第52話 さぁみんなで選んでみよう~
第52話 さぁみんなで選んでみよう~
そろそろ10月に入ろうとしている、秋晴れの心地いい日であった。さすがにこの日まで来ると、残暑も無く過ごしやすい気候になる。
今高高校吹奏楽部の部員たちは、今音楽室に集まっていた。
それは3月末に行われる『合同定期演奏会』の選曲をしているからである。
さて、『合同定期演奏会』略して『合同』であるが、言葉のごとくこの吹奏楽部とOBが中核となる一般団体『今高ウィンドオーケストラ』による合同定期演奏会である。
この演奏会の内容としては、大きく3つの部に分かれている。
第1部は各々の楽団で行われる『単独の部』。第2部はお互いの有志が集まって行われる『ポップスの部』。そして、第3部は全員が演奏する『合同の部』である。
今行っているのは、『単独の部』で行うメイン曲及びサブメイン曲の選曲である。これから約半年間お世話になる曲だ。黒板には色々な曲が候補として上がっている。ではその候補曲を書いていこう。何れも部員たちの寸評付きである。
・序曲「春の猟犬」(アルフレッド・リード作曲)
犬井「軽やかな曲調が春を感じさせますねぇ・・・」
古峰「中間部のところも落ち着いた感じがあって好きやね。心が落ち着くわぁ~って・・・やっぱり・・・」
犬井「zzz・・・」
・「エルカミーノレアル」(アルフレッド・リード作曲)
金沢「名前の通りラテンっぽい曲で、ノリがあって俺は好きだな。ドラムが無くてもこれはやってみたい。」
伊藤「中間部のところ・・・リズム変じゃない?」
柏原「そこ・・・変拍子やねん。指揮者泣かせや・・・」
古河「それに難易度高くないですか?」
大原「でも、してみたい。」
・「アルメニアン・ダンス(パート1)」(アルフレッド・リード作曲)
朝倉「あれ、またリードさんの曲?多いですね。名前の通りアルメニア地方の曲のメドレーですね。これも難易度高そう・・・」
山郷「20世紀を代表する作曲家やからねぇ。吹奏楽曲をいっぱい作った人やし~この人の曲するのはある意味、ブラバンのステータスちゅ~もんやねぇ。」※1
三村「・・・流行で・・・するの・・・よくないです・・・」
・組曲「惑星」より「火星」(グスターヴ・ホルスト作曲)
丸谷「と、トランペットがなんかしんどそうなんやけど・・・ず~と『タン・タカタタン』って・・・」
小路「俺もいやや~でも、曲自体は勇ましい迫力のある曲ですね。」
柏原「火星は『戦争をもたらす者』って呼ばれてるからなぁ、そのイメージで作ったみたいやで?」
沢木「なんかたぎってきた~~~~~」
南川「素でモード入るなぁ~~」
・組曲「惑星」より「木星」(グスターヴ・ホルスト作曲)
島岡「絶対これしよ。ホルンめちゃくちゃかっこええねん。いっそのこと火星とセットで・・・」
松島「そりゃむちゃや・・・合わせたら俺ら死ぬ~~」
三浦「ちなみに、木星は『快楽をもたらす者』ですって。」
・「吹奏楽の為の第1組曲」(グスターヴ・ホルスト作曲)
鈴木「なんか聞いたことがあるなぁ・・・」
甲斐「そりゃ、3回目の登場やからな・・・ほれ、今高祭のマーチ選曲で第三楽章だけ候補にあったし、組曲『奇異』にも入ってたしな・・・」
中嶋「(ニッコニッコ~)」
・「オリエント急行」(フィリップ・スパーク作曲)
大倉「あれ、これってめちゃくちゃ最近の曲ですね。」※2
島岡「まぁ、流行の曲ちゅうたら流行の曲やな。」
大倉「新婚旅行はこれに乗って行きましょう~♪きゃ♪」
・序曲「1812」(ピョートル・チャイコフスキー作曲)
辻本「1812年って米英戦争だったっけか?」
