表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/115

第80話 戦力の再集結

第80話 戦力の再集結


時は2月下旬。そろそろ『合同』まで一ヶ月を残す頃であった。


「ねぇねぇ、陽子ちゃん。大学大丈夫そう?」

今は昼休み。お弁当で浅井と共にランチをとっている藤本は浅井に話しかけた。

「ん~共通一次は何とか・・・後は本試験ね。」※1

「そっか~じゃぁ『合同』は無理そうね・・・」

浅井の言葉に藤本は残念そうに言った。

「まぁ、今頑張らないと駄目だからね。良子ちゃんは出るの?」

「うん。出るよ~一部だけだけど・・・」

「あ~『エルカミ』だったわよね。いいなぁ~私も出たかったわ。」

浅井もちょっぴり残念そうに言う。

「いいじゃん、出ようよ。卒業式前くらいには受験終わるでしょ?」

藤本は目を輝かせて言う。中学から今まで連れ添った親友である。最後の『合同』に一緒に出たいのであろう。しかし・・・

「でも・・・島岡君たちに迷惑かかるじゃない。この前こっそり見に行ったけど、あれに付いて行く自信ないわ・・・」

「そっか~でも、島岡君は『一緒に出ましょうよ』って言ってたわよね~確か。」

「そうなのよね~あの人懐っこい笑顔で言われると、ほんと断れなくなるわ。」

浅井は一回溜息をついて言う。

「もう、甘えて出ればいいじゃん。陽子ちゃんならいけるって。」

「もう、人事(ひとごと)だと思って・・・いいの、もう私は引退。大学に入ったらまた考えるわ。それに、私がいなくても新しく入った大原さんや3年から石井君も出るし・・・」

「あ~あの子かぁ。入って間もないのにめちゃめちゃ吹けてたわよね。楽器も買ったらしいし。」

「それも『アレク』よ。羨ましいたらありゃしない。」

「そうそう、そこでお姉さんから一言ガツンッと・・・」

「言わないわよ。もう、どうしても私を引っ張り出したいわけ?」

「だってだって、私の陽子ちゃんなんだもん・・・」

「それって・・・私そういう趣味ないわよ?」

と、このようにまだまだ受験で出れない3年生もいるが、進路の決まった人は随時練習をしていた。


「辻本く~ん、ここ~まだ出来てないわよ~?」

「辻本君、ここのアタックはもうちょっと強めで。」

「辻本~、のどが沸いたからジュース買って来て。」

そう、帰ってきたのだ。クラリネット3人娘が。前田・菊野・上田の3人だ。

さすがに元々上手い3人。あっという間に譜読みをして、辻本たちに追いついてた。

(まだ・・・まだ暫くこれが続くのか・・・)

相変わらずターゲットにされている辻本は、がっくりと首をうな垂れた。

(・・・辻本君・・・生贄頑張って・・・)

教室の扉の影から岩本がこっそり覗く。

この尊い犠牲で、クラリネットパートは一気に戦力が充実したと言ってよかった。

さらに、ユーフォニウムの平田、トロンボーンの本田、さらに去年の学生指揮者であった野田(のだ)も練習をしている。

彼のパートはトロンボーン。中学からしている経験者で楽器の腕も確か。さらに頭も切れる。しかし・・・さすがにあの3人と渡り合える人物。その奇人ぶりも尋常ではない。そう・・・常にテンションが異常に高いのだ、彼は。

これで3年の男子、石村・寺嶋・平田・野田と全員揃ったことになり中低音も安定する。

勿論、パーカッションの平峯・武田コンビも嬉しい復帰である。

平峯の豪快なティンパニー、武田のテクニカルなスネアなどその腕は健在だ。

だが、人ばかり戦力が向上したわけではなかった。

そう、新たに今まで無かった楽器が合流するのである。


「なぁ、金沢~」

「なんや、島岡」

それは音楽室での出来事である。合奏もそろそろ始まる頃となり、ホルンパートはいち早く音楽室に戻っていた。

「これ・・・今まであったか?」

島岡は大きな金属のふたを縦にしたような楽器を指差す。銅鑼(ドラ)である。

「あ~これか・・・さっき届いたんや。」

「そうか~どっかの学校から借りてきたんか?まぁ、伊藤ちゃんが手配したんやろ。」

「いや?違うで?」

島岡の言葉を金沢は否定した。それを聞いた島岡は不思議そうな顔をする。

「ん~じゃぁどこから・・・まさか下の部屋からか?」

「んな訳ないやろ。あそこにあったらすぐ判るわ。」

これまた否定だ。島岡は首をひねる。

「じゃぁ、一体どこから・・・」

その答えを知っていたのは奥にいた伊藤だ。

「その銅鑼・・・大沢さんが買ってきてん。」

「・・・銅鑼をか?」

「そう、銅鑼を。」

「なんか、全然結びつけへんのは気のせいか?」

島岡は唖然として言う。勿論、伊藤もである。

「私も何がなんだか・・・」

さらにその謎の理由を知っている人物が現れた。柏原である。

「あ~それな~大沢さんが『銅鑼なかった困るやろ~』いうて、ポケットマネーで買ってんて。で、学校に寄付したみたいやで。」

「「「ポケットマネー?・・・寄付?!」」」

島岡・伊藤・金沢はハモッて言う。それはそうだ、大沢はトロンボーン奏者であって銅鑼とはまったく結びつかない人物である。その人が自腹で買い、さらに学校に寄付したのだ。驚かずにはいられない。

「まぁ、あの人医者やからなぁ・・・金はある言うてたわ。一緒に新しいトロンボーンも新調しとったし・・・」

「「「・・・」」」

あまりの豪快さに3人は声がでない。

しかし、この銅鑼も大きな戦力には違い無かったのであった。


※1 共通第1次。大学共通第1次学力試験のこと。この頃はまだセンター試験になっていません。


久しぶりの人も新しい人も出てきました。そして新しい銅鑼も・・・

この銅鑼、本当に大沢さんがぽ~んと自腹で買って寄付して戴きました。本当、金持ちの金銭感覚はどうなっているんでしょうね・・・

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