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第42話 身内だけのコンテスト(後編)

第42話 身内だけのコンテスト(後編)


「次からはパートを超えたアンサンブルをお楽しみください。では、木管8重奏で、曲は『くるみ割り人形』より『行進曲』です。どうぞ~」※1

岩本がそういうと即座に準備に取り掛かった。

フルートは古峰・大倉、クラリネットは岩本・楠田・浅井、サックスは山郷・三村、ホルンは松島だ。

まずはフルートの旋律が始まる。それに対するかのようにクラリネットが入る。サックスとホルンは伴奏だ。

フルートの華やかさと、クラリネットのコミカルな感じが面白い。それが繰り返された後、中間部に入る。

岩本の素早いパッセージのソロと松島の伴奏が奏でられ、あとに楠田・浅井が入る。

そして全楽器による再現部となり曲は終わった。

(へ~ホルンが入っても全然違和感ないやん。逆に落ち着く気がする。)

三浦は演奏する準備をしながら思っていた。

「次は、全員1年だけの演奏です。金管四重奏、曲は『楽しき狩こそわが悦び』です。」※2

三浦たちは曲名を言われた瞬間「え?」っと思った。全員心の中では(なんとかのカンタータじゃないん?)と思っていたのだ。

曲名には『Was mir behagt, ist nur muntre Jagd!(Jagdkantate)』と書かれており、三浦たちは最後の「kantate」しか訳せなかったようだ。

ちなみに、訳したのは大沢だ。さすが医者、ドイツ語がよく読める。というよ、曲自体知っていたのであろう。

(音楽というか楽譜って偉大やな~。国が違ってもちゃんと読めるんやから・・・)

三浦はそう思っているうちに、他の3人も準備が完了したようだ。目で合図を送ってきた。

三浦がホルンを構えると、小路・丸谷・鈴木も構える。そしてゆっくりホルンを振る。

ホルン・丸谷・鈴木の伴奏が始まる。ゆっくりながらも和音が揃わないとこの曲は一瞬で崩れる。慎重に1音づつ揃える。まさにごまかしが効かない曲である。

そして小路の旋律のトランペットが響く。始めは高音の旋律のため、時々音がかすれるが、外すまではいかない。結構つらそうだ。そして中音へと移動する。

再び伴奏のみ、それに続くは丸谷の旋律だ。途中で非常に音が取りづらい箇所があるが、なんとかこなす。調が変わる。伴奏の三浦・鈴木が一番神経を使うところだ。

続くは小路の旋律、最後はトランペット2本が揃っての旋律で曲が終わった。

全員1年だった(それも4人とも高校からの初心者)ともあって拍手は大きかった。

「よ