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第88話 合同定期演奏会・・・大曲『展覧会の絵』

第88話 合同定期演奏会・・・大曲『展覧会の絵』


第2部が終了後、再び楽屋が慌しくなる。そう・・・第3部用の衣装に着替えるのだ。

とは言っても現役は制服に着替えるだけだが・・・と、いうことは・・・

「よっしゃ、これでばっちりや。」

島岡は再びオールバックにする。さすがに3年4人組はしない。彼一人だ。

三浦はふと思う。この人は音楽以外の感性は全て母親のお腹の中に置いてきたのではないかと・・・

前に彼の絵を見たことがあったが、とても前衛的な何とも言えない絵だった。大原に共通するものがある。


ホールのブザーが鳴り響く。第3部の開演である。奏者たちは全て席についていた。

指揮者の馬島がゆっくりと舞台袖から現れる。指揮台に立ち観客に礼をすると大きな拍手が響き渡る。

そして奏者の方を見る。準備は全て万端。拍手が完全に鳴り止むと馬島は指揮棒を構えた。

それと共に、大橋がトランペットを構える。馬島独特の大きな振りで『展覧会の絵』が始まった。


『第1プロムナード』

大橋の伸びのある音がホールに奏でられる。その後に金管が和音を伴って入り、その音を支える。

次に木管を中心にした流れるような旋律が始まる。だが一音一音丁寧に吹く。そう、この楽章は小手先のテクニックは要らない。今まで培ってきた力だけで演奏しなければならないのだ。

そして再び、金管アンサンブルが始まる。壮大な響きがホールを包み込む。最後に、全ての楽器で演奏されこの楽章を締めくくる。


小人グノーム

中低音が中心となった暗い響き。深くは無い、暗い・・・不気味さすらある。静の中にフルート等の高音楽器が響き、動の中に中低音が重い音を響かせる演奏はまさに暗い森の中といってよかった。

そして、フルートの音色と中低音の音色が交互に出てくるさまは、遠くで何かが蠢いているかのようだ。

時々、時々現れる素早いパッセージがまるでその蠢きが人目を避けるような、そんな印象を与える。

そして、高音楽器が鳴り響く。とうとうその蠢きが姿を現したのだ。そう、小人ではない。それは化け物。『Gnomus』とはロシア伝説の「こびと妖怪」である。まさにそんな醜悪な小人が現れたのだ。

そして、トランペットの金属的なミュート音がまるで、その怪物と目線があったような・・・怪物は一目散にその場から逃げ去った・・・


『第2プロムナード』

島岡がホルンを構える。そして・・・静かな、ひたすら静かなホルンソロが演奏される。しかし、その音はホールにいる観客一人一人に語りかけてくる。そんな錯覚を思い起こされる様な演奏だ。そしてオーボエ・フルートが重なるとさらに幻想的な世界へと(いざな)う。本当に彼の演奏はその場にいる全ての観客を魅了してしまうのだ。そしてその曲感を木管が引き継ぎ、静かに楽章は終了する。


『古城』

河合のユーフォニウムが副旋律を奏でる。どこか哀愁が漂う。そんな演奏だ。そして美冬のアルトサックスの旋律が入る。サックス独特の華麗さはない。悲壮感がホールを包む。元プロと将来のプロが共演するハイレベルな演奏。そこにはまるで月明かりを浴びた西洋の城があるように見える。

木管が入るとまるでその城では、昔の舞踏会を懐かしむような・・・そんな風景が見えてくる。

そして最後のアルトサックスの響きが悲痛な城の叫び声の様に聞こえた・・・


『第3プロムナード』

華やかなトランペットの音が響き渡る。ここでは柏原が演奏している。さらにチューバの重い音と木管の音がその華やかさをさらに昇華させる。最後にホルンの美しい和音で締めくくる。


『テュイルリーの庭』

フルートとクラリネットの軽快な音が響き渡る。まるで子供が庭でじゃれ付いているかの様だ。そして、何かを話している、そんな微笑ましい光景が脳裏に写る。アチェレしたところで一転、一気に騒がしくなる。喧嘩である。そして、『はい、仲直り』。そんな声が聞こえるかのようにテンポが戻る。※2

再び、元の光景となり、楽章が終わった。


『ビドロ』

河合のユーフォニウムによるどこか寂しげな演奏が始まる。伴奏も重い。そして木管の旋律でその感じがより一層引き立てられる。本来ならば『Bydlo』は「牛車」なのであるが、そんな雰囲気は伝わってこない。余りにも悲壮感が強いのだ・・・まるで、奴隷たちの群れが歩いているような・・・クレッシェンドでさらにその感じが強まる。※1

