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第50話 祭りだ!今高祭っ!(中編)

第50話 祭りだ!今高祭っ!(中編)


三浦たちは今、幕が降りた舞台の上にいた。この人数でいると人の熱気でちょっと蒸し暑い。

柏原も指揮台の上に立ち一人一人の部員の顔を見ていた。

すると「ブーーー」というブザーの音が講堂に響いた。そろそろ幕が上がる。

舞台袖の平田が手を上げると、柏原は頷き指揮棒を上げ、全員が楽器を構える。幕はまだ下りたままだ。

柏原が前振りを始める。それにあわせて平田は幕を上げる。タイミングはぴったりだ。幕が上がりながら曲が始まる。

一曲目は『茶色い小瓶』。※1

ドラム・中低音のスィングのリズムから始まりサックスの旋律が始まる。落ち着いているが軽快だ。裏でトロンボーンが動く。ホルンは・・・やはり打ち込みだ。

そしてトランペットがおかずに入るが、段々と旋律を上回り立場が入れ替わる。

盛り上がりの後、再び元の旋律に戻るが、トロンボーンが旋律である。独特のグリッサンドで魅了する。段々と盛り上げて行き次はトランペットが前に出る。そしてデクレッシェンドのあと静かに・・・ドラムと中低音の静かな打ち込みと柏原の指鳴らしだけとなり・・・突然のトランペットの旋律が始まる。最後は、再びサックスの旋律となり曲が終わった。※2


大きな拍手の中、アナウンスが流れる。マイクはクラリネット3人娘が交互に受け持つ。

「本日は、今高高校吹奏楽部の演奏を聞きに下さいまして、ありがとうございます。」

「先ほどの曲は、ジャズで有名な『茶色の小瓶』でした。」

「続きましては『カーニバルのマーチ』をお送りします。心躍るようなサンバのリズムを是非お聞きください。ではどうぞ~」


柏原が指揮台に立つと、皆は楽器を構える。それを確認した柏原は指揮棒を振り始める。

そのテンポは楽譜に書かれているテンポよりも早い。だが、それは予定調和。「この曲はノリノリでいくで~」と柏原は初めの合奏中から敢えてテンポを早くしているのだ。※3

華やかな前奏の後、木管の旋律になる。カウベルやホイッスルの音がサンバ気分を盛り立てる。

次に続くは中低音の出番だ。裏でホルンが優雅に動く。再び木管の旋律に戻るが、中低音の対旋律が入り変化を与えている。

パーカッションオンリーの箇所を超えると中間部に入る。ホルン・サックスの優雅な音が響くが、テンポはそのままだ。そしてトランペット・ピッコロの高音楽器の軽やかな音が奏でられると、木管全体の旋律が入る。

そして、あわただしい再現部に戻る。最後はベルトーンだ。各楽器の入るタイミングが難しいが、見事にこなし曲が終わる。

再び大きな拍手がおこる。


「いかがだったでしょうか?実はこの曲、今年のコンクールの課題曲の一つだったんですよ?」

「でも、そんなことを感じさせない楽しい曲でしたね。」

「では、次にお送りするのはジャズの名曲、『ムーンナイトセレナーデ』です。ではどうぞ~」


静かな前奏の後、ゆっくりとしたクラリネットの旋律が流れる。それをカップミュート※4を付けたトランペットが優しくおかずを付ける。普段は大暴れする両パートの静かで優しいハーモニー。何か子守唄の様な・・・そういう優しさだ。

そしてトランペットの旋律の後、クラリネットソロだ。岩本が立ち、スポットライトを浴びる。リードミスする寸前の高音であるが、巧みにコントロールする。ソロが終わった後、大きな拍手がおきる。さすがに岩本も安堵の顔をする。

再びクラリネットの旋律であるが、サックスも入りいっそう盛り上げる。時折、ウィンドチャイムが流れ星のように鳴る。

次にジャズの大様、サックスのソロである。1年ながらも朝倉が立つ。いつもの違い凛としており、舞台映えが良い。ビブラートを入れ大きく歌う。周りはそれを盛り立てるように優しく吹く。まるで群がっているようだ。そして、曲は最後の最後まで優しく終わる。

