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第54話 聞いてないよ~

第54話 聞いてないよ~


「そうか~お前、会計かぁ・・・まぁ、頑張れ・・・」

島岡は三浦の報告を聞くと静かに言った。心なしか哀れめの目で見ている。

「い、一体なんですか、その目は・・・」

三浦は不安そうに言う。

「いやな、あの寺嶋さんと中嶋から取り立てる姿を見るとなぁ・・・」

「え?」

三浦の表情を見て島岡はニヤニヤして言う。

「うん、あの二人・・・まったく部費払ってないんや・・・」

「え~~~!?」

ちなみに、この吹奏楽部の部費は500円である。内訳は、300円が本来の部費。これは体育会系も同じである。そして200円は古くなったチューバの修理積立金である。

「え~と、いくらだ・・・中嶋さんが・・・20ヶ月で、10000円。寺嶋さんが、32ヶ月で16000円?!」

塵と積もれば山となる。高校生としてはなかなかの大金である。

そしてある意味二人とも曲者である。寺嶋はのらりくらりとかわしそうであり、中嶋にいたっては会話になるかどうか・・・ニコニコされて終わりである。

しかし、彼の受難はもっと違うところにあったのである。いや、彼だけではない。1年男子全員である・・・


「え?女装?!」

三浦はすっとんきょうな声を上げる。

「そう、女装。」

朝倉は復唱する。

1年たちは教室に集まっていた。それは『おみやげ会』なるイベントの為だ。

『おみやげ会』とは、名目上は2年生の修学旅行(今高高校では研修旅行と言う)のお土産を1年生に振舞うということであるが、1年はそのお土産を貰うための会を開くというものである。勿論、吹奏楽部である為、唯の会ではない。曲も演奏することになり、1年生たちのお披露目という側面もある。いや、どちらかというとそちらの一面の方が強い。

問題は・・・長年続いている伝統の方だ。なぜか、男子は絶対女装、女子はできる人は男装と決まっているのである・・・

三浦はこの前あった今高祭を思い出した。体育祭の女子の学ラン姿を。そして、文化祭の男の女装姿を・・・

三浦たち男どもの心を透かしたように朝倉は言う。

「ちなみに、拒否権はないから・・・2年3年男子先輩からの指令よ。」

「な、なんでや~」

小路が呻く。

「理由も聞いてきたわ。『俺らもやったのにお前らがやらないのは駄目だ。』だそうです・・・」

「うっ」

さすがにそれを言われると小路は黙るしかない。

(島岡先輩も南川先輩もやったんか・・・)

三浦はその光景を想像した。ちょっと冷や汗をかく。

「あ、あと、こっそり写真も貰ってきたわ。古峰さんから。」

朝倉はそういうと写真を取り出した。

「見たい見たい~♪」

大倉は真っ先に動く。目標は・・・言うまでも無いだろ。

「わ~可愛い~~♪」

「ど、どこがやねん。」

大倉の声に小路が突っ込む。その写真は確かに島岡だ。ぶっきらぼうの顔にスカートを穿いているだけで、どこにも「可愛い~~♪」要素などない。ただのスカートを穿いた島岡だ。

しかし、南川の写真に皆騒然とした。

「これは・・・逆にやばいやろ・・・」

鈴木が声に出して言う。

そう・・・南川の女装姿は、宝塚並みのポテンシャルを誇っていた。女子が男装したらこうなるお手本の様だ。妙な色気と男らしさが融合して、ぱっと見女にしか見えない・・・

逆に、文化祭そのまんまの人もいた。柏原だ。思い切り化粧をしており、どうみても立派なオカマさんである。

極めつけは沢木・辻本の巨漢コンビだ・・・ある意味恐怖である。今晩は悪夢にうなされそうだ。

「と、とりあえず、スカート穿くまでやったらいいけど・・・化粧は拒否してええやんな?」

三浦は妥協案を出す。

「ええ、それだけでいいと思うわ。さすがに化粧は・・・」

朝倉もそれで納得しているようだ。だが、そう思わない人もいる。

「え~鈴木君はともかく、三浦君と小路君は化粧したら見栄えよくなりそうなのに・・・」

悪魔の囁きの正体は犬山だった。勿体無いという顔をして言う。

「「それは勘弁してください・・・」」

三浦と小路は揃っていうと、笑いに包まれたのであった。


「あ、そうそう。曲も決めなくちゃね。なんか私たちだけでもできる曲ない?それも練習時間が少なくて済むやつ。」

ひとしきり笑いが収まると朝倉は話を元に戻した。笑いすぎて若干目に涙が出ている。

「あ、そうか。先輩たちが研修旅行に行っている間しか練習時間ないのか。」

三浦は補足するように言う。

しかし、いい曲がなかなか出てこない。すると、浅田が手を上げて言った。

「『バラの謝肉祭』ってどう?中学でやったけど、シンプルですぐにでもできそうだけど・・・」※1

しかし、却下の声が朝倉が出した。

「その曲駄目よ。去年、『おみやげ会』でやったみたい。」

「あら、考えることは同じだったのね・・・」

浅田はそういうと再び考え始めた。

「はいはいはいは~い」

大倉は元気良く手を上げる。

「大倉さん、いい曲ある?」

「『ウィ・アー・オール・アローン』なんてよくない?良い曲よ。」※2

それを聞いた朝倉は黒板に『ウィ・アー・オール・アローン』と書く。

「あ、いいかな?」

そして三浦は何か思い出したか手を上げる。

「どうぞ」

「えっとね、ほら、二年の先輩たちって『米米』好きだろ。だから『浪漫飛行』なんてどうかな。これならみんな曲知ってるだろうしやりやすいと思う。」※3

「あ、それいいわね。やろやろ。」

三浦の意見に犬山も同意する。どうやら彼女も好きなようだ。

朝倉は『浪漫飛行』も黒板に書く。これで2曲だ。

「他にない?」

朝倉は皆を見るとこれ以上は出てこなさそうだった。

「じゃぁ、明日にもう一度時間貰って選曲しましょう。他にしたい曲がある人は音源用意してね。あと、『浪漫飛行』と『ウィ・アー・オール・アローン』も音源頼みます。あと楽譜もね。今日はこれこれくらいでいいかしら?」

「「はい」」

朝倉の言葉に皆が返事をする。ここには1年生しかいないが、どこかしか次期の雰囲気をかもし出していた。


※1 バラの謝肉祭。ジョゼフ・オリヴァドーティ作曲。中小学生の吹奏楽部が良くやっているそうです。どの曲にもいえますが、言うほど簡単じゃないです。

※2 ウィ・アー・オール・アローン。ボズ・スキャッグス作曲。1976年発表されたポピュラー・ソング。多くのアーティストによってカバーされている。緩やかで良い曲ですよ。

※3 米米クラブの曲。歌謡曲ですが、これもいい曲です。著者も好きです。


はい、また女装です。それも三浦・小路・鈴木が餌食です。なんか変な方向に走っていますが予定通りです・・・


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