スネアのロールと共にこの楽章のクライマックスへ。スネアのロールとフォルテシモが悲壮感の中に勇ましさを感じさせる。そう、反乱である。

そして、一気にデクレッシェンド・・・元の悲壮感のみの残り、曲が終わる。


『第4プロムナード』

フルートを中心とした寂しげなプロムナードが始まる。まるで先ほどの『ビドロ』を引きずるかのような・・・中低音の響きがさらに悲壮感を持たせる。だが、最後にフルート・ピッコロの明るい音が・・・


『卵の殻をつけた雛の踊り』

フルート・ピッコロなどの高音木管楽器を中心に明るく軽い演奏が行われる。どこか楽しげでコミカルだ。小動物がちょこまかと走って回っている、そんな感じだ。

そして2匹の雛鳥が『ピーチクパーチク』言っているような、そんな情景が思い浮かばれる。そしてさらに3匹目がヨチヨチと現れる。

最後は再び冒頭に戻って、『はい、おしまい』と言って楽章が終わる。※2


『サムエル・ゴールデンベルクとシュムイレ』

中低音を中心とした壮大な音が響き渡る。旋律のみなのであるが、その演奏している本数が凄い。厚い壁となって客席に襲い掛かる。ちなみにこの冒頭部分は、大金持ちのユダヤ人『サムエル・ゴールデンベルク』が貧乏なユダヤ人『シュムイレ』に借金の返済を迫るところを表している。

そして、トランペッターには地獄の門が待っている。ここを演奏するのは南川。永遠と続く高音域の副旋律だ。ここは『シュムイレ』が支払いの延期を懇願を表している。

そして、それに被さる様に旋律が現れる。まるで二人が言い争っている。そんな感じだ。

しかし、トランペットも必死だ。多少なりとも本数が増えたとはいえ、大多数の中低音に対して張り合わなければならないからだ。だが、彼らはそれを吹き切る。

最後は中低音のみとなり、『お金を~、払えよ!』という風に聞こえる音で楽章が終わる。※2


『リモージュの市場』~『カタコンベ』

ホルンの軽快なリズムで始まる。実はここはかなりの高音域なのであるが、彼らは難なくこなす。

それに釣られて木管の旋律が現れる。まるで朝の騒がしい市場のようだ。色々な楽器の音色が現れては消え、現れては消える。まるで、そこら中で売り子の声や、世間話に熱中する主婦がいるかのように・・・

そして、トランペットを中心とする華やかな旋律が現れる。タイムサービスの始まりであろうか。トライアングルのベルの様な響きがそう思わせる。

最後は、あの32分音符の箇所が登場する。しかも、テンポが一気に速くなる。まるで、その市場を一気に駆け抜け素早く離れるように・・・・

いきなり、中低音の迫力ある音が当辺りを轟かせる。先ほどの華やかな市場から一気に暗く陰惨な地下の墓所(カタコンベ)へ・・・大沢のトロンボーンは音が割れている。

その中低音が鳴っている箇所と鳴っていない箇所の差が激しい。動と静なのであるが、静しかない・・・そんな雰囲気が漂う。中低音による高音部など背筋が凍る位だ。

それが終わると、柔らかい音が響き渡る。墓地独特のあの清涼感・・・トランペットの音がさらに引き立てる。最後に、トランペットと中低音が重なると、陰湿さが無くなり聖域という感じを残こす・・・


『死者とともに死者の言葉で』

オーボエが中心でプロムナードが演奏されるが、どこさ寂しげだ。そう、これは短調。中低音が入るとその寂しさがさらに強調される。※3

オーボエの旋律と中低音による旋律が応答する様は、お互いに何か語りかけている・・・最後は天に何ものかが召される・・・そんな情景が思い描かれる演奏であった。


『鶏の足の上に建つ小屋』~『キエフの大門』

ティンパニーと中低音の力強い音が響き渡る。力強さの中にどこか恐ろしげなものが見える。その中から軽やかな音が聞こえる。どこか滑稽さが見え隠れする。

そして、シンバルの音と共にトランペットの華やかな旋律が飛び出す。まるで大空を舞うかのように・・・

そう、『バーバ・ヤーガ』・・・日本の言うところでの『魔女』だ。その魔女が大空を駆け巡っている。

そして、9本のホルンがベルアップする。このコンサートで初めて見せるベルアップだ。力強く咆えるようなホルンの音がホールを謁見する。

それに対抗するかの様にトロンボーンも咆える。お互いに交互で鳴らす様は、まさにホルンvsトロンボーン。本来ならトロンボーンに負けるのであるが、ベルアップしていることにより互角である。

