第87話 合同定期演奏会・・・さぁカーニバルの始まりだよ
第87話 合同定期演奏会・・・さぁカーニバルの始まりだよ
さて、第1部も終わり次は第2部である。この間15分の休憩となる。しかし、三浦たちには休憩はない。衣装が変わるからだ。まぁ、制服からカッターシャツにジーパン、各パートごとに色違いのスカーフを巻くわけだが・・・
「うわ~~どうしよ。ポマード落ちへん・・・」
「・・・」
島岡である。さすがにこういう格好だとオールバックは変・・・いや、制服でも全然変なのであるが・・・なのである。ちなみに、ホルンパートは緑のスカーフである。
「そや・・・こうすれば・・・」
島岡はスカーフをバンダナの様に頭に巻く。まだ滑稽なのであるが、さっきよりマシである。そしてそのまま舞台袖へと向かった。
『ブーーーーー』
第二部開幕のブザーの音がする。
だが、舞台の上は暗い。その中をボンゴの音が鳴る。
その後を緩やかなクラリネットの旋律が流れる。
バックの照明はいつの間にか夜明け前の濃く青い色に。徐々に奏でられる後とに明るさを増していく。そしてトランペットを中心にした旋律が現れる。最後にボンゴの音が響くと・・・
軽快なクラリネットの旋律が始まる。『ブラジル』だ。照明も一気に明るくなる。
そして叫ばれる「「ブラジル!!」」の掛け声。いや、良く聞くと「ぶたじる!!」や「みそしる!!」の声もある。これはご愛嬌・・・パーカッションによるアンサンブルが終わると、サックスを中心とした旋律が始まる。トランペットも『チャチャチャッチャチャッチャ』と軽快に合いの手を吹く。そして旋律が終わり間際にデクレッシェンドが始まる。
だが、その後すぐに音量が戻る。木管を中心とする旋律だ。嵐を告げるかのような高い音で奏でる。さらにホルンが待ってましたとばかりに咆えた。
トランペットで一段落するとサックスがいつもの悩ましい音で吹く。リズムは同じなのであるが落差が激しい。そしてお次は2本のサックスにソリ。朝倉と原の1年コンビでここを演奏する。いや、ソリというよりも2つソロの融合だ。ばらばらに吹いているようにも聞こえるが、最後に重なりソリが終わる。
最後に残るパーカッションの音。カウベルとタンバリン、ドラムセットがリズムを刻む。だが良く聞くとカウベルのリズムが段々変わる。照明もいつの間にか夕暮れの様なオレンジに。そして、ピッコロ・フルートの旋律が始まる。『コパカバーナ』である。綺麗なハーモニーがホールに響く。
その旋律が終わると野太いチューバのリズムが刻まれる。その後にユーフォニウム・ホルンが支え、トロンボーン軍団が颯爽と登場する。現役・ウィンド合わせて総勢9人。一斉に立ち上がる。ベルを観客のあらゆる方向に向け旋律を吹く。それが終わると木管の旋律に。落ち着いた演奏が始まる。が、ここでも最後にホルンがグリッサンドで咆える。ホルン9本のハーモニーが開場を包む。
それに答えるかのように中嶋が立ち上がる。トロンボーンソロだ。彼も今高が誇るトッププレイヤーの一人だ。年季の入った細かいテクニックはともかく、総合力ではウィンドの大沢さえも叶わない。
グリッサンドを十分に使った色っぽい音で、立石がアレンジしたメロディを彼は披露する。
(まいったな・・・ここはかなり難しくしたのにな。)
中嶋の演奏を聞いた立石は少し苦笑いする。だが、目は笑っている。それほど見事に彼は演奏したのだ。編曲者を納得させるほどに・・・
いつの間にか曲は佳境へ。木管が嵐を思い起こす様な激しい動きの中、ホルンが再び咆える。徐々に上がっていくホルンの音は、最後はハイD。トランペットの高音も華々しく響き渡る。こちらも苦しい。しかし、両パートの島岡・柏原の表情は涼しげだ。
そして、またもやパーカッション。各楽器が一定のリズムで思い思いに鳴らす。
が、カウベルのリズムが終わると同時に、ホルン・サックスの素早い指回しと共に華々しく『宝島』が始まる。本当に曲が止まらない。まさに『ノンストップ・サンバ!』。
