第81話 ロードってなあに?
第81話 ロードってなあに?
「全部員整列!番号!!」
「壱!」「弐!」・・・
期末試験も終わり、『合同』ももうすぐという頃、平田名誉楽器部長の掛け声により楽器部が始動する。この楽器部、部員は男子とパーカッションパートからなっている。
さて、朝からなぜ彼らはこんなことをしているのかというと、話は数日前にさかのぼる。
「ロード・・・ですか。」
「せや、ロードや。ほれ、阪神がよ~夏の甲子園の時にやってるやろ。あれや。」
三浦はその言葉を聞くと少し考えた。理由はすごく簡単である。
「・・・入試ですか?」
「せや、入試前後は学校内は立ち入り禁止になるからな。そこで暫く学校外で練習するのを俺らの間で『ロード』って呼んでるんや。楽器も全部音楽室から持ち出す。」
「パーカッションも・・・ですか?」
「当然やろ。学校には入れないからな。一切合財持ち出すんや。そこで問題はティンパニーやベードラとかの大型楽器や。」
さすがにここでティンパニーなどが出てくるので三浦は当惑顔だ。意味が分からない。
「なんでですの?」
三浦は素直に聞いてみた。
「それはな、運ぶときに保護する箱がないねん・・・コンクールや合宿で見たやろ?ダンボールのお手製や。」
「あ~なるほど。確かにあれ・・・結構ボロボロですもんね。」
三浦は島岡の言葉に納得した。そして一つの結論に達する。
「ということは・・・補強が要りますねぇ・・・」
「まぁな。近いうちにするはずや・・・」
そして冒頭に戻る。
「ではこれより、ダンボール集めを行う。一号車の車長は俺、二号車の車長は島岡や。移動開始!!」
平田の言葉で選抜された6名が移動を始める。格好は軽作業がしやすい服に軍手である。
三浦は一号車に属している。もう一人の相方は寺嶋だ。なんとも濃い面子である。
ある意味彼らの作業は、流れるように滑らかだ。平田がリアカーを引き二人が補助。そして靴屋などのダンボールが多くあるところに着いては、店の人と交渉する。しかし、根こそぎは行わない。理由は本来それで生活の糧としている人たちがいるからだ。彼らから反発を受ければ来年からの作業に影響を受ける為である。
また、スーパーなどでは使えるダンボールの選別が行われる。野菜等で濡れているものは使えないのだ。彼らの素早い活躍でリアカーはダンボールで一杯になった。
(これ・・・来年から俺らでするのか・・・)
三浦の素直な感想である。だが、若干安心はしていた。彼らが2年になっても3年には島岡や沢木などのこれまたエキスパート(?)がいる。彼らがいる限り楽はできるだろうと三浦は考えたのであった。
集め終わったダンボールが音楽室階下の踊り場の前に積み上げられる。そして、音楽室からは以前からある箱とガムテープが下ろされる。
「今回は補給物資が多い。よって新たに作成する。分かったか!!」
「「サー・イェッサー!!」」
平田の号令と共にそこにいる全員が掛け声をあげる。寸法は前の箱がある為、その通りに着々と進められた。基本的にダンボールを折り曲げて布製のガムテープでくっつける。紙製では駄目だ。強度が不足する。そして、継ぎ目には上から更にダンボールの切れ端で補強する。
仕上げは底や壁に緩衝材を敷き詰め完成する。
「「「で、できた~」」」
まさに手作りの楽器ケース。感無量である。
さっそく、テストとしてティンパニーやベードラを入れる。寸法は間違っていないので綺麗に入った。
さて、これで作業自体は終了なのであるが、余ったダンボールがかなりある。普通ならこの処分に困るのであるが・・・
「さぁ、平田タクシーの出発だ!!」
二号車に余ったダンボールを乗せ、空となった一号車には・・・部員が乗る。そう、最後はリアカーを貸してくれた『相田商会』に返すのであるが、それまで乗って遊ぶのだ。勿論、余ったダンボールは『相田商会』に引渡し換金する。
ぐんぐん勢いの付いたリアカーはものすごいスピードで校門を目指す。そして、慣れたコーナーリングで一気に曲がる。長年培った(?)高等テクニックである。公道に出てからもその勢いは止まらない。
一応、リアカーは軽車両に属します。交通規則は守りましょう・・・
帰りは駄菓子屋で人数分の飲み物を買い、今日の疲れを癒す。まさにこの作業は丸一日要するのである。初めから終わりまで、誠に有意義な一時であった・・・
「広いですねぇ・・・」
「まぁな。別に『大阪城公園』まで足伸ばしてもええけど、ここで十分やろ。」
三浦たちは大阪府庁の近くにある『難波宮跡公園』にいた。ロード先は、『森之宮青少年会館』の近くにある『市立中央青年センター』の講堂を借りている。毎年、ロード先はここである。ちなみに、本番で演奏する『森之宮ピロティーホール』もこの近くだ。歩いて行ける距離にある。
各パートは音出しの為にこの公園に着ている。勿論、『大阪城公園』まで足を伸ばすパートも居るが少ない。楽器が軽いトランペットやフルートがそちらに行った様である。
いつもと違う環境で吹くのは新鮮だ。夏合宿を思い出す。
「とっとと基礎練して戻るで~今日からほとんど合奏や。」
「「「「はい」」」」
島岡の言葉に4人は大きく返事をする。
春先の心地よい風と楽器の大きな音が彼らを包む。
もう『合同』はすぐそこなのであった。
さぁ、『合同』まであと少し。最後のスパートをかけます・・・




