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第65話 ホルンだよ!全員集合~

第65話 ホルンだよ!全員集合~


日曜日・・・普通なら家でゆっくりしたり友達と遊びに行ったりして、1週間の疲れを癒す日であろう。まぁ、これも趣味の一環であるからあながちそうとも言えないが、彼らは毎日吹いている。そうなると趣味から外れるわけでして・・・話が外れた。元に戻そう。

さて、この時期の彼らの日曜日は『合同』に向けての練習である。それも第3部の曲の。と言うわけで、現役とウィンドによる合同練習である。


ここは校舎の教室の中。そこには9人の男女がいた。

「そか、そっちは島岡が1番、三浦が2番、松島が3番、石村と大原が4番やねんな。こっちは、俺が1番で2番が本田、3番が伊東で4番が大田さんや。」

更科がそう言った。

「しかし、9本とは・・・ここまでの大編制は久しぶりやな。」

大田が同じように相槌する。

この大田という男、『ウィンド』のホルン奏者である。背は更科と同じ位で少々低いが、体は大きい。大きいと言っても太っている訳ではない。消防の訓練で鍛えられている為筋肉質なのである。普段は大阪市の消防音楽隊で吹いている。

しかし、どういうわけか今高高校出身のホルン吹きは皆背が低い。男性は170cm、女性は155cmを超える事はない。大原にいたっては145cmしかないのだから・・・何故だか不思議である。

「まぁ、とりあえず、軽く音あわせしてパー練しよか。」

「「はい」」

更科がそう言うと現役の5人は大きな声で返事をする。『合同』の練習をするときは、更科がこうして指示を出すのだ。皆楽器を構える。

「いつものF~Fな。さんしー」

更科の掛け声でロングトーンが始まる。Fから半音で下がりFまで・・・そして同じく上がる。お馴染みのホルンのロングトーンである。

9本も揃うとその音は大きい。しかし、うるさくはない。ところどころで『ワワワ~ン』というピッチが若干合っていない響きがあるが、すぐさま修正される。

後半になるとピッチも揃いだし安定する。9本もいると揃わなさそうに思えるが、そこはホルン吹き。お互いで聞き合ってピッチを揃えるのである。

「うん、ええ感じやな。じゃぁ楽譜の用意してチューニングしよか。」

更科がそういうと皆楽譜の用意をする。勿論、『展覧会の絵』だ。ちなみに、このパートのチューニングは、チューナーを使わない。更科がフォルテの音量で延々と吹き、各人が自分のタイミングでメゾフォルテで入り自分であわせる。各自の耳が頼りだ。本当に微妙なときのみ、更科が親指で高いか低いか教えてくれる。

「ええみたいやな。さてと・・・『プロムナード』やけど、どうしよか・・・」

「え?なんか懸念点でも?」

更科の呟きに三浦が反応する。

「いやな・・・始めラッパ一本やん。まぁ、大橋が吹くんやけどな。でや、ホルン9本で入ったらやばないか?」

「あ、そういうこですか。」

更科の説明に三浦は納得する。

「現役だけでええやん。木管が入るところからは9本でええやろ。」

大田はそういうと更科は「せやな」と肯定で答える。

「ちゅ~わけで、5人。頭からやってみ。」

「「はい」」

5人は大きく返事をするとホルンを構えた。更科は古びたドラムのステックを逆さに持っている。それを机にたたき出した。『プロムナード』のテンポ通りゆっくりだ。

「4分の5とか6とか入り混じってるな。56で3小節目でいくか。」

「「はい」」

「5~6~」

更科の掛け声と共に5人が入る。が、更科は1小節も吹かないうちに止めた。

「あかんな~ここ全部純正和音やからもっと音揃うはずやで。もっと聞き合え。もう一回。」※1

「「はい」」

それを何回か繰り返す。5回目であろうか。響きも綺麗に揃い更科は良い顔をする。

「ええ感じになったな。じゃぁ頭から叩くから、数えて3小節目で入ってみ。」

「「はい」」

「5~6~」

更科は掛け声を言うと暫く『カンカン』の音だけが響く。

そして3小節目、5人が入る。しかし、更科は直ぐに叩くのを止める。

「やっぱりな。こわごわ入ってるで。もっと頭からぴしっと入ってみ。あ、でも音量気にしてや。」

「「はい」」

元気良く5人は答えるとすかさず楽譜にペン入れをする。そんな感じで10分ほど練習は続くのであった。


「さすがに・・・ず~と叩いてたら手痛いな。ちょっと休憩しよか。」

「「はい」」

更科がそういうと皆は楽器を置く。

「んじゃ、休憩後はその後を9本で吹くか。」

更科はそういいながら手は胸のポケットへ・・・タバコを取り出す。

それを三浦は少し怪訝そうな顔をした。確かに更科は二十歳を越えているが学校の中である。当然ながら灰皿は無い。

ちなみに、女子3人は固まっておしゃべり中だ。仲良く和気藹々としている。

「それって・・・いいんですか?」

三浦は思わず声をかける。

「あ~これか。ええやろ、先生もおれへんし。」

更科は特に悪びれなく言う。灰は窓から中庭に落とす。しかし、問題は吸殻だ。さすがに中庭にはには捨てれない。いつしか誰かが見つけるであろう。三浦は一体それをどうするのか見ていると、更科は黒板に向かって・・・黒板の上に投げた。

「・・・」

三浦は唖然とした。確かにこの学校の黒板は湾曲しており左右の端になると15cmほどせり出している。

その上に放り投げたのである。

「お前・・・相変わらずやな・・・」

大田は諦め顔で言う。さすがに現職の消防官だ。いい顔はしない。

「まぁまぁ、太田さん。多めにみて~な。ちゃんと火は消してるから。」

「当たり前や、あほ。まぁ、今回は見逃すけど、次は俺の前でそれするなよ。」

「はい、分かりました。」

(それって・・・目の前ならあかんけど、見てなかったらええって取れるんやけど・・・)

二人のやり取りに三浦は呆れた顔をした。

そうして更科の指導の下、パート練習は続けられたのであった。


※1 純正和音。一番分かりやすく言うと「ド」「ミ」「ソ」の和音。専門的にはもっと色々あるんですが興味のある方はググッてください。


合同練習のホルンパートの一コマでした。しかし、本当に9本揃ってのパート練習は圧巻の一言です。

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