第51話 祭りだ!今高祭っ!(後編)
第51話 祭りだ!今高祭っ!(後編)
「お~い、ラッパとボーン集まれ~」
柏原は大声で言う。
今日は今高祭体育祭である。吹奏楽部の出番はここでも存在する。未だ時間は8時、開会式の9時までまだ1時間はあった。
7人が集まると柏原が譜面を渡す。
「これ、開会式でやるからさらっと暗譜しとって。」
「OK~」
南浦たちはその紙切れを受け取ると、早速音だしを始める。
「いきなり曲の追加やねんなぁ。それも暗譜って・・・」
三浦は鈴木と小路を見て言った。
「まぁ、でもこれ簡単やで。初見でいけるしな。」
鈴木はさらっと言う。確かに十数小節くらいしかない。
「そなや、でもラッパとボーンしかおらんから、失敗したらめちゃ目立つやん。」
小路は少し不安げだ。
「せやな~全校生徒の前で赤っ恥かぁ。」
三浦は笑いながら小路の不安をさらに煽った。
「げっ、考えたらそやな・・・」
小路は少し肩を落とす。
「何言ってんの?今更、そんなことでびくびくしないの。男でしょ?」
丸谷は横から励ますように言う。さすが、昨日ソロをこなした自信は大きいようだ。心なしか頼もしく見える。
「あと、この曲も最後にするから目通しとけよ~」
柏原から今度は各パート長に楽譜が配られた。これも紙切れっぽい譜面だ。
「ほれ、三浦~2番な。」
三浦はその譜面を受け取ると題名を見る。そこには『優秀』と手書きで書かれてある。勿論、譜面自体も原譜は手書きのようである。※1
「あ~これなぁ、表彰式でやるあの曲や。」
「ああ、あれですか。」
あれこれで成り立つ不思議な会話をする二人だった。
校庭の中央ではトランペットとトロンボーンがかなりの広さをあけて並んでいる。大体5m間隔であろうか。小路は若干腰が引き気味だ。まさか、こんなど真ん中でやるとは思っていなかったのであろう。
『これより、今高祭体育祭の部を始めます。』
アナウンスが声高々に響き渡る。
柏原の大きなトランペットの振りで、トランペットとトロンボーンのファンファーレが鳴らされる。20秒も無かったが、その音は学校中に響き渡った。演奏を終えた8人は急いで隊形を取っている仲間たちのところへ戻る。
『生徒入場』
その声に柏原は指揮を振る。いよいよ、マーチ3曲のご披露だ。とはいっても、マーチングみたいに動くことは無いが。
『双頭の鷲の旗の下へ』に合わせて、まずは生徒会執行部の面々が大きな学校旗を広げて行進する。曲名と動作が一致する不思議な光景だ。
続いて3年2年1年と入場する。吹奏楽部のマーチにあわせて歩くさまはなかなか壮観だ。三浦もどこか誇らしい。そして『双頭の鷲の旗の下へ』が終わるが、パーカッションはリズムを維持し続ける。曲間は彼らが繋ぐのだ。そして次の曲『錨をあげて』へ。そう、行進が終わるまでエンドレスで続けられる。『星条旗よ永遠なれ』はピッコロソロは無く、セカンドタイムのみである。※2
そして、2週目の『錨をあげて』途中でようやく行進は終わる。これで吹奏楽部のお仕事も表彰式の演奏のみなので気楽であった。
そしてここでも『ブラバン特権』発動である・・・
「島岡先輩~やっぱりクラスに戻らないんですか?」
「ん~出る種目の前には戻るけどな?」
あれから彼らは音楽室に戻り、優雅に休憩している。
9月下旬とはいえ外は結構暑い。校庭では各種目が行われており、生徒たちが懸命に走っている。トラックの傍らではクラス全員が応援団を結成し、応援を行っている。そして今日は、着替え以外部室・校舎の立ち入りは禁止されている。その唯一の例外がこの音楽室であった。これに関しては、学校側も黙認している。ある意味長年の風習であろうか・・・
「で、先輩は何に出るんです?」
「ん~俺か~午後の混合リレーや。」
その言葉に三浦はあることを思い出す。確か島岡は中学時代陸上部に所属していて、短距離選手だったと・・・
「ああ、なるほど。じゃぁ、僕はそろそろ出番なんで行きますね。」
「そうか~頑張りや~」
島岡はそういって手をひらひらさせると、再び優雅なひと時を満喫したのであった。
三浦は100m走で見事に1位を取って音楽室に戻る。しかし、どこか様子がおかしかった。朝倉や犬山が少し困った顔をしている。三浦はその目線の先を追うと、そこには島岡・寺嶋・柏原・中嶋が机を囲んでいた。そこから音がする。カチャ・・・カチャと・・・
三浦はまさかと思い見てみると、机を綺麗に並べ、その上にはどこから持ってきたのかマージャンマットと牌が・・・彼らはここで堂々とマージャンをしていたのである。
「おう、三浦か~なんやお前もしたいんか?」
島岡は気軽に言う。
「・・・これ、誰が持ってきたんですか?」
三浦は聞くまでもないと思ったが、一応聞いてみた。
「俺や、俺。」
島岡が答える。
これは以外だった。てっきり寺嶋が持ってきたと思っていたのだ。
「あ~なんやその意外そうな顔は。何でもかんでも俺のせいにしたらあかんで。」
寺嶋は三浦の心の中を見透かした様に言う。
「とか言って、寺嶋さんも好きなくせに・・・お、それロン。タンピン三色ドラドラ、跳ね満や。」
「げっ、ダマで跳ねるか・・・」
「低目やったら7700止まりやけどな。高目出してくれてよかったわ。さっき引っ掛けチートイでお前に振ったからなぁ、お返しや。」
島岡は柏原から当たり、ホクホクと点棒を受け取ると牌を混ぜる。マットを派手に混ぜないお陰でかなり静かである。あの独特のジャラジャラの音があまりしない。
(そ、そこまでしてするかぁ・・・)
三浦は呆れながら音楽室を後にする。
外に出ると、不健全な音楽室とは違い、皆が走り・跳び・そして声援を送っていた。
女子が学ランを着て応援している姿はなかなか新鮮である。
(男装と女装ではこんなけ違うんだ・・・)
三浦は昨日のことを思い出し苦笑いする。
そして、客席からの手拍子と大きな拍手を思い出した。
それは自分だけに向けられたものではないが、とても誇らしく思えた。
(また、あんな演奏できたらええなぁ・・・その前にしっかりと吹けるようにならんとなぁ・・・)
三浦はそう思うとクラスの皆と共に応援するべく、晴れやかな顔をして青空の下走って行く。
こうして各々の思い出の詰まった今高祭が終わった。
そして、一つの青春のページが閉じられ、また次の思い出のページが開くのである。
※1 表彰式に流れるあの音楽です。正式にはオラトリオ『ユーダス=マカベウス(マカベウスのユダ)』中の合唱曲『見よ、勇者は帰る』です。『音楽の母』ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル作曲です。ちなみに「オラトリオ」とは、日本語では聖譚曲と呼ばれる楽曲の種類と思ってください。著者もよく分かってないです(汗)詳しくはウィキペディア等参照。
※2 要するに繰り返し無しで、いきなり2週目という意味。
これで第三部『祭りだ!今高祭っ!』編は終了です。次の話から第四部に移ります。その前に・・・