トロンボーンの1stである鈴木も目だったミスもなく、ほっとしている。

朝倉はソロを吹ききったこともあり、少し満足げだ。

小さな拍手が次第に大きくなる。


「いかがだったでしょうか?とても綺麗なハーモニーでしたね。」

「では、ここで吹奏楽で扱っている楽器を紹介したいと思います。」

「実はさまざまな楽器で構成されているんですよ?」


そして各楽器の特徴が紹介され、一曲づつ披露する。

フルートは『夢路より』、クラリネットは『おもちゃのチャチャチャ』、サックスは『大きな栗の木の下で』、トランペットは『山口さんちのツトム君』とここまでが童謡が続くのだが、ここから際物になる。

ホルンは『ドラゴンクエスト』のファンファーレ、トロンボーンは中嶋ソロによる『暴れん坊将軍のテーマ』、ユーフォは『やん坊まー坊の歌』※5、チューバは『今日のお料理のテーマ』とやりたい放題だ。客席からは少し笑い声がする。

そして、パーカッションは先ほどの『カーニバルのマーチ』のパーカッション部分で楽器紹介を締めた。


「それでは、この楽器たちでよく知っている曲をしたいと思います。」

「聞けばすぐ分かる曲です。」

「あ、私この映画見たわ~。では、どうぞ~」


サスペンディドシンバル※6によるロールのクレッシェンドが始まり、金管によるファンファーレが響く。『バックトゥザフューチャー』だ。

まずはトランペットとホルンの旋律。島岡はオクターブ上で吹く。島岡の咆哮のようなホルンが鳴り響き、トランペットもそれに負けずと吹く。三浦も松島も喰らい付く。その甲斐あってか、直管と曲管で融合された壮大なハーモニーが講堂を包む。観客は度肝を抜いたようだ。そう、あのコンクールの時と同じである。たかだか10小節余りで音による感動を与える。

それに続く木管の旋律と次々に入っては消える各パート。木管の指回しが忙しい。

そして、スネアドラムによる勇ましいリズムが始まり、木管・トランペット・中低音が次々に旋律を奏でる。1パートでもミスると曲が瓦解する、まるで綱渡りのような箇所である。柏原は目で合図を送りながら振る。

そこが過ぎるとトランペットが盛大に鳴る。もう彼らは息を絶え絶えにしているが、気合で吹く。心なしか柏原も目で「がんばれ」と訴えかけている。

そして終盤へ。各楽器が入っては消え入っては消えを繰り返しながら、曲を盛り上げ、曲を終えた。

一層大きな拍手があがる。部員たちも最大の難曲を終え、三浦も顔が晴れやかだ。


「いかがでしたでしょうか?元々この曲はオーケストラで行われる曲なのですが、吹奏楽でもできるんですよ。」

「ジャズと言い、オーケストラといい、なんでもできるんですね。」

「では、さらに吹奏楽の可能性を試しましょう。ここからは歌謡曲です。」

「渡辺美里さんの『恋いしたっていいじゃない』とプリプリの『ダイヤモンド』2曲続けてどうぞ。」


クラリネット3人組の紹介が終わると、別府が舞台の一番右でスタンバイを完了している。

ドラムと中低音のリズムに合わせ、木管が前奏を始める。そして別所が歌いだす。トランペットのおかずも息が合っており、別所も歌いやすそうだ。

サビも全体的に音量が上がるが、歌い手を意識してあわせる。別所もそれに答えて伸び伸びと歌う。

その勢いのまま『ダイアモンド』へ。

軽快なドラムが続く。柏原はテンポをそのままバンドに預け、客席に向かって手拍子をする。

それに釣られ客席からも手拍子が・・・バンド・歌・手拍子と一体となって講堂を包んだのであった。


「では、最後の曲になります。」

「皆さんはディズニーの曲を何曲知っているでしょうか?」

「今からお送りする『ディズニーメドレー』はそんな曲たちがたくさん出てきます。ではファンタジーの世界へ行きましょう~」


ティンパニーのロールから始まり前奏が入る。いかにもディズニーらしいメロディだ。

そしてミッキーマウス・マーチにつながる。各楽器の打ち込みの後、ピッコロ・フルート・クラリネットが可愛らしく演奏する。ウッドブロックがさらに気分を盛り立てる。ちょっとコミカルだ。そしてトランペットの軽快なマーチ部分へ。トロンボーンの対旋律がせわしなく動く。静かになったところへチューバと木管の掛け合いが面白い。そして再びマーチ部分となり、次の曲「小さな世界」へ。

木管の優しいアンサンブルが始まり、トロンボーンの前奏の後、トランペットソロだ。丸谷が立つ。彼女はビブラートなどソロのテクニックは持ち合わせていないが、その音はこのソロにぴったり合う。優しいトランペットの中音が会場に響く。ソロが終わると拍手が起こる。彼女もちょっと照れくさそうだ。そして、トランペットの旋律とホルンの対旋律の幻想的なハーモニーが続く。