サックスのいつもの艶やかな旋律。そして、軽快なリズムに乗って・・・もう一度朝倉が立ち上がる。アルトサックスソロだ。1年ながらも、体を揺らした堂々とした演奏は中々壮観である。周りの楽器も朝倉を支える。
(こんな中で演奏してみたいな・・・朝倉お姉さんが羨ましい・・・)
三田嶋は朝倉を注視し、そう思った。本当に楽しそうに吹いているのである、彼女は。
そしてソロが終わり全楽器が曲を盛り上げる。ここでもホルンがグリッサンドで咆える。それも2回。ある意味この為だけにある楽器のようだ。※1
そして初めの旋律に戻るが、フルート・ピッコロのみでの旋律。
その後は・・・ず~と、アルトサックスのターン。山郷が前に出てくる。これはリハーサルにも無い行動だ。だが、指揮の河合は笑っている。彼はこういう行為は大歓迎なのだ。
山郷が堂々としたソロを吹く。ほとんど自己アレンジ。譜面にも小節数以外はただ『アレンジ』と書かれているだけなのだ。曲調を壊さないようにだけ気を付け、一心不乱にアルトサックスを吹く。
決して上手くは無い。上手くは無いが若々しい情熱が篭った演奏だ。普段は若々しくないが・・・
最後にトランペットと同調してソロが終わる。それを歓迎するかのようにパーカッションパートが出迎える。
その間にトランペット・トロンボーンパートが全員起立した。総勢20名。スタンドでは最大人数となる。ここが花形パートの正念場である。大迫力の20本のユニゾン。高音がホールに突き刺さる。最後にここぞとばかりに柏原がオクターブ上で爆音を響かせた。
その後は再び、全楽器による演奏へ。ホルンも咆える。そして旋律が終わるとパーカッションアンサンブルが展開される。カウベル・サンバホイッスル・コンガ・タンバリン・ドラムとリズムを刻む。
そして、柏原がフリューゲルホルンを持って河合の横に。そしてサンバのリズムに合わせてソロを吹く。『フィールソーグッド』である。
いつものトランペットに無い柔らかな音が柏原から奏でられる。そしてここが、立石が最も苦心したところだ。この曲だけサンバとは関係ないのだから・・・
なんとパーカッションだけ別に用意したサンバ調の譜面が書かれてある・・・さらに彼の遊び心はこの先にあった。
島岡が先ほどの柏原の位置に現れる。本来ならアルトサックスソロのところをホルンにさせるというのだ。技巧的なサックスの譜面が島岡を襲う。しかし、彼はそれを難なくと吹く。ある意味神業に近い。周りの楽器もそれに答えた。そして再びパーカションへ。カウベルが激しく鳴らされ、チューバの伴奏後トランペットを中心に旋律が奏でられる。『ドント・セイ・ザット・アゲイン』である。
それが終わると木管の旋律が始まる。軽快な爽やかな演奏だ。そしてそれが終わるとパーカッションだけとなり・・・トロンボーン・ユーフォニウム・チューバのアンサンブルが鳴り響く。いつもは縁の下の力持ちのチューバが一気に前に出る。最後にはチューバのありえない高音が会場を沸かす。だがこれでは終わらない。再びパーカッションに移ったと思うと、なんと寺嶋が中腰で立つ。あの重いチューバをだ。
そしてそのリズムのままソロを吹く。『恋のカーニバル』のチューバソロを・・・
あの細い体で太い音を解き放つ。彼はこの3年間、このバンドを一人で支えてきた男だ。その全てをここにぶつける。それを祝福するかの様にトランペットが彼を支える。そして、相方として共に歩んできた平田のユーフォニウムが入る。今度はフルートが二人を支える。
そしてこの止まらないカーニバルも終焉へ。トランペットを中心に華やかに演奏されパーカッションのみに。最後の全楽器による打ち込みで20分に渡るメドレーが終了したのであった。
ちなみに・・・パーカッションパートの人々は『もうサンバは暫くしたくない』と、言ったとか言わなかったとか・・・
※1 本当にここのグリッサンド2連発はホルン乙に・・・最高音ハイDだった記憶が・・・
二部も無事演奏しきりました・・・しかし、6曲分は著者もきついです・・・