第6話 決めたパートは・・・
第6話 決めたパートは・・・
各パートを回った二人は、岩本から入部するのであれば返事は早めにと、一言貰って音楽室から出た。パートの募集人員の兼ね合いがあり、先着順で締め切ると言うことだ。
そんな二人は、帰りの地下鉄の中で話をしていた。
「三浦~、吹奏楽部に入るんか?」
「俺はそのつもりやけど?先輩も面白い人たちばっかりやし。お前はどうするん?」
「せやな~特にこのクラブって決めてないからな。まぁ、あそこなら退屈しなさそうやな。」
「そうかそうか、じゃぁ、吹く楽器は決めたん?」
「明日のお楽しみや。お前は?」
「じゃぁ俺もそうするわ。」
翌日、二人は放課後になると直ぐに音楽室に向かった。
まだ、部活が始まる時間前だったのであろう。部員は少なくちらほら見かけるくらいだ。
しかし、二人を見かけた部員たちは「お~」とか「やった~」とか大きな歓声を上げていた。
「さっそく来てくれたのね。」
二人を見つけた古峰がさっそく声を掛けてきた。
「はい、入部しようと思ってきました。」
それを聞いた古峰はにっこり笑い、岩本を呼んだ。
岩本はロッカーから2枚の紙を持って、こちらにやってきた。
「はい、これが入部届よ。後でいいから名前と判子押して私か古峰に渡してね。こっちから顧問には届けておくから。」
二人は藁半紙の入部届を受け取るとかばんの中にしまった。
「それで、希望パートは決まってる?」
岩本はそう聞くと、三浦は一呼吸置いてから、
「僕はホルンパートを希望します。」
と言った。
「あらそうなの。ホルンは吹き手が足りないから助かるわ~。鈴木君は?」
「俺はトロンボーンが吹きたいです。」
それを聞いた古峰は鈴木をまじまじと見て言った。
「背もあるから問題なさそうね。三浦君だったらちょっと厳しそうだったけど・・・勿論私も無理。7ポジに手が届かないわ。とりあえず、二人ともちょっと待ってね。すぐパート長呼ぶから。」※1
そういって岩本は島岡と中嶋を呼びに行った。
その間に、古峰はふと思ったことがあるのであろう。二人に聞いてみた。
「でも、意外なのはサックスとかトランペットとか人気楽器じゃ無かったところね。良かったら理由教えてくれる?」
「え~と、中嶋さんの音がすごくて・・・僕もあんな風に吹きたいと思いました。」
「そうね、中嶋君は中学からの経験者で、その中学も府大会の常連。その中で彼はファースト吹いてたらしいわよ。三浦君は?」※2
「パート紹介のときのハーモニーでしょうか。僕もあんな風に合わせられたらいいなと思って。」
「ホルンは和音楽器といわれているくらいハーモニーが綺麗よね。ただ難しいわよ。金管楽器の中で一番難しいと言われているわ。」※3
そんな感じで三人が話をしていると、後ろから岩本が島岡・中嶋を連れてやってきた。
「三浦君がホルンで、鈴木君がトロンボーン希望なの。後はよろしく頼むわね。」
岩本は二人を島岡・中嶋に引き渡すと古峰を連れてロッカーへと向かった。
ホルンパート長である島岡は、三浦の前に立つ。
「改めてよろしくな~三浦」
「こちらこそ、よろしくお願いします。先輩」
島岡と三浦は改めて挨拶をすると、島岡は三浦を連れてグランドピアノの反対側へと向かった。
そこには男子部員の面々がいた。
3年生の姿は見えないが、柏原・沢木・辻本・金沢・坂上が雑談している。
部長の南川は先ほど別れた岩本・古峰と話しをしている。打ち合わせであろうか。
「お、ホルンにしたんか。良かったな島岡~。可愛い後輩ができて。」
三浦を見た柏原は島岡にそう言った。
「まぁな~」という表情で島岡はその言葉に返す。
「中嶋~、後輩にいらん事吹き込むなよ?」
沢木は警戒気味に中嶋に言う。それでも中嶋は笑みを絶やさない。
その笑みからは「期待して待っとけ」という感情が伺える。(沢木視点であるが・・・)
机をずらし、席に着いた島岡は三浦も席に座らせ言った。
「うちのクラブは3時40分から始まるねん。で、7時10分に音楽室に戻って挨拶して終わりや。3時間半が練習時間やな。完全下校は7時30分。それまでに学校から出なあかん。連絡事項は始まる時と終わるときに伝えられるねん。今はそれくらいかな~」
それを聞いた三浦は黒板横にある時計を見る。3時35分を指している。
「おっ、松島~新しいの来たで~、とりあえず、一人で練習しとって。石村さんと浅井さんきたら一緒にするよう言っといてや。」
ちょうど音楽室に入ってきた松島を見つけた島岡はそう指示する。
ざわついた音楽室内でも彼の声は良く通る。というかでかい。
松島は了解の合図としてうなづいた後、三浦に近づいてくる。そして耳打ちした。
「こいつ練習厳しいから気つけや~、俺散々扱かれてんねん。」
それを聞いた三浦は島岡を見た。
のほほんとした顔で柏原・沢木らと雑談をしている。だが声はやっぱりでかい。(特に笑い声)
(そういう風に言われても、全然そういう雰囲気漂ってけえへんねんやけどな~)
三浦は島岡を横目で見ながらそう思ったのであった。
※1 トロンボーンのスライドのポジションは根元の第1ポジションから先端の第7ポジションまである。腕を伸ばした状態で第7ポジションに届けば問題はないと言われる。肩を入れないと届かない場合はNGとされる。しかし、例外もある。
※2 ファーストとは各パートで一番高い音域を担当する。また、ソロ・ソリとも多く一番難しいポジション。
※3 金管楽器で一番難しい楽器としてギネスブックに載っています。倍音(同じ指回しで違う音)が非常に多く、音程を取るのが難しいです。
三浦も鈴木も無事自分の希望するパートに所属しました。しかし、松島の助言に若干の不安が・・・さてどういう練習になるのでしょうか。