はいつもの様にホルンを吹く。この時間に吹くといつも心が晴れやかになる。朝ということもあるが誰も居ない学校で伸び伸びと吹く。至福のひと時である。

すると、校門に人影が見えた。この時間に来るのは柏原であろう。しかし、もう一人居るようだ。背が低い女子生徒である。この時間に来るのは、大倉か古峰、それか大原であろうか。三浦は気にせずホルンを吹く。

(う~ん、切が荒いな・・・)

三浦は自分のロングトーンをそう評価していると、渡り廊下から話し声が聞こえる。柏原と誰かであろう。しかし・・・余り聞き慣れない声だ。だが、聞いた事もある声だ。三浦は不思議に思いながら柏原の方を見る。

「柏原先輩、おはよ・・・あれ?」

「おう、おはよう。今日も早いな~」

「おはよう~、三浦・・・先輩やったっけ?」

「・・・な、なんで?」

三浦の目の前には、気の強い瞳に艶やかなセミロングの可愛らしい女子生徒がいた。揚子(ヨウコ)である。そう、あの島岡の妹の揚子だ。

「なんでって、うち、今年から今高生やで?」

揚子は首を傾げて言う。しかし・・・

「入学式がまだじゃないか・・・」

三浦は当然のことを言ったが、相手はあの島岡の妹である。そういう常識は通じない。

「ええやん、ほら、こうやって『入部届』あるんやし。」

「は、はやっ!!というか、どうやってそれを入手・・・ああ、柏原先輩か・・・」

三浦は思い出した。島岡と柏原の家が非常に近いことを。

「さっしがええな、その通りや。ちなみに、もうパートも決まってんで~」

「まさか・・・ホルンですか?」

三浦は嫌な予感を覚える。確かにこの子、非常に可愛いのであるが性格があれである。三浦は吹き飛ばされるという嫌な過去を思い出す。(第49話 祭りだ!今高祭っ!(前編)参照)

「いや~それは無いわ。うち、ラッパにしたもん。中学もラッパやったし。」

「え?じゃぁ経験者?少林寺拳法は?」

揚子の言葉に三浦は驚く。前に聞いた時はそんな事を一言も言ってないのだ。

「あ~、アゲはな・・・グフゥ・・・」

「アゲ言うなボケが!!」

(絶対、禁句だなこれは・・・)

柏原が腹を押さえてうずくまる。揚子が軽く掌底を放ったのだ。ここは相変わらず変わっていない。一応手加減はしているようだが・・・

「よ、揚子はな、中学は『音楽部』にいたんや。少林寺は趣味や。」

さすがにいつものこと(?)なのか、柏原の復活は早い。素早く立ち上がりそう説明した。

しかし、その説明に三浦が余計に混乱する。

「お、『音楽部』ですか・・・聞き慣れない部活ですね。」

「まぁ、うちの中学には吹奏楽部無かったからな。俺も『音楽部』ちゅ~ところがどんなクラブなんかは知らん。」

柏原のそう言ったあと、揚子が補足を付け加えた。

「『音楽部』はな、音楽のことなら何でもするんや。金管も木管も弦楽器もコーラスもバンドも色々やったわ。」

「なんか・・・凄いクラブですね・・・」

「かな?で、うちはそこでエレキギターとラッパとメロフォンとサックスとそれから、チェロもやってたで~」※1

何とも凄い話である。あらゆる種類の楽器のオンパレードだ。三浦もその楽器経験に思わず驚く。

「それでな~高校ではラッパで行こうかと思ってん・・・ほら、楽器も持って来たで。」

揚子はそう言って手に持っているトランペットのハードケースを三浦に見せる。どうやらヤマハ製のトランペットの様である。

そして揚子はケースから綺麗なトランペットを出す。軽くマウスピースで鳴らしてから、トランペットを吹いた。

さすがに島岡の妹である。その音は綺麗な澄んだ音だ。伸びもあり、大通り向こうのビルから音が跳ね返る。

「な、ええ音させるやろ。まぁ、初め聴いたときはちょっと音こもっとったけど、アンブッシュア直したらこの通りや。」

「ええ・・・いい音させますね。」

三浦は柏原の言葉に同意する。

「というわけで、こらからよろしくお願いしますね。三浦先輩。」

「こちらこそよろしく~」

三浦は揚子の猫を被った可愛い挨拶に、にこやかに答える。若干照れもあるようだ。そう、彼は初めて『先輩』と言われたのであるから・・・


「じゃぁ、早速選曲しましょうか。」

朝倉は元気な声で言うと、皆が持ち寄った曲を黒板に書いていく。勿論、揚子もここにいる。クラブの面々はまだ入学式がどうとか、そんな細かいことは気にしない。相変わらずマイペースな連中である。

そして『入学式』と『春研』で演奏する曲が決まる。


『入学式』マーチ3曲

・美中の美(ジョン・フィリップ・スーザ)

・ワシントン・ポスト(ジョン・フィリップ・スーザ)

・アメリカンパトロール|(フランク・W・ミーチャム)

入学式のマーチについてはいずれも有名曲揃い。どこかで聞いたことのある曲である。

特に『アメリカンパトロール』はジャズの方で有名ではないだろうか。


『春研』

・アメリカーナ(フランク・エリクソン)

・A列車で行こう(ビリー・ストレイホーン)

『A列車で行こう』はジャズで有名な曲であるが、『アメリカーナ』は曲名を聞いてピンとこないであろう。しかし、曲を聴くとこれもどこかで聞いた曲ばかりが集まったメドレーである。そう、アメリカの民謡を集めたメドレーなのだ。『アルプス一万尺』『ケンタッキーの我が家』『リパブリック賛歌』などが収録されている。※2


こうして、新入部員を獲得する為の前準備が揃う。明日からはこれらの曲の練習となる。

ちなみに、揚子は入学式も吹く気満々だったがさすがに皆に止められたという・・・


※1 『音楽部』。いや、本当にあるんです。こんなクラブ。楽器もこのほかにリコーダー(ソプラノからバスまで)やファゴット、各種パーカッションまであり、自分の好きな楽器を好きな時に練習できたそうです。

※2 いずれの曲も動画でアップされています。便利な世の中になりました・・・


さぁ、第5部『風雲を告げるコンクール』編のスタートです。しかし、初めからもの凄い人物が・・・

まだまだ個性溢れる新入部員たちが登場しますよ。お楽しみに~

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