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第49話 祭りだ!今高祭っ!(前編)

第49話 祭りだ!今高祭っ!(前編)


「先生、こんなところでサボっててええんか?」

「先生~なんかおごって~な~」

「先生ちゃうわ、ボケが!!」

「・・・でも、どっからみても先生ですよ?」

上から、南川・柏原・島岡・三浦の会話である。

今日は今高祭である。学校内は祭りで熱気に包まれていた。

3年の教室の前は模擬店が並び、体育館と校庭では軽音楽部がライブ中である。特に体育館はぶっ通しのマラソンライブをやるらしい。そして、講堂では主に演劇だ。演劇部や1年・2年の有志クラスが劇をしている。ちなみに吹奏楽部の出番は最後の演目で、おおとりを受け持つ。

しかし、その前に出演する人がいる。それが島岡というわけだ。どうも彼のクラスも演劇をするそうで、彼は年配の刑事役らしい。黄土色の地味なスーツを着ている。それが高校生としては大人びている(俗に言う老けている)彼にぴったりはまり、冒頭の会話というわけだ。

「でも、と~ても似合ってますよ~♪」

「げぇ、大倉!」

島岡は「げぇ、呂布(りょふ)!」並の台詞を放つと、素早く人ごみに紛れた。※1

「あ~ん、待って~~♪」

大倉は疾風のごとく後を追いかける。その姿を見た3人は「やれやれ」といつもの風物詩を眺めたのであった。


「ちょっと模擬店でも行きません?」

「そやな~ちょっと行ってみるか・・・不安やけど・・・」

三浦の誘いに柏原はそう答えた。今、三浦のそばにいるのは、柏原と合流した鈴木・沢木・朝倉である。南川はいつの間にか消えている・・・

そろそろ3年のエリアに近づく頃、沢木ぼそっと言う。

「そろそろやな・・・」

「せやなぁ・・・今年はどうなんやろうなぁ・・・」

柏原はそう答えると、三浦・鈴木・朝倉は首をかしげた。この先、一体何があるのかと・・・

「は~い、そこのボクたち~ちょっと寄ってかない?美味しいクレープなんてどう?」

そこには、うさぎさんがいた。黒の網タイツに際どい黒のレオタード・・・そして、ウサギ耳を被った女性だった・・・

「・・・今年はまとも・・・かな?」

「「「え~~~~~?!」」」

柏原の呟きに3人は驚きの声を上げる。この格好でまともだということに・・・

「柏原、まだ早い。あれ見てみぃ・・・」

「うぉ、今年もか・・・お前ら強行突破するで!」

沢木の声に柏原が反応すると即座に走り出した。その先には物々しい男たちの姿があった。女子の制服のスカートを穿き、厚めの化粧をした・・・

「おらおらおら~お前らうちに来るんやろうな!たこ焼きおいしいでぇ~」

「お、お助け~~」

「一人確保~~~~」

「け、化粧が付く~~」

その男たちは、近くの下級生の男共を捕まえると、どんどん各自の教室に放りこんでいく・・・

だが柏原は上級生なぞ糞喰らえらしく、そのおぞましい男たちをなぎ払っていた。沢木も『謎の棒使い』モードだ。どっから持ってきたか分からない棒を持って暴れていた。

「こ、こいつら、やり手や~他のクラスから応援呼べ~~」

リーダー格(やっぱりこいつも女装)が叫ぶと、廊下からさらに女装の野郎共が沸き、さらに混沌(カオス)となるのであった・・・


「おっ、ここのクレープ美味しいやん」

「「・・・」」

三浦はうまそうにプレープにかじりついていた。二人は絶句している。実は3人、こっそりバニーさんの後に付いて行って、この教室の中にいる。周りには3年の女子が、ウサギさんやらネコさんやらトラさんやらの格好をしてちょっとしたパラダイスだ。スイーツ店なのに男性客が多い。

すると唐突に扉が開いた。気が付くと廊下は静かであった。そこには頬にキスマークが数多く付けた柏原と沢木の姿があった。ちょっとふらついている。さらに、横を見ると可愛らしい女の子が立っていた。年は中学生くらいであろうか。背は150cmくらいで、髪は艶のある綺麗なセミロングだ。顔は整っており中々の美少女だ。目つきはちょっとキツメで、気が強そうなである。三浦はどこかで見たような、と首を傾げていた。

「なんや、柏原、だらしないなぁ。あの程度切り抜けれんとあかんで・・・」

少女は柏原を呼び捨てで言うと、柏原は即座に返事をした。

「う、うるさいなぁ、『アゲ』。」

「『アゲ』言うな、ぼけっ!」

そういうと少女は柏原をゲシゲシと足蹴にした。

「ちょ、ちょっとそれはやりすぎちゃうか~」

それを見かねた三浦はそういうと、その少女を止めるべく手を伸ばす。

「三浦、あかん。やめとけ~」

柏原が三浦に言った瞬間・・・彼は床に転がっていた。少女が三浦の伸ばした腕を取って、投げ飛ばしたのだ。

「おっ、ちゃんと受身取ったんや、えらいえらい。」

少女はそう言うと、三浦の手を取りすっと立たせる。中々の力だ。

「ちょっと、あんた。何様のつもり?」

その様子を見ていた朝倉が叫ぶ。少女はめんどくさそうに、

「きゃ~怖い、カバ兄ちゃん助けて~」

と、言って沢木の後ろに隠れたのであった。

それを聞いた三浦は、「その子、沢木先輩の妹ですか?」と聞いた。

沢木は、首を大きく何回も横に振って言った。

「んなわけあるか~なんでこの暴力女が俺の妹や・・・」

沢木は言い終える前に、蹴り倒されていた。勿論、少女に・・・

「こんないたいけな可愛らしい女の子に、暴力女なんて言うな。ボケがっ!!」

(いや、言ってこととやってることがチグハグ・・・あっ!)

