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第8話 マウスピースで音を鳴らそう

第8話 マウスピースで音を鳴らそう


「腹式の練習はここまでにしとこか。」

息を整えた島岡は三浦にそういった。

「は・・・はい」

しかし三浦はまだ息が整っていない。腹筋もなんだかパンパンに張ってる感じがする。

「時間も時間やし、あとは教室で練習しよか。」

そんな三浦を気にせず、島岡はそういうとメトロノームを持ち校舎に向かって歩き出した。

そういえばもう渡り廊下にいるのは三浦と島岡だけだ。三浦は島岡のあとを追う。

二人は校舎内に入り、校舎の玄関まで向かう。

島岡が立ち止まったところは守衛室の前。そこには各教室の鍵が並んであった。

「教室で練習する場合は、ここに鍵を取りに来るんや。で、使い終わったらまた戻す。まぁ、簡単なこっちゃ。」

島岡はおもむろに「2-4」と書かれた教室の鍵を取り出した。


教室内に入り島岡は机の上に座る。足は宙ぶらりんだ。

三浦も島岡と同じように座った。

「次はこれや。」

島岡は制服の右ポケットから銀色の円錐状のものを取り出した。

「それは?」

「これはマッピちゅうてやな、ある意味楽器の心臓部や。金管楽器全部そうなんやが、このマッピを通じで音を鳴らすわけやな。こいつで音が鳴らんかったら楽器に付けても音はならんのや。」

「へ~これが」

と、三浦は島岡のマウスピースに触ろうとする。しかし、島岡はそれを許さなかった。

「おっと、これは俺のやねん。お前のはこっちや。」

そう言うと、制服の左ポケットからさっきのマウスピースと若干形状が違うマウスピースを取り出し三浦に渡した。

「まぁ、若干形が違うけど特に問題はあらへん。俺が1年の時に使ってた奴や。ちゃんと洗ってるから汚くないで。」

手にしたマウスピースを三浦はまじまじと見つめた。島岡のものより若干ずんぐりとしている。

「マッピで音を鳴らすわけやけど、音は唇の振動でならすんや。こんな風に・・・」

そう言って島岡はマウスピースを口にあて「プー」と鳴らした。

「いきなりは無理やから手で練習しようか~。はい、きりーつ。」

島岡はそう言い三浦を立たせる。

「まず、指を口にこう当ててみ。」

島岡は手をチョキの形にした。指の間はマウスピースの直径くらいである。三浦も真似をした。

「次に、口の両端を引っ張るように・・・違う違う、指でじゃない、唇の力だけでや・・・そうそう、そんな感じや。で、張った唇でその指の間に息が通るようにしてみ。」

三浦は言われたとおりにする。すると「ビー」という音がした。

「おっ!お前筋がいいな。天才ちゃうか。マッピでやってみ。」

三浦は指の代わりにマウスピースを唇に当ててみる。

同じ要領で息を出すと「ぷー」という音が出た。勿論、島岡の様なはっきりした音ではないが・・・

「お~お~、鳴る鳴る。ええ感じやな。もう一回鳴らしてみ。」

三浦は島岡の言う通りもう一度鳴らす。

その様子を島岡は真剣な目で見つめている。

「あれやな、あごをもう少し引いてみ・・・そうそう、それくらいや。その状態で吹いてみ。」

すると今度はもっとしっかりした音で「ブー」と鳴った。

「お、ええ感じになってきた。よし今度は腹式を意識して鳴らしてみよか。思ったとおり胸式になってるわ。肩が上下しとる。」

三浦は「しまった」と思ったが、島岡は別段怒った様子は無い。

三浦は、腹式を意識しマウスピースを鳴らしてみた。さらにはっきりと「プー」と音が鳴る。

「大分、様になってきたな。そこまで鳴るんやったらメトロノームも使おか。」

島岡はメトロノームに移動し動かす。

「2拍で吸って、4拍鳴らすんやで。ああ、腹式の練習みたいに全部の息吐かんでいいから。」

島岡の「さんしー」の声でマウスピースによるロングトーンが始まった。勿論、島岡も一緒に鳴らしている。音が大きく鳴るにしたがって、三浦の心が高ぶるのであった。


7時10分、音楽室に部員全員が戻ってきた。結局、三浦はその日一日マウスピースでのロングトーンに明け暮れていた。島岡は最後に家での腹式の練習方法を教え、マウスピースの持ち帰りを許可した。

唇というか口の周りがちょっと痛い。普段使わない筋肉を使っているのでちょっとした筋肉痛であろう。唇も何だか締りがない様な気がする。

「特に今日は連絡事項はありません、お疲れ様でした。」

「「お疲れ様でした」」

南川の掛け声で最後の挨拶をし、その日は終了した。


音楽室を出た三浦と鈴木は一緒に下校する。

「どうやった?そっち?」

三浦は鈴木の調子を聞いてみた。

「おう、トロンボーン楽しいで。ポジションの位置を教えてもらって色んな音だしたで。甲斐先輩が言うには筋がいいらしい。」

「え?」

三浦は一瞬戸惑った。まだ自分はマウスピースの段階で楽器には全く手を付けていないのだ。※1

「それに甲斐先輩ってそっけないけど、すげー美人だし。あんな人が彼女だったら最高だろうな~・・っておい、人の話を聞いてるんか?」

「・・・ああ、すまん」

「で、そっちはどうやったんや?」

「ああ、まだ楽器を触ってない。」

「マジかよ・・・まぁ、明日にでも楽器に触らして貰えるんでない?」

「だよなぁ・・・」

三浦は鈴木の話を聞いて「俺も明日こそは!!」、そう信じて家に帰ったのであった。

※1 楽器により鳴り易いものと鳴り難いものがあります。(個人差にもよりますが)トランペット・ホルンが鳴り難く、チューバが最も鳴り易いです。但し、鳴らすという行為おいてのみの比較です。いい音を鳴らそうと思えばどの楽器でも努力は必要です。


初日でいきなり三浦と鈴木に差が付きました。三浦はこのことにどう思うのでしょうか・・・

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