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第85話 合同定期演奏会・・・そして開演

第85話 合同定期演奏会・・・そして開演


「・・・なんか人多くないですか?」

「多いな・・・去年そんなにけえへんかったのにな・・・」

三浦と島岡は楽屋の待合室にいた。そこにはテレビがありロビーの様子を映し出していた。

そこには多くの人がいた。普通、コンクール地区予選止まりの高校の定期演奏会というものは、ほとんど身内しか来ない。『ウィンド』と懇意にしている楽団の人であるとか、同じ学区の高校の吹奏楽部員などである。

この1000人を収容できるホールでも3割埋まればいい方である。今高祭では、学校の人たちが居たので講堂には溢れんばかりの人がいたが・・・

しかし、三浦はちょっと嬉しかった。それは自分たちの演奏を多く人に聞いてもらえるからである。そう思い始めると今度は若干緊張し始める。無様な演奏は出来ないからだ。自分の出来る最高の演奏をしようと心に誓うのである。


そして開演。ホール全体にアナウンスが流れる。

しかし、三浦たちはまだ楽屋に居た。そう、彼らは『ウィンド』の後に演奏するからだ。実は合同では毎年交互に演奏順番が変わる。去年は現役が先だったので、今年は『ウィンド』が先なのだ。

そして、三浦たちは既に本番の衣装である。と言っても学生の正装はやはり制服だ。男子は学ラン、女子はブレザーである。

「・・・何やってるんですか?」

「え?お前もしたいか?」

三浦は島岡の顔・・・いや、頭を見て言った。島岡は学生服を着て、髪をオールバックにしているのだ。それもどこから持ってきたのかおっさん臭いポマードを付けて・・・

「正装と言えばこれやろ?」

「絶対違いますから・・・」

三浦は強く否定した。が、他にもオールバックがいた。平田・寺嶋・野田・石村の3年カルテットだ。やはり彼らも学生服にオールバック。さすがにポマードで固めていないがちょっと異様な雰囲気である。

そして島岡を中心に集まり三浦に一言・・・

「「我らオールバッククインテッド!!」」

「・・・」

三浦はもはや呆れるしかなかった。

ちなみに、このオールバック集団。事の始まりは島岡である。彼が1年の時、コンクールで始めたである・・・

そんな中『ウィンド』の演奏が始まる。曲はアルフレッド・リード作曲の『春の猟犬』。華やかでいて弾むように演奏される。さすがに全員が学生の時から楽器を吹いている経験者たち。指揮もいつも指揮棒を振っている馬島である。非常に安定感のある良い演奏である。

曲もある程度進むと彼らは移動を始める。出番である。舞台袖まで移動し、そこから『ウィンド』の演奏を聞く。

2曲目は、グスターヴ・ホルスト作曲の『吹奏楽のための第1組曲』。通称『一組』である。中低音を中心に第一楽章が始まる。

曲が進むにつれ緊張が高まる。三浦は舞台袖からちらっと観客席を見るとそこには満場の観客がいた。さらに立ち見の人までいるのだ。

「三浦~そろそろやな。」

そろそろ第三楽章が終わろうとしている頃、島岡は三浦に声を掛ける。

「は、はひ」

三浦は思わず情けない声を出す。

「おいおい、ここまで来て緊張しすぎや~。さぁ、お前も一緒にオールバックに・・・」

「ぶっ」

島岡の台詞に三浦は吹いた。その効果であろうか。高まりすぎた緊張も適度に緩んだ。

「せやせや、それでええ。いつもみたいにやったらええんや。」

「はい」

今度はしっかりと小さな声で返事をする。

それを見た島岡は軽く頷くと、ちょうど『ウィンド』の演奏が終わったのである。大きな拍手がホールを包んだのであった。


『次に今高高校吹奏楽部による演奏です。曲は『アラビアのロレンス』と『エル・カミーノ・レアル』です。指揮、柏原孝雄。』

アナウンスがそう告げると三浦たちはついに舞台に移動した。この半年間の成果を見せるときが来たのだ。

三浦はゆっくり自分の席に着くと観客席を見た。

(あっ、コンクールの時と同じか・・・これなら・・・)

リハーサルでは全ての照明がついていたが、本番では観客席に照明は無い。これにより観客席が余り見えないのだ。

そして三浦は前を見る。

そこには岩本を中心とする華やかなクラリネットパート。

後ろには部長・南川が率いる威圧感十分のトランペットパート。

すぐ右は合わせる事に関しては誰にも負けない和音のスペシャリストの松浦。

その奥には、『絶対音感』の持ち主で音程に関してずば抜けた才能を持つ大原。

さらに向こうには、全ての分野に於いて頭一つ抜けている石村。

最後に・・・すぐ左には、最も頼りになる最強の『ホルン馬鹿』島岡。

この必勝の体勢で失敗するわけが無い。三浦はそう思い柏原が指揮台に立つのを待った。

全員がポジションに着くと柏原が舞台袖から出てくる。大きな拍手で出迎えられた。


「ここって・・・学生が指揮振るみたいだな。」

「そ、そうですね・・・僕も驚きました。」

「でも・・・あの人。堂々としているわ・・・」

観客席中央に陣取っていた東たちがぽつりと言い合う。通常ならば顧問が指揮を振るのであるが、学生服姿の柏原を見て少々驚いたのである。

(さて・・・あれからどこまで伸びたのか・・・楽しみだな。)

そんな東の驚いた様子を横目で見ながら、立石はそう思った。ちなみに、両者は偶々隣同士である。

そんな拍手の中、柏原は素早く一人一人に目で合図を送る。

(みんな、いくで~)と・・・

その合図に皆はわざわざ首を縦に振るという行為を行わない。同じく目でのみ合図を返す。

拍手が完全に鳴り止むと柏原は指揮棒を構える。冒頭から入るパートはすぐさま楽器を構えた。そして・・・

(It's Show Time!!)

柏原はそう心で呟くと一気に指揮棒を振りはじめたのであった。


とうとう演奏開始です。半年間の成果、とくと御覧あれ。


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