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第56話 そして彼らは飛び立った・・・

第56話 そして彼らは飛び立った・・・


「では、よろしくお願いします。」

「「よろしくお願いします」」

いつもの部活動開始の挨拶。しかし、今日は・・・いや、今日から変わっていた。

朝倉の掛け声で始まったからだ。そして、そこには1年生のみ。

そう、今日から2年生は研修旅行(修学旅行)へ行ったのである。今日から金曜日までの1週間は1年生のみで部活動を続ける。

そして、一番近い目標である『おみやげ会』は土曜日の午後にある。それまでに「ウィ・アー・オールアローン」と「浪漫飛行」を仕上げなければならない。2年生がいる間、まったく練習ができなかった曲であるが、今解禁された瞬間であった。


三浦は一人で基礎練習を続けていた。いつも合わせながら吹いているので少し気が抜けてしまいそうだ。だが、彼はメニューはいつも通り続ける。しかし、なにか物足りない。

(やっぱりホルンは合わせてなんぼやな・・・)

三浦はそう思うと、横で吹いている朝倉の音に合わせてロングトーンを始めた。乱れないように慎重にピッチを合わせる。

(うん、やっぱりこうじゃないと。)

三浦が満足げにロングトーンを終えると、ちょっと驚いた顔で朝倉が近づいてきた。

「もう、いきなり合わせるからあせったやん。」

「あ、ばれてた。」

「ばればれよ。でも、全然ピッチ狂わないのね。結構、吹きやすかったわ~」

朝倉は笑いながら言う。

「そっか~?普段からこれやけど・・・」

「そ、そうなん?いつもどういう風にロングトーンしているの?」

朝倉の問いに三浦はいつもロングトーンで気を付けている事を並べた。入り・伸ばし・切りは勿論のことピッチ・音量・音質とさまざまだ。

「え?ロングトーンってそこまで気を付けなあかんの・・・奥深すぎるわ・・・」

朝倉は驚いたように言った。

「ん~これが普通やと思ってたんやけどなぁ・・・きっちりでけへんかったらまた初めからやり直しやし・・・」

「ど、どうりでホルンの基礎練、長いと思ったわ・・・ねぇ、良かったら一回私のロングトーン見てくれない。どこがどう駄目なのか聞きたいの。」

「ええよ。」

三浦は快く承諾すると、朝倉のロングトーンを聞く。そして、すぐ止めた。

「ちょっと木管のことよう判らへんねんやけど・・・その音が一番綺麗な音?」

三浦の耳には、朝倉の音は山郷の音に比べて深みが無いように思えた。ちょっと薄っぺらい感じだ。今高祭前後の方が、音質は良かったように思えた。

しかし、そんなことが判らない朝倉は首を傾げる。

「え?いつもこんなんやけど・・・変?」

「変というか、音に深みが無いような気がするんやけど・・・気のせいかな?もう一回吹いてみて。」

三浦のリクエストに朝倉は答えようとして、息を吸い込む。

「あ!」

「え?なに?」

三浦の言葉に朝倉が驚いて構えを解く。しかし、三浦は気にせずに話した。

「理由がわかったわ。肩や。」

「か、肩?」

朝倉はますます分からなくなった。

「そう、肩。ほんと若干だけど、肩があがって・・・腹式意識してる?」

「あっ!」

朝倉も思うところがあったのであろう。理由に気づく。

「すっかり忘れとったわ。基本の基本やのに何してんねんやろ・・・」

ちょっと朝倉は溜息をついて言う。

「でも、完全に胸式って訳や無いから・・・まぁ、分かっただけでも良かったやん。もう一回ちゃんと意識してやってみ。」

「う、うん。」

三浦に励まされた朝倉は再び構えロングトーンを始める。さっきとは音質が違っていた。が、その分他のところはおざなり感があるが・・・ロングトーンが終わった後、再び三浦が寸評を言う。

「うん、その音質を維持して、いつもの通りロングトーンをしたらいいんちゃう?」

「う~ん、それが中々難しいのよねぇ・・・あっちを立てればこっちが立たずってなるのよ・・・」

「せやったら、少しづつ課題を増やすようにしたらいいと思う。僕もそうしてたしね。いっぺんに色々でけへんねんやし。」

「そうね、分かったわ。ありがとう~」

朝倉はニコリと笑いぺこりと一礼した。うん、やっぱりこの子は美人だ。三浦はその仕草に思わずドキッとした。

「おっ、なんや二人でええ雰囲気だしてるな~」

「「さ、更科さん!?」」

「なんや、二人揃ってそんなにも驚かんでも・・・」

驚かれた更科は少しさびしそうに答えた。

「いえ、いきなり来られたから、びっくりしたんです。今、2年もいないですし・・・」

「そやそや、それが理由やねん。ちゃ~んと練習いてるかと思ってな、様子見に来たんや。」

「ちゃんとしてますよ。今も、朝倉さんのロングトーンを見てたんですから。」

三浦はそういうと横の朝倉も「うんうん」と頷く。

「まぁ、ちょっと前から見てたから分かってる。それに指摘もあってるで。特に、楽器に慣れてきたこの時期にようあるこっちゃ。ついでに三浦も見たるわ。ロングトーンしてみ。」

更科がそういうと三浦は楽器を構え、いつもの様にロングトーンをする。

「そのへんでええで。」

いつもの半分くらいのところで、更科が言った。

「なぁ、朝倉。お前はどう思った、今のロングトーン。」

「え~と~・・・入りも伸ばしも切りも良かったと思いますけど・・・」

「そやな~そう思うよな~」

「え、なんか悪いところありました?」

朝倉は少し焦って言う。

「いや、特に悪いところはないんや。でも、三浦~どこがどう悪かったか言ってみ。」

「若干ゆれがありましたね。あと何回か入りのアタックが強すぎたのと、一回だけ切りが雑になってましたし・・・」

「はい、そこまで。」

三浦はまだまだ言い足りなさそうであったが更科は止めた。

「とまぁ、傍から聞いてると問題ないように思えるけど、吹いてる本人からしたらまだまだ悪かった点が一杯でてくるわけや。要するにや、ただ漠然と吹くんじゃなくて、しっかり考えながら吹けってことやな。特にロングトーンはそういう面が強いな。」

「分かりました!」

朝倉は元気よく答える。

「じゃぁ俺は音楽室先行ってるから、しっかりがんばり~や~」

更科はそういうと音楽室へ向かった。

「じゃぁ、もうちょっと基礎練してから戻るか。」

「そうね、私、もう一回ロングトーンしてみるわ。」

三浦たちはそういうと少し離れ基礎練習を続けるのであった。


2年生も研修旅行に行き、1年生だけでの練習が始まりました。しかし更科さん、久しぶりの登場です。

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