三浦はその少女の行動が、ある人物と一致するのに気づいた。それと見たことがある目つき・・・

「もしかして・・・島岡先輩の妹?」

「あれ・・・ばれた?うん。うちが優の妹の『揚子(ようこ)』や。すまんなぁ、いきなり手~出してきたから、思わず体が反応してもうて・・・」

「「島岡先輩の妹?!」」

朝倉と鈴木が同時に叫ぶ。しかし、よく見ると整った顔立ちは兄と見比べても遜色がない。それに、あの鋭い目つきは、島岡がホルンを吹いているときの目つきとそっくりなのだ。

「兄ともどもこの馬鹿共がお世話になっています。」

揚子はそういうと、にこやかにペコりと頭を下げる。先ほどの暴力的な印象がまったくなかった。逆に大倉の様な小動物的印象を併せ持っていた。

「「「か、かわいい~~~」」」

朝倉とバニーの3年生たちが歓声を上げる。

三浦も投げ飛ばされたにもかかわらず、ぐっとくるものがあった。

そして彼女たちは揚子を囲んで、女の子トークをしだしたのである。


「あれなぁ~少林寺拳法で全国まで行ってる猛者やねん・・・それと合気道も・・・」

「「うへ~」」

柏原・沢木・三浦・鈴木は教室の片隅でクレープを食べていた。

「じゃぁ、廊下が静かなのも・・・」

三浦は少し青い顔をして言う。

「せや、全部あの子が投げ飛ばしてん・・・」

柏原は少しため息を付いて言う。

三浦はちらっと揚子の方を見る。どうみてもそうには見えない。可憐な美少女である。

しかし、性格は・・・三浦は絶対一波乱あると思いつつ、彼女たちを見ていた。


三浦たちはクレープを食べ、その教室を後にした。廊下は再び喧騒に包まれていたが、揚子の姿を見るや、モーゼの十戒の様に道が割れた。中にはがたがた震えている男子生徒(女装)もいる。その中を悠々と三浦たちは進み、一路音楽室を目指す。


「なんか微笑ましいですね。」

「いつもあんなんやったらええんやが・・・」

三浦の言葉に柏原が答える。

音楽室に着いた瞬間、揚子が島岡を見つけると「お兄ちゃ~~ん」と言って、島岡に飛びついた。そして腕を組んでいる。島岡はちょっと嫌そうな顔をしていたが・・・

「あの子・・・ブラコンですか?」

三浦は小さい声で柏原に言う。

「そうなんや・・・でも兄という安全弁がなくなること思うたら・・・平和でええわ。」

「た、たしかに・・・」

しかし、平和は長く続かなかった。いや、平和は次の戦の為の休み時間と言ったところか。大倉の登場である。

「あんた、なにしてるん?離れなさいよ!」

大倉はそういうと島岡の空いている腕を取り、腕を組みだす。しかし、揚子も負けてはいない。

「はぁ、なんでちんちくりんに、んなこと言われなあかんの?あんたこそ腕離しなさいよ。」

「ち、ちんちくりんですって~、何よこの胸無しのガキが!!」

(お互いにお互いの悪口言い合ってるって気づいてるんかな・・・)

三浦は思うだけだ。決して口には出さない。口に出したら命が危うい。

だが、こういうときの女の勘というのはすごいものだ。二人とも一斉に三浦を睨んだ。

そして、最近図太くなったとはいえ三浦もあせる。一気に冷や汗が出た。

二人は三浦を一瞥すると再び、ぎゃぁぎゃぁと言い合いながら島岡の腕を引っ張り合う。

「う、腕が・・・」

島岡は苦しそうに言うが二人の耳に入っていないようだ。どこかの童話じみた展開になっている。

しかし地獄に仏か、古峰が音楽室に入ってくる。暫く、その二人の様子を伺い内容を理解して彼女は動く。

「はいはい、そこの二人。そのくらいにしなさい。大切な島岡君が千切れるじゃないの。」

整然とした態度で古峰は言う。さすがにその声で二人は冷静になりお互い手を離した。開放された島岡はぐて~としている。それを見た二人はすかさず言った。

「ああ、お兄ちゃんごめんなさ~い」

「島岡先輩~ごめんなさい~」

二人はひとしきり謝ったが、お互いに顔を見合わせ「ふん!」といって背け合った。

それ以上騒ぎはおきなかったが、冷戦状態だ。

「女って怖いな・・・」

「あの3人で女を一くくりにするのもどうかと・・・」

三浦は柏原の言葉を諌める。予想通り、古峰がこちらを向く。にこっと笑うが、目が笑ってない・・・その分余計に怖い。

ともかくも、この狂乱の宴はひとまず幕を下ろしたのであった。


中篇へ続く・・・


※1 「げぇ、呂布!」。知る人ぞ知る台詞です。関羽に代えて貰っても結構です。長くなりそうなので解説は省きます・・・


さぁ、ついに始まった今高祭!!さすがに『祭』と付くだけあって、ただの文化祭ではなかった様です・・・あらゆる意味で・・・


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