だがそれも突然のベルの音で曲が変わる。目覚めるように「ハイ・ホー」に移る。木管のコミカルなメロディーが演奏され、トランペットの勇ましい音でサビに入る。トランペット・トロンボーンと木管の掛け合いだ。最後はスィング調になり、「狼なんかこわくない」に続く。

南川・中嶋・辻本が立つ。しかし、この3人が立つと迫力だ。平均身長180cmを軽く超える。トランペットの旋律、トロンボーンの対旋律、クラリネットのおかずがちょっとしたアンサンブルを奏でる。3人とも左右に振りながら吹いている。三浦から見てもかなりかっこよく感じられた。

トランペットのゆっくりとした前奏の後、次へと移る。「いつか王子様が」。いつの間にか甲斐が立っている。そして優しいトロンボーンソロが響き、トランペットのミュートと木管が花を添える。次のスタンドは山郷だ。旋律はあくまでも他の楽器であるが、サックスの音が艶やかな音を奏でる。山郷は程よいビブラートを効かし、見事なソロを演じる。

するとホルンが一風代わったリズムで登場する。「口笛吹いて働こう」だ。パーカッションとの受け答えをする。クレッシェンドで場を盛り上げ、中嶋の再登場だ。ここはまさに中嶋の独壇場。あらゆるテクニックを駆使してかっこよく決める。そして、トランペットが繋げまた中嶋へ。最後の曲「星に願いを」である。木管が幻想的な世界の蓋を開ける。

メドレーの最後にふさわしく、スローテンポだが華々しく奏でる。トランペットの旋律の後、中低音の旋律へ。そして盛大なフィナーレでメドレーは完結した。


柏原が客席に一礼した瞬間、盛大な拍手が鳴り響いた。そして、柏原は舞台袖へ引っ込む。だが、拍手は鳴り止まない。次第に拍手は手拍子となり、「アンコール」「アンコール」という声が木霊する。

再び、柏原が指揮台上に上がり、客席に一礼する。拍手はまたもや大きくなる。

そのまま柏原は、皆のほうを向くと拍手は鳴り止んだ。

本当に最後の曲、『星条旗よ永遠なれ』で締めくくる。

金管がファンファーレと共に鳴り響き、木管の旋律へ。さすがにマーチなので軽快である。客席も自然と手拍子が入り、講堂内の熱気が膨らむ。三浦もリズム打ちではあるが楽しそうに吹いている。勿論、他の奏者も同じである。吹奏楽をやっていて、いや音楽をやっていて最高だと思える瞬間だった。

曲も終盤に差し掛かるとアナウンスが鳴る。

「本日は今高高校吹奏楽部の演奏を聞きに来て下さいましてありがとうございました。」

「部員たちもよりいそう部活動に励みますので、暖かいご支援よろしくお願いします。」

「なお、私たちは放課後、音楽室で活動を行っていますので、やってみたいとお思いの方は是非音楽室までどうぞ~」

「ほんとうにありがとうございました。」

アナウンスが終わると同時に曲も終わった。

再び大きな拍手が沸き起こる。そして、舞台は暗闇に。

いつまでも続く拍手に三浦は涙が出そうになったのであった。


後編へ続く・・・


※1 曲についての説明は「第35話 夏合宿準備」を参照してください。全ての曲が動画でアップされています。

※2 柏原の指鳴らし。本来は手拍子だと思われるが、彼の演出である。

※3 指揮者はただ前に立って指揮棒を振り、指導するだけではありません。自分の音楽を作る為に、譜面を弄ります。それこそが指揮者の醍醐味だと著者は思っています。

※4 カップミュート。通常のミュートは円錐状ですが、これはその先にカップ上の被せがある。トランペットのミュートの種類は数多いです。著者が知っているだけでも4種類ありますね。

※5 ヤン坊マー坊天気予報のテーマソングです。最近、テレビで聞きませんが今でもやっているのでしょうか?詳細はウィキペディアで・・・って「ウィキペディア」すげー

※6 説明はAsker先生作『SAKURA WINDS』「コラムB 打楽器」を見ていただけましたら、打楽器のことを簡潔に書いてありますのでお勧めです。


文化の部も無事終わりました。さぁ残すは体育祭。しかし、ここは今高高校。それも曲者揃いの吹奏楽部。普通に終わるわけはありません・・・


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