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第46話 さぁ新学期

第46話 さぁ新学期


月日は経ち、気づけばもう8月の最終日、明日から二学期である。

三浦は、いつものように地下鉄の駅から学校への道を歩いていた。

「三浦~宿題写させて~」

突然声をかけられた三浦は後ろを見る。唖然とした後、呆れて言った。

「島岡先輩・・・何意味不明なこと言ってるんですか?」

「え?言ってる意味の通りやと思うんやが?」

島岡は平然と言う。

「・・・学年違うでしょうに・・・」

島岡はその言葉を聞き、いつもの口調で答えた。

「いや~一回言ってみたかったんや~風物詩やろ、この日は。」

「風物詩なんでしょうけど・・・学年合ってたとしても元々そのつもりないでしょ?」

「なんや、ばれてたんかいな。」

「もう、ばればれですよ。」

三浦はため息を付く。

「ちゅ~てもなぁ・・・この学校、夏休みの宿題言うても微妙なんやがな・・・」

「確かにそうですねぇ。」

この今高高校の夏休みの宿題は少し変わっている。確かに提出物はあるが、どちらかというとその後にある『宿題テスト』の方が比重が重い。というより、この『宿題テスト』の範囲のレポート提出が夏休みの課題だ。逆に言えば、提出しなくても『宿題テスト』の点数が良ければ十分なのだ。そんなわけで島岡は当然やっていない。まぁ、彼の場合は、提出物が重要でもしないだろうが・・・


二人は揃って音楽室に入ると、中は試験前の雰囲気をかもし出していた。本来ならば皆楽器を出して準備をしているはずなのであるが、教科書や参考書を広げている。

ある意味、皆が夏休みの宿題を今日この日に仕上げようとする風景に見えないこともない。

しかし、島岡はそんな風景に脇見もせず、楽器棚へと向かう。

「島岡先輩・・・試験、大丈夫なんですか?」

三浦は無駄と知りつつも心配そうに言う。

「大丈夫かって・・・んなもん、今更無駄なあがきはせえへんにきまっとるやろ~」

(いぁ、今更とかなんか違うし・・・)

えっへんと威張って言う島岡の言葉に三浦は少し呆れたのであった。


「世の中って・・・奇跡に溢れてんねんなぁ・・・逆に俺は絶望したわ・・・」

松島はしみじみと言った。

今日は例の『宿題テスト』の返却日であった。中間・期末試験と違い順位発表はないが、やはり皆自分の試験結果に一喜一憂する。

勿論、松島の点数は絶望するような点数ではない。

松島はもう一度しみじみ言った。

「なんや、その英語の点数は・・・」

「・・・」

三浦も呆然とその様子を見ている。

「なんやって・・・えらい失礼な言い草やな。俺がちょ~いと本気出したら、これくらい取れるねんで。分かってないなぁ~」

そこには赤字で『95点』と書かれていた。そして紙の氏名欄には・・・『島岡 優』と書いてあった。

「その『ちょ~いと本気』をいつもの試験で出せばいいのに・・・」

三浦は島岡の台詞をまねて呆れて言う。

「なんやなんや~ええ点取っても悪い点取っても奇人変人扱いか~。パパ、浩ちゃんをそういう子に育てた覚えはありませ~ん」

島岡はおよよと鳴きまねをしながら言った。

「誰がパパなんですか、だれが・・・それに浩ちゃんて・・・」

三浦はうげ~という感じで言うと、唐突に声がした。

「まぁ可愛そうな島岡先輩~♪私が慰めてあげる~♪」

それは大倉だった。「シュパン」っと音がしたと思ったら、島岡に飛びついてくる・・・というか、飛んでる?

「むっ」と危険を察知したのか、島岡は素早くサイドステップでかわした。大倉はそのまま行き過ぎる・・・まだ飛んでる?

だが、その先には沢木がいた。このままだと沢木に大倉が抱きつく形になってしまう。

沢木は「これはラッキー」と思っているのか、若干顔がほころんでいる。

しかし、大倉はくるっと180度回ると、そのまま沢木を足蹴にする。そのお陰か加速して再び島岡の元へ・・・まだ、足は地面に着いていない。

頭の中では(お前は『赤い彗星』かっ!)と突っ込む。※1

さすがに島岡はそれを予期していなかったのか、一瞬対応が遅れてしまった。そして・・・


「なんか安心しました。」

三浦は散乱した答案用紙を手に取りホッとしていた。

それは散々たる成績だ。どうやら島岡は英語のみ奇跡が起こったらしい。

「ちゅ~か、他に言うことあると思うんやが・・・」

松島は三浦の言葉に対して呆れて言った。

「え~、だってあれはもう日常茶飯事じゃないんですか?あれこそ今更ですよ、今更。」

「な~んか、お前、すげ~たくましくなったと言うか、なんというか・・・」

「まぁ、師匠のお陰ですよ。」

三浦は島岡の方を向きながら言った。

そこには、見事に大倉に撃沈された島岡がいた。ピクリとも動かない。

その島岡を、膝枕して大事そうに頭をなでている大倉の姿があった。その顔はうっとりとしていた。目の焦点は微妙だったが・・・

「微笑ましい光景やな。」

「なんか愛を感じるな。」

柏原と南川はその二人を見てニヤニヤしながら言っていた。

(なんか違うやろ、なんか!)

松島は一人頭を抱えていたのであった。


ちなみに、足蹴にされた沢木は倒れたままである・・・


※1 ルウム戦役にてシャー・アズナブル中尉がその戦法で戦艦を5隻撃沈したそうです・・・そのときに『赤い彗星』の名が・・・


三浦君もとうとうこのクラブに染まった瞬間でした・・・


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