周りの楽器もそれを観戦するかのように音を奏でる。魔女から召還された化け物同士が争っているかのように・・・

そして、木管の旋律か始まり、2匹の化け物は縺れ合うように地上へ落下する。

静寂・・・まるで先ほどの戦闘が嘘かのように静けさが辺りを支配する。木管のトリルがまるで薄暗い森の中を進むかのように感じる。ファゴットの滑稽な音がコミカルだ。

そして再び冒頭へ、再びトランペットが鳴り響き、ホルンとトロンボーンが咆える。

またもや、縺れ合うが様子が違う。一気に空間を移動し、どんどん加速する。そしてその先には・・・壮大なキエフの大門がその姿を現す。

金管を中心とする壮大なアンサンブルが始まる。既にこの時点で奏者はバテているが気力を振り絞り演奏する。ホルン1stなど、ハイB♭の連続なのであるが、島岡は吹きつづける。

実はホルンパート内で、『ここはフォルテだから1本づつ計4本で交互に吹く』という取り決めがあったのだが、島岡はそれを拒否。現役5人のみでこの冒頭を吹いている。三浦は息絶え絶えだが必死に吹く。その甲斐あってか、綺麗で壮大な和音(ハーモニー)が辺りを包む。

次に動から静へ。木管による静かな演奏が始まる。しかし、ホルンだけはこのアンサンブルに参加している。休みは無い。

今度は、(きら)びやかな演奏になる。木管が物凄い勢いで指を回す。ホルンも9本ここで揃い踏む。中低音の迫力ある演奏が辺りを圧巻する。そして再びトランペットが入り、壮大さが戻ってくる。

だが、まだここはフォルテシモではない。三度場面が変わり、木管のアンサンブルが始まる。そして、チャイムの音が鳴り響く。それに答える様に中低音が和音を奏でる。木管のトリルが入り、最後の山場の準備をする。

徐々にクレッシェンド。ホルンの和音も入り、さらに緊迫感を増す。ホルンとトランペットが華麗な『プロムナード』を吹き始める。だが、まだだ。まだ終わらない。

もう一度メゾフォルテに落とし、クレッシェンドを始める。木管が再び煌びやかな指回しを披露し、一瞬の静寂が訪れる。全ての楽器は音を鳴らしていない。

そして、全楽器によるフォルテシモが奏でられる。それは、壮大で、雄大で、煌びやかで・・・どんな形容詞を付けても不足する位のハーモニー・・・

だが、メゾフォルテに落ちる。そこを支えるのは木管だ・・・全ての木管奏者がもう一度、もう一度だけみんなを感動させたいと頑張る。

二部系三連符になるとホルンや他の金管楽器も入る。クレッシェンド・リタルダンドをし、そして・・・

最大級のフォルテシシモが、会場を包む。本当に・・・本当に・・・最後の気力を振り絞って金管全員が演奏する。長い長いこの組曲のフィナーレを飾るに相応しいハーモニーがここに現れたのだ。まるでキエフの大門に神が光臨する・・・そんな情景が思い浮かばれるくらいに・・・観客の中には思わず薄っすら涙するものいた。

そして、全員でその神々しいハーモニーを演奏する。それを祝福するかの様に、チャイムが力強く鳴り響き、ここの為だけに大沢が購入した銅鑼が響き渡る。その素晴らしいハーモニーのまま組曲が終焉を迎えたのであった・・・


※1 ビドロとはポーランド語で、「牛車」と「家畜のように虐げられた人々」の意味があります。スタソフの楽譜へのコメントは「牛車」ですが、ここではあえて「家畜のように虐げられた人々」の意味で解釈しています。

※2 『空耳アワー』じゃないんですが、本当にそう聞こえるのが不思議です・・・

※3 この楽章は、ムソルグスキーが絵に描かれていた亡きハルトマンと改めて対峙し、言葉を交わそうとしている場面だそうです。


精魂が尽きるまで演奏をした今高高校吹奏楽部と今高ウィンドオーケストラの面々。本当に、ご苦労様でした。


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