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第58話 野望、再び・・・

第58話 野望、再び・・・


この日曜日、音楽室には多くの人が集まっていた。

それはいつもの部員以外にOB団体である『今高ウィンドオーケストラ』の面々が集まっていたからだ。


「三浦~こっちやこっち」

三浦が音楽室に入ると、更科が手を招きながら三浦を呼んだ。そこには、更科・島岡・松島の他に見慣れぬ二人の女性がいた。

「紹介するわ~こっちの二人が伊藤と本田や。」

更科が二人の女性を紹介する。

「よろしくね、三浦君。」

「あら、可愛いじゃないこの子。よろしく~」

「よ、よろしくお願いします。」

伊藤と本田から挨拶された三浦はちょっとどぎまぎして答えた。普段見慣れない大人の女性から声を掛けられたからだ。

伊藤はロングヘヤーの大人し目の女性である。一方、本田は対照的にショートカットで活発な印象を与える。共通点としてはどちらも美人というところであろうか。

「本田も伊藤も一昨年卒業したからなぁ。お前らとそんなに年離れてないから気軽にしたってや~」

「もう、女性に年の話するのは駄目ですよ。」

更科の言葉に伊藤が反応をする。ちょっとじと目だ。

「そんな悲観そうな顔するなや~俺から見たら、お前らも現役もそんな変わらんぞ?」

「ん~~なんかそれも微妙・・・」

伊藤はそういうと諦めた顔をした。

「そういえば、大田さんは今日来られないんですか?」

島岡は、今日来ていないもう一人のウィンドのホルン奏者のことを尋ねた。

「大田さんは仕事で無理やって言ってたわ。今頃、当直してるんちゃうか?」

「仕事忙しいですからねぇ・・・」

「ほんまや。まぁあの人らがいるから安心やねんやけどな。」

島岡と更科の会話を聞いていた三浦は、その『大田さん』のことが気になり尋ねた。

「その大田さんってどういう人なんです?」

「あぁそっか、今年はまだ来てなかったな。更科さんの一つ上の先輩でな、消防の吹奏楽団に入ってる人やねん。」

「それって、音楽隊みたいなもんですか?」

「まぁ、そんなかんじやけど・・・普段は消火活動してるで。防火服着てホース持ってな。」※1

「へ~毎日楽器吹いてばっかりやと思ってました。そういうところの人は・・・」

三浦は島岡の言葉を聞き、感心したのであった。


さて、今日何故皆が集まっているかというと、『合同』のメイン曲を決める為に集まっているのであった。黒板にはその候補曲が書かれていた。何れもメインにふさわしい曲たちである。

いつものごとくその曲を紹介しよう。ウィンドの人には後ろに(ウ)と付けます。


・『吹奏楽のための神話(天の岩屋戸の物語による)』(大栗裕)

小路「なんなんです・・・この変拍子だらけの曲は・・・」

柏原「不協和音も輪に掛けて多いな・・・」

大橋(ウ)「さすがに、大曲がこう並ぶと『天屋戸』はちょっとパンチ不足ちゃうか?サブメインも必要になるやろ。」


・組曲『火の鳥』(イーゴリ・ストラヴィンスキー)

三浦「聞いたことが無い曲ですね・・・」

古峰「元々はバレエ音楽らしいけど・・・聞きなれないわ・・・」

河合(ウ)「毎年この曲候補にでるんやけど、今年もでたんか。ウィンドからの支持はいつも高いんやけど、現役の食いつき悪いねんなぁ~」


・組曲『惑星』(グスターヴ・ホルスト)

島岡「リベンジ!!」

辻本「一部のメインから落とされたからって、『合同』メインに持ってくるとわ・・・」

更科(ウ)「なぁ、島岡・・・まさか全曲するってわけやないやろうな?」

島岡「え~と・・・全部です、はい。」


・『アルメニアンダンスパート1』・『パート2』(アルフレッド・リード)

岩本「こ、これって・・・」

大倉「パート1があるからパート2もあるって判ってましたけど・・・同時ですか?」

大沢(ウ)「どっちもやってちょうど演奏時間はまるからええやん。」

岩本・大倉「そういう問題ですか?!」


・組曲『展覧会の絵』(モデスト・ムソルグスキー)

南川「初めのラッパ誰がするんや・・・」

沢木「そういう問題か?その前にできるんか・・・これ・・・」

酒井(ウ)「案外いけるで、ラッパは。楽章丸ごと休みとかあるみたいやし。」


以上の5曲であるが、まずは2曲に絞られることとなる。しかし、5曲しかない為、一人一回しか手を上げれない。

そして残った2曲が、『惑星』と『展覧会の絵』である。島岡は一人ほくそえんでいる。

しかし、そうそう企みがうまく運ぶことは無かった。

「『惑星』全曲って『火星』と『木星』以外の譜面存在するんか?」

「確か『水星』と『金星』までは確認したんやけど、『土星』以降が不明や。」

「ちゅ~か、『海王星』の合唱部分どうするんや?」

技術以前の問題で、譜面の手配やら楽器の問題でお手上げの状態なのである。※2

しかし、『展覧会の絵』も問題が無かったわけではなかった。

「展覧会の譜面はあるんか?」

そう、こちらも『プロムナード』や『キエフの大門』は直ぐ手配できるのではあるが、全曲となると譜面が存在するかが分からない。あの坂上をもってしても判らないというのである。

しかし、それはある人の言葉で解消された。河合である。

「譜面は芸大にあるからそれを取り寄せるで。」


こうして『合同』のメイン曲は、『展覧会の絵』に決定した。

しかし、この曲・・・またもホルンが地獄の底へと突き落とされることとなる。特に1stが・・・


※1 俗に言う職場の部の人たちです。消防音楽隊は仕事の合間を縫って音楽活動に励んでいるそうです。(大阪市消防音楽隊は平成18年度末に廃止になっています。)

※2 当時は全曲無かったと記憶しています。今では全曲の吹奏楽版があるそうですが・・・


さぁ、とうとう『合同』のメイン曲が決まりました。予想した方々、当たったでしょうか?

著者はこの曲をやって、ムソルグスキーの曲が好きになった経緯があったりします・・・

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