第66話 幹部会議with企画会議
第66話 幹部会議with企画会議
「何か連絡事項はありませんか?」
『合同』練習の終わりのミーティング。南川の声が音楽室に響く。いつもの練習のように7時ではなくまだ5時である。
ここには現役・ウィンド合わせて70人近く居る。いつのも倍だ。普段は広く感じる音楽室であるが、もの凄く狭く感じる。
「いいか~」
その中、河合が手を上げる。
「はい、河合さん。どうぞ~」
南川がそういうと河合が席を立つ。
「え~と、今日幹部会議が終わった後、企画会議するから企画係の人は一緒に来てや。」
「「はい」」
皆が返事をすると、河合は席に座った。
「他にありませんか?」
南川がその後に言う。しかし、誰も無いようである。
「では、お疲れ様でした~」
「「お疲れ様でした」」
いつもの締めの言葉が出ると解散する。
「三浦~お前も企画係やったよな~」
島岡は三浦に声をかける。
「ええ、そうですよ。でも、場所はどこでするんですか?」
三浦がそう問うと島岡はすかさず答えた。
「あ~駅の近くにでかいサ店あるやろ~そこや。」
ところ変わって『喫茶店フランソワ』。島岡が言ってたでかい喫茶店である。とは言っても、『合同』のメンバーが全員入るのは無理だが・・・しかし、50人位の収容力はある。
彼らは入って直ぐ左にある壁際の一角を占拠していた。『ウィンド』側からは団長である大沢を筆頭に大橋、更科、酒井等々いかつい顔ぶれだ。ちなみに、ホルンの大田は当直の為ここにはいない。
現役側は、部長である南川を筆頭に、古峰、岩本、柏原・朝倉・大倉・犬山・近藤が出席していた。
さて、三浦たちはどこにいるかというと・・・ちょっと離れたところでひっそりとたたずんていた。向こうは幹部会議、こちらは企画会議だ。『ウィンド』からは河合と同じユーフォニウム奏者である小谷という女性がいる。現役からは島岡・辻本君・山郷・三浦・鈴木である。本来なら柏原・近藤も企画なのであるが幹部会議優先だ。
「今日が初顔合わせやな~、よろしく頼むで~」
「「はい、よろしくお願いします。」」
河合の挨拶に三浦たちは元気良く答える。
「そやそや、小谷と1年はあんまり面識ないなぁ。それぞれ自己紹介しよか。」
河合がそういうと小谷はゆっくりと席を立った。
収まりの悪い長い髪に黒縁眼鏡とどっかで漫画を書いていそうな女性である。
「あ~小谷です。ユーフォです。よろしく。」
そしてそっけない挨拶であった。しかし、彼女も河合と同じく芸大生。ユーフォの腕は確かである。
先頭がこうであるから当然その後は・・・
「三浦といいます。パートはホルンです。よろしくお願いします。」
「鈴木です。パートは・・・・」
と、これまた短い挨拶が続く。しかし、周りはマイペースな山郷を筆頭に島岡・河合である。気にするものはいない・・・
「じゃぁ、企画会議始めよか~島岡、あと頼む。」
「・・・え?俺?」
突然のご指名に驚く島岡。しかし、河合は容赦なく押し付ける。
「そりゃそうやろ。2部は合同言うても実質現役のステージやで。去年も平峯が取り仕切ってたやろ。今年はお前や。」
「まぁ・・・しゃぁないな。じゃぁ、何か案あるか~」
「「・・・」」
イキナリ説明も何もなしに始まる会議。そんな中で案が出るはずも無い。特に三浦・鈴木は唖然とした。山郷は・・・うん、マイペースだ。ストローの紙でせっせと何かを作っている。
「と、とりあえず、去年は何をしたんですか?」
三浦は何とか持ち直し説明を求める。
「あ~そやったな・・・確か『ミュージカルもどき』しましたよね。」
島岡はそう言って河合に説明を求めた。まさに擦り付けあいだ。
「せやせや、台本書いてそれに合わせて曲決めたな。お陰で曲決まったのが2月の半ばやったで。台本で時間のほとんど取られたわ。」
「それで・・・何曲したんです?」
「5曲や。『パリのアメリカ人』やら『タイプライター』とか『天国と地獄』とかやったな。」
「なんかコミカルな曲が多いですね」※1※2※3
曲名を聞いた三浦が答える。どれも一度は耳にしたことが有る曲ばかりだ。
「そりゃポップスステージやからな。ちょっと前は、『帰って来たヨッパライ』とかやったで。」※4
「そ、それは凄いですね。」
三浦はポップスステージの曲の広さにびっくるする。今高祭顔負けのラインナップだ。
そうなると、これらに負けないくらいの曲を集めなければならない。大曲とは違う意味でだ。何でもありとはいえ、ここで『一組』とか『アルヴァマー序曲』はできない。
そこで島岡が思い出したかのように言った。
「そやそや、まずは2部のテーマ決めんとな。すっかり忘れとったわ。」
「「そんな大事なこと忘れないで下さい!!」」
島岡のいつものボケに三浦・鈴木は突っ込む。
しかし、いくら突っ込んだところで建設的な意見はでない。そうこうしているうちに幹部会議は終わったらしく、柏原・近藤がこちらに合流する。
「よ~う、こっち終わったで~」
「おっごくろうさん。」
柏原の言葉に島岡は気軽に答える。
「で、テーマ色々でたか?」
柏原は島岡に聞くが・・・
「聞いて驚くなや~、ゼロや。」
島岡は何故か威張って言う。
「そこで威張るなや、アホが。というか、この展開読めとったけどな。」
柏原も負けずに威張って言う。
「お前も、当然な展開にえばってどうする。まぁ、そういうお前や。何かええ案あるんやろ?」
島岡は柏原の様子にピンとくるのがあったのであろう。すかさず聞いた。
三浦も柏原の話に興味津々だ。勿論、今までストローの紙で黙々と作品を作っていた山郷も顔をあげる。
「それはな・・・」
柏原はもったいぶりながら話す。皆は静かにその後の言葉を待つ。
「いっそのこと、サンバ系で曲集めて最初から最後までサンバで繋げるんや。どや、面白そうやろ。名付けて『ノンストップ・ザ・サンバ』や。」
こうして『合同』の第2部のステージのテーマは決まった。ある意味この即決は、リーダー役の島岡のいい加減さによる処が大きかったが・・・
※1 『パリのアメリカ人』。ジョージ・ガーシュウィン作曲。「シンフォニックジャズ」と呼ばれるジャンルらしいですが、コミカルな曲です。
※2 『タイプライター』。ルロイ・アンダーソン作曲。本物のタイプライターとオーケストラが融合した曲です。一度は耳にしたことは無いでしょうか?とわ言え、1950年に書かれた作品なので、当時のタイプライターで演奏することは・・・
※3 『天国と地獄』。ルロイ・アンダーソン作曲。これも有名な曲ですね。まさに雰囲気は『追いかけっこ』という感じです。
※4 『帰って来たヨッパライ』。ザ・フォーク・クルセダーズ歌。『オラはしんじまっただ~』という歌詞とは反対に明るいコミカルな曲です。
あっさり決まった第2部のテーマ・・・さてどんな曲が集まるのやら。