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第68話 ウィンドの実力者たち

第68話 ウィンドの実力者たち


季節の移り変わりも速く、11月半ばのある日曜日のことである。

日曜日と言えば・・・そう『合同』の練習日である。


音楽室には小難しい顔をした男が居た。小柄ではあるが薄いサングラスし、ぼさぼさ頭に口髭を生やしたどこか近寄り難い雰囲気の男である。三浦はその男性を今まで見たことが無い。

三浦は『ウィンド』の誰かと思い、島岡に聞いてみた。

「あの人・・・誰です。」

三浦は余り失礼にならないように、その男に指を少し指して尋ねる。

「あ~、もしかして初めてか会うんわ。ほれ、『ウィンド』の指揮者の馬島さんや。」

「へ~あの人が。どんな方なんです?」

「馬島さんは普段、中学の社会の先生や。吹奏楽部の顧問もしとるはずや。」

島岡は三浦の質問に答えていく。しかし、さらに別の人物が口を挟んだ。

「それだけちゃうで~」

「「更科さん」」

二人は唐突な更科の登場に思わずハモる。

「馬島さんはその中学の吹奏楽部で、今年支部大会まで行ったで。確か『銀』やったはずや。」

「支部大会ですか・・・」

それを聞いた三浦はちょっと唖然とした。大阪の場合、『地区大会』から『府大会』を経て『支部大会』。そしてその先は『全国大会』となる。ご存知ではあると思うが、今高高校は『地区大会』の『金』止まりである。そんな三浦の様子も関係無しに更科はさらに話を続ける。

「あと、我らホルンパートの大先輩や。松島が吹いてるセミダブル、あれ馬島さんの楽器やで。」(第21話 再スタート参照)

「あ、そういえば・・・」

更科の言葉で三浦が思い出す。そういえばそうであったと。

3人はそうやって馬島の話をしていると、向こうも感づいたのであろうか、こちらにやってくる。

「おっ、島岡、久しぶりやな。そっちのは三浦君だな。更科から話は聞いてるよ。『ウィンド』で指揮している馬島や。」

「お久しぶりです。楽器の時はお世話になりました。」

「は、初めまして。三浦です。」

島岡と三浦は言葉は違うが挨拶をする。

「かまへんかまへん。どうせ倉庫で埃かぶっとったやつや。吹けるやつに吹いてもらった方が楽器も喜ぶやろ。じゃぁ、あとは合奏でな。」

見た目とは違い気さくな人物に三浦は少しホッとした。合奏が楽しみである。

しかし、今日もまた『ウィンド』の面々が多い。特に島岡への挨拶は群を抜いて多かった。やはりこの麒麟児(きりんじ)に対するこれからの期待が大きいのであろう。

「よう、島岡~今度アンサンブルせぇへんか?演奏依頼来てるんやが、最近更科さんとばっかりやから飽きてきてな。」

これはチューバの城山である。体も大きく精悍な顔つきで見た目はプロレスラーの様である。

「島岡君。君なら『フリューゲルホルン』も大丈夫だろ?トランペットに来ないか?」

今度はトランペットの広沢である。彼はこの『ウィンド』では珍しく今高高校のOBではない。出身は愛媛県である。中肉中背の男であるが、学生の頃は『全国大会』まで行き、音楽に対しての知識の幅も広い。普段はトランペットであるが、『コルネット』や『フリューゲルホルン』も吹き、その所持楽器数はトランペットを含めると6本も持っている。※1※2

この広沢・城山と更科、大沢、大橋で冬の『アンサンブルコンテスト』で金管5重奏で出場し、『支部大会』の『金』を受賞したという実力者たちである。

そして各パートが基礎練習が終わった後、合奏が始まる。

「1年の人は初めまして。『ウィンド』で指揮させてもらている馬島です。では早速合奏をしましょうか。」

指揮台に立った馬島は丁寧な口調で挨拶をする。

「では、軽くB♭からB♭で音を合わせましょうか。」

「「はい」」

馬島はそういうと、大きく息を吸ってゆったりと指揮棒を振る。大きく流れながらも打点がしっかりとしており非常に見やすい。ちょうど1小節の空振りの後、一斉にロングトーンが始まる。

始めは余りピッチが合っていなかったが、そこは各自で合わせる。さらに微妙に合っていない人には、馬島から高い低いの合図を送っている。そして終盤に差し掛かると見事なピッチで揃うのである。

「では、『プロムナード』から。」

「「はい」」

2拍の空振りの後、大橋のトランペットが華々しく響き渡る。澄んだ美しい響きだ。それに続き三浦たちの和音が入る。さすがにホルンパートの現役5人は、この部分を一音符づつばらして和音を合わせていた為、美しい和音となっているが、他のパートは違う。すかさず馬島は指揮を止める。

「ん~ここはきっちりと和音がはまるはずなので、もっと聞き合って。頭から。」

「「はい」」

以前更科が言ったことと同じ指示をする。やはりこういうところの基本は同じである。

ところで、一般バンドである『今高ウィンドオーケストラ』なのであるが、その中にもプロの奏者がいる。いや、元プロと言った方がいいであろうか。サックスの『馬島美冬(みふゆ)』がその人であり、名前からも分かるとおり、指揮者の馬島の奥さんである。その片鱗は『古城』で威力を発揮する。

中低音の旋律の後サックスのソロが入る。その音は太くそして深い。本来ならば独特の艶っぽさのある楽器なのであるが、この場面ではいらない。実直な重く深い音が必要である。

三浦はサックスのことは分からないが、この音を聞くだけで現役のサックスの音色などおもちゃのように思えてしまった。

そして忘れてはならないのが、コンクールで指揮を取った河合である。

『ビドロ』が始まる。ここのユーフォソロは河合である。チューバの伴奏に乗りユーフォの果敢(はか)なげかつ重い音が入る。彼はまだ学生なのであるが、その演奏はプロと言っても過言ではないであろう。さらにチューバは重い。ここの箇所はまさにこの2つの楽器によって演奏されていると言っていいだろう。

このように『ウィンド』は中々の実力者が揃っているバンドなのである。

※1 コルネット。外観はトランペットの様にも見えますが、トランペットをひと回り大きくしたサイズで音質はトランペットよりも柔らかいのが特徴です。勿論、トランペット奏者が吹きます。

また、パート譜が別になっている場合は曲のジャンルが『コラール』『カンタータ』『得賞歌』など、緩やかな流れが統一的に行われる、いわゆる『眠い曲』に使われることが多いです。実際は、コルネットを揃えきれないのでトランペットでコルネットパートを吹きますが・・・

※2 フリューゲルホルン。若干トランペット様にも見えるのですが、まったく構造が異なり管が若干太めに設計されております。サクソルン族の楽器の仲間に入りますね。こうなるとトランペットとはまったくの別楽器ですが、トランペット奏者が吹く場合が多いです。

コルネットよりさらに柔らかい音質で、大人なちょっと『エロイ音』をだすことができるのが特徴です。

ポップス系統に多く使われ、ブルースやジャズ、ボサノヴァなどアメリカのブレイクミュージックに多く使用されます。


さて、本格的に書き始めた『ウィンド』の人たちです。いつもの面子+αですが・・・彼らに関してはまた徐々に書くつもりです。

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