第71話 今宵最後のコンサート(前編)
第71話 今宵最後のコンサート(前編)
軽音楽とは、クラシック音楽や伝統芸能に属する音楽に対して、商業的に流通された気軽に聞くことのできる比較的小規模な音楽をいう。(ウィキペディアより抜粋)
この話はテスト休み中に起こった。場所は三浦の説教部屋・・・もとい、音楽室下の部屋での出来事である。
このテスト休み中、部活は午後からであるが、相変わらず三浦は午前中から練習の為に音楽室にいた。そこには、島岡・南川・柏原・金沢・辻本・中嶋・朝倉と結構な面々がいた。
三浦は外でホルンを吹いていたのであるが、休憩しようと音楽室に戻った時のことである。
「三浦~ちょっと探し物手伝ってくれへんか?」
南川が三浦にそう言った。
「え?いいですけど、何を探すんですか?」
「んとな、『クリスマス会』に使うクリスマスツリーなんやけどな。」
「へ~『クリスマス会』ですか。どこかで演奏でもするんですか?」
三浦は吹奏楽部であるならそういう依頼演奏があるのかと思い、普通に尋ねた。しかし、答えは・・・
「いや?俺らの『クリスマス会』に演奏なんかせえへんやろ。」
「俺らの・・・ですか?」
三浦は南川の答えに不思議そうに尋ねた。
「せや。毎年クリスマスに部員と『ウィンド』でクリスマス会するんや。親睦をかねてな。」
「あ~なるほど~」
三浦は南川の答えに納得がいった。『今高ウィンドオーケストラ』はOBが中心になって運営している団体とは言え、それほど多く会うわけではないのだ。こういった親睦は必要である。
「じゃぁ、行きましょうか。大体の目星は付いているんですか?」
「ああ、そういう小物は下の部屋やな。」
「あの部屋ですか?」
三浦は少し嫌そうな顔をする。音楽室の下の部屋には余り良い思い出がないからだ。
「とりあえず、行こか。」
南川はそんな三浦の気持ちもお構い無しに下に降りていく。三浦は「しかたがないな~」と思いながら続くのであった。
しかしこの部屋は、本当に何でもある。小物はバレーボールやバスケットボールにサッカーボールという戦利品からトランプ・花札・株札・マージャン牌まで、大物はベニヤ板の残骸(体育祭で使われたものであろうか?)やら古いオルガン(しかも音がちゃんと鳴る)や古びたダルマストーブ、さらに何故かコタツとコンロと土鍋のセットまで出てきた。まさに過去の今高吹奏楽部のいたずらの歴史を見ているようだ。
そんな中二人はがさごそと目的のものを探していると、南川はふとあるものを見つけた。
「なんや、エレキギターとベースがあるやん。それに小型のアンプも。」
三浦は以前入ったときにそれらがあるのを知っていたが、南川はどうやら知らなかったようである。(『第10話 彼の実力』参照)
すると外から声がした。
「南川~ツリー上にあったで~」
ガラガラと扉を開けて入ってくる二人。柏原と島岡である。そんな二人に南川が軽く声を上げる。
「そうか~どこにあったんや?」
「ティンパニーの箱の横に何故かあったわ・・・って、それギターやん。どうした?」
島岡はそういうと南川の持っているエレキギターをシゲシゲと見つめる。いつもトランペット姿を見慣れているので「似合わんな~」と思ったのである。
「いや、この部屋にあったんや。誰のやろうな?」
南川は手に持っているエレキギターを見て不思議そうに言う。
「どれどれ。」
柏原はそういうと南川の手からそのエレキギターを取る。そしてストラップを肩に掛け、弦を奏でる。小さく音が鳴る。
「なんや、状態全然問題ないやん。チューニングがちょっとおかしいけどな。」
軽く触った柏原はそういった。
「柏原先輩、ギター弾けるんですか?」
「まぁな。エレキギターは始めてやが、アコースティックを中学のときちょっとな。」
三浦の問いに柏原は少し笑って言うと、さらにプリングで弾き始める。小さい音であるが次々とコードが代わる。中々上手い。
「じゃぁ俺はこっちかな。」
島岡はそういうとさらに奥にあるベースギターを手に取る。軽く弦の状態を確かめると、人差し指と中指で弾き始める。8ビートだ。これも中々様になっている。
「なんや?お前、ベースの腕上がったんちゃうか?」
柏原はギターを弾きながら島岡に言った。
「そっか?高校入ってからベース弾いてへんけどな・・・でも、こうやって久しぶりに弾くと曲したくなるな~なんかするか?」
「あほか。ベースと違って、こっちはピックないときついわ。」
島岡の言葉に柏原はそういって反応する。一通り弾いたのか二人とも演奏を止めた。
その様子をみていた南川はふと何かを思いついたようだ。
「そうや、折角やからバンドでも組んでみよか~『クリスマス会』で披露するんや。」
「へ~まぁ、たまには面白いかもしれへんな。俺はかまへんで。」
「やろや。どうせならブラスででけへん曲にしよ~」
「あ、なんか面白そうですよね、それ。」
南川の提案に島岡・柏原・三浦は同意する。4人は手にギターとアンプを持ち音楽室に戻ったのであった。
「で、何にする?曲。」
柏原の発言にそこにいる7人は「う~ん」と考え込む。すると三浦は何か思いついたのであろう、発言をした。
「折角、ラッパやサックスあるんやから、それも取り込んだ方が面白いかと思います。」
「あ、そうか。なら・・・米米やな。『ビッグ・ホーンズ・ビー』あるから、普通の軽音とちゃうで~」
三浦の提案に南川は答える。しかし、耳慣れない言葉が三浦を不思議にさせた。
「その『ビッグ・ホーンズ・ビー』ってなんです?」
「米米にあるホーンセクションのことや。そこにラッパとかボーンとかサックスがおる。」
「それええな~やろうぜ」
南川の案に金沢も乗り気だ。手に持っているスティックを軽く回す。
「じゃぁ~楽器割り振ろうか。」
そうと決まれば話が早い。柏原が早速動き出す。
「まずはドラムとかホーンセクションはそのままやから簡単やが、ベースは島岡、お前やるか?」
「ええで~、ホルンすること無いし。で、ギターはどうするんや?」
島岡は軽く了承する。どうも二人は以前バンドをしていたようである。
「ギターなぁ。俺ラッパしたいからどないしよ・・・」
島岡の言葉に柏原は悩む。が、すぐさま思いつく。
「ホルン暇やと言ったな・・・よし、三浦、お前がギターや」
「ええええええええ~!僕したこと無いですよ?」
三浦は突然の振りに驚いた。
「大丈夫や、ベースとドラムが安定しとるからいけるはずや。な、俺がみっちり教えたるから。」
「はぁ~そういうことなら・・・」
「よっしゃ決定な。」
三浦は柏原の説得にしぶしぶ承諾する。しかし、ある人物が声を上げた。
「あれ、俺なにするんや?」
辻本である。さすがにホーンセクションの『ビッグ・ホーンズ・ビー』にもクラリネットは無いのである。
しかし、柏原はニヤニヤ顔だ。
「大丈夫、お前の体格を生かしたぴったりのポジションがある。」
「え?なんや、なんや?」
辻本は興味津々だが・・・
「ジェームス小野田や。しっかりメイクしたるからな。」
「・・・それって・・・ちょとまて~~~!」
辻本の悲痛な叫びが音楽室に響き渡ったのであった。
そうして、各パートが決まっていく。その内容はこうである。
即席バンド『今今クラブ』
メインボーカル:南川
サブボーカル:辻本
エレキギター:三浦
エレキベース:島岡
ドラム:金沢
その他パーカッション:伊藤・古河・大原
トランペット:柏原・沢木・丸谷
トロンボーン:中嶋・鈴木
サックス:朝倉・山郷
さてさて、どうなることやら・・・
いきなり始まった『軽音』活動。果たして、近づく『クリスマス会』に間に合うのか。(特に三浦君)
ちなみに、私はギターの知識はありませんのであしからず・・・