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第84話 合同定期演奏会・・・まずは前準備

第84話 合同定期演奏会・・・まずは前準備


「おら~手前(てめえ)ら、楽器積み込め~!!」

「「サーイェッサー!!」」

朝っぱらから、島岡の大きな怒声と共に楽器部々員たちがてきぱきと楽器をトラックに運ぶ。

そう、今日は『合同定期演奏会』当日。

予定としては、今から楽器を運び午前中にリハーサル。そして午後には本番が始まるのだ。

開場1時30分、開演2時と時間は余りにも少ない。さすがの遅刻常習犯『中嶋』も今日はきっちり時間通りに来ている。

「よっしゃっ!鈴木~三浦~トラックに乗れっ!!」

「「は、はい」」

いつもの手馴れた手つきで彼らはトラックの貨物室に乗る。最後に島岡が荷台に乗りドアが閉められる。

「着いたらちょっと休憩や。4人で運べる量なんて高が知れてるからな。それより楽器よう見とけよ。」

「そうですね、この量はさすがに・・・」

三浦は4トントラックに積んである楽器を見た。ティンパニー大小4つにベードラ、銅鑼、マリンバにシロフォンなどの大型パーカッションにチューバなどの大型楽器。小物で乗せれる物を含めると、とんでもない量である。コンクールの時よりも遥かに多いのだ。

そして島岡の台詞。倒れる恐れのある打楽器がある。そうチャイムである。特にこのチャイムは借り物なので毛布で厳重に包んでいる。島岡はしっかりと両足を床に付き、チャイムを軽く支えている。さすがに運転手は楽器搬送に慣れている更科なので、そうそう倒れることは無いのであるが、カーブを曲がる度少し揺れる。そんなちょっとした緊迫感の中、トラックは一路『森之宮ピロティホール』へ向かうのであった。

『森之宮ピロティホール』。このホールは客席数1030席あり、名前の通りピロティ方式(高床式)を採用した全国でも珍しい劇場である。演奏会の他にミュージカルや演劇等催されている。※1


一通り楽器搬送を終えた彼らは休むことなく音出しの準備を始める。男たちの楽屋は全員で大部屋だ。時間節約の為、カッターシャツと制服のズボンを履く。さすがに学ランは着ない。

音出しは個人個人その場で行う。軽くロングトーンやリップスラーが主だ。

すると扉から『トントン』とノックする音が聞こえた。

「三浦君、お客さんよ~」

少し開けた扉から岩本の声がする。さすがに男部屋なのでおおぴらには入ってこない。

「分かりました~今いきま~す」

三浦はそう返事をすると楽器を置いて扉に向かった。彼には客が誰なのか大体の予想がついていた。

「よう、三浦。久しぶり。」

やはり東であった。その後ろにはさらに二人の人物がいた。

「やっぱり東か~遠路よう来たな~。それと、樹にしおりちゃんも。それにしても見てないうちにしおりちゃん、ますます美人になったんちゃうか~」

「浩一さん、ご無沙汰してます。」

「ホント、恭一さんが言ってた通り、浩兄ぃすっかり性格変わったね・・・昔はそんな軽口言わなかったのに・・・」

樹はかしこまって、しおりは少し呆れて返事を返す。

「そ、そうか・・・」

三浦はしおりの言葉に少しがっかりする。

「なんや~三浦の連れか~」

そこに後ろから島岡が登場する。扉からひょっこり顔を出した状態はとても滑稽である。

「あっ、島岡先輩。そうなんです、わざわざ神奈川から来てくれたんですよ~」

「そうか~じゃぁ挨拶しとかんとな。三浦の先輩の島岡や。よろしく~」

島岡がそう挨拶をすると3人は揃って「よろしく」と返事をした。

しかし、東は少々戸惑い気味だ。三浦から聞いた話と顧問の村峰先生の噂から人物像を想像していたのだが、余りにも違いすぎたのである。しおりも「何だか締りがない人ね」と思っている。しかし、三田嶋だけは別だ。いつの間にかあの笑みをしている。誰にも気付かれずに・・・いや、島岡だけはその雰囲気を感じ取っていた。

「せ、せや~三浦~お前音出しもう終わったやろ~リハまで一緒に行っててもええで。うん、それがええ。それがええ。」

島岡はまるで三浦を追い出すようにそう言って楽屋に戻る。

「判りました。じゃぁちょっとロビーまで移動しようか。」

三浦は了承すると、3人を楽屋から連れ出したのであった。


「しかし、あの先輩。話の判る人だな。想像していた感じと全く違う。」

4人はロビーのソファーに座っていた。さすがにこの時間は誰もいない。

「そ、そうかな~一体どういう人を想像してたんや?」

「そうだな・・・もっと気難しくて取っ付き難そうな・・・そんな感じだな。」

「あっ私もそう思ってたわ。でも、実際は締りの無い感じの人だったわよね。」

しおりは中々辛辣な意見を言う。事実、その通りなのだが・・・

だが、三田嶋だけは違った。

「そ、そうですか?僕はどこか只者ではない雰囲気を感じましたけど・・・自然体の中に隙が無いというか・・・」

樹は自分の思ったことをそのまま言う。

「「え?そう?」」

その言葉を聞いた2人は声を揃えて言う。まったくそんな気がしないのだ。しかしそんな中、三浦は三田嶋の言葉を補填(ほてん)する。

「あ~いつもはあんな感じやけど、楽器吹くととたんに変わるから・・・樹の言うことも(あなが)ち間違ってへんかもな~」

「そんなものかな。まぁ、本番になったら判るか。」

東は若干納得いかないもののそう締めくくる。

「あっ、それより・・・」

三浦はそう言うと、しおりの傍に近づき耳打ちする。

「樹とはうまいこといってるんか?しおりちゃん。」

その言葉を聞いたしおりはちょっと顔を赤らめる。

「見たら判るでしょ、浩兄ぃ・・・全然です・・・」

「あ~そうか・・・まぁ気長に頑張れよ。初恋の相手が幸せになるの祈ってるわ。」

「もう・・・ホント、性格変わったね、浩兄ぃは。」

「おいおい、二人でひそひそ話か?どうせ(ろく)なこと話してないと思うが・・・」

二人の様子に東が横槍を入れる。

「そんなこと無いぞ、なぁ、しおり。」

「そうそう、何でもない話だから・・・」

「本当に昔っから仲がいいよな、お前らは。」

そうやって4人が雑談していると、楽屋から誰か来た様だ。

「三浦君、そろそろリハーサ・・・あれ?なんで君が?」

朝倉であった。三浦を呼びにロビーに来たのであろう。三田嶋に気付く。

「あっ!あのときのお姉さん。」

三田嶋も朝倉に気付くと少し大きな声で言った。

「あれ、朝倉。樹のこと知っんの?」

三浦もこの展開は読んでいなかった。思わず声が上ずる。

「知っていると言うか・・・たまたま『大阪城公園』でね。」

「あの時は本当に助かりました。ありがとうございました。」

三田嶋はそう言うとお辞儀をする。

「いえいえ、どういたしまして。私、朝倉って言うの。よろしくね、樹君。」

「あれ?僕名前言いましたっけ?」

三田嶋は不思議な顔をする。名前を名乗った覚えがないからである。

「だって、三浦君が今言ったじゃない。『樹』って。」

朝倉はクスクス笑いながら言う。

「あっそうでしたね。では改めて、『三田嶋 樹』って言います。朝倉お姉さん。」

そしてまたお辞儀。本当に頭を良く下げる子である。

「お姉さんって・・・なんか照れるわね。」

朝倉はちょっと顔を赤くして言う。

しかし、その和気藹々とした二人を良く思っていない人物がいた。神崎である。

(もう、三田嶋君ったら。普段はあんな笑顔見せないくせに・・・この朴念仁(ぼくねんじん)!!)

そこにはデレはなかった。ツンツンである。呪い殺さんとする位の冷徹な視線で二人を見る。

横にいた東はその様子を見て冷や汗を掻く。

(おい、三浦。なんとかしろよ。)

東は三浦に目で合図を送る。

(なんとかっていってもな~)

三浦もその合図を受け取りこれまた目で返した。三浦の目の前には、春の暖かい日差しの中に豪雪の吹雪が荒れ狂うという、なんともいえ難い光景があった。

(あっそうか・・・)

三浦は取りあえずの解決策を思いつく。こういう場合は即実行である。

「朝倉~そろそろリハ始まるんやろ。早よいこ~」

(三浦、ナイス・・・って、ちょっと待て!!)

そう三浦はそそくさと朝倉を連れて脱出したのは良いが、その場に残されるのは東だけだ。勿論、三田嶋もいるが戦力にはならない。雪の女王と化している神崎の前に、それは余りにも無力であった。

神崎はニヤリと微笑む(器用である)と、その鬱憤(うっぷん)を標的の東にぶつけたのであった・・・


※1 本当にあるホールです。HPもありますので雰囲気を楽しみたい方は是非検索を・・・


とうとう『合同』本番です。そして『奏』から東たちが再登場です。しかし、私が書くと何故か女性キャラが壊れます・・・なんででしょうね・・・


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