楠田「ちがうわよ~ナポレオンのロシア遠征じゃなかったっけ?って米英戦争ってマニアックすぎない?」
犬山「世界史とってないよ~」
浅井「日本は江戸時代後期?」
岩本「楠田さんが正解ね。ナポレオンのロシア戦役を題材にした作品よ。途中で『ラ・マルセイエーズ』なんか流れるわね。」
・「アルヴァマー序曲」(ジェイムズ・バーンズ作曲)
近藤「なんか凄い定番の曲が・・・中学でやりましたよ、これ?」
朝倉「そういえば、近藤さんは経験者だったわねぇ。」
坂上「(メモを見て)吹奏楽経験者のうち7割がこの曲をしているな。」※3
全員「「ほんまか?それ?」」
・「スターウォーズ」(ジョン・ウィリアムス作曲)
三浦「うわ~これめっちゃ好きですよ。」
犬山「私も、映画見たわ~でも、これって・・・」
柏原「そや、難易度案外高いで~」
・「アラビアのロレンス」(モーリス・ジャール作曲)
沢木「実は、これ入れたの俺だったり・・・」
島岡「せやったら却下やな。」
沢木「なんでやねん!!」
山郷「でも~なんかアラビア風でええかんじちゃうん~(クネクネ)」
島岡「なんかお前が言うと、そういう雰囲気漂ってくるな・・・ちゅうか踊るな!」
一通り曲を聞くとまずは、メイン曲から決める。一人2回手を上げることができ、まず上位3曲に絞られる。
残った曲は、「エルカミーノレアル」「木星」「1812」。
「絶対『木星』や。意地でも『木星』や。やっぱり『木星』や!!」
島岡はうるさく連呼する。
音源はオーケストラ編成であったが、確かにホルンが目立ち格好いい曲である。しかし、三浦は違う曲に心が惹かれていた。それは『エルカミーノレアル』である。
迫力のある前半部と今までしたことが無いリズム感の中間部、そしてそれが織り成されて出てくる再現部。ホルンのところを注意して聞いていたが、難易度は高い。でも、三浦はこの曲がしたかったのである。
最終投票は一人一回。三浦は『エルカミーノレアル』に投票する・・・そして、それが叶う。過半数の賛成でメイン曲として選ばれたのであった。
「え~~~なんで『木星』ちゃうんや~~」
島岡はぐったりうなだれる。しかし、小声で「みとれよ~」と呟いていたのを三浦は聞き逃さなかった。
続いてサブメイン曲。これは案外すんなり決まった。
メインが難易度の高い『エルカミ』である。サブメインはぐ~んと難易度を落とさなければならなかった。(『木星』など論外である。)
そして決まった曲は『アラビアのロレンス』(だが決して簡単な曲ではない)。ラテン調とアラビア調という、中々面白い組み合わせである。
そうして、この半年間練習する2曲が決まった。しかし、最大の大曲が来るであろう『合同』メインはまだ決まっていない。
しかし彼らはその前に、色々と決めなければならないことが山積みであった。
※1 当時はリードの曲をするのが流行でした。リード自身大変な親日家で、良く日本に来演されていましたが、近年(2005年)お亡くなりになられました。恥ずかしながら著者は調べるまで知りませんでした・・・ご冥福をお祈りします。
※2 1986年作曲。本当に一時はどこもかしこも『オリ急』が演奏されていましたね。著者も演奏したことがあります。
※3 こんなデータありません。あくまで雰囲気で・・・というかそれくらい演奏した記憶が・・・
さぁ、一番長いスパンとなる第四部『合同、その先に・・・』のスタートです。
単独の曲が早くも決まりました。それも『エルカミーノレアル』。三浦君、死亡フラグ立ちました・・・それほどホルンは強烈に難しい曲なんです・・・しかし、島岡の捨て台詞は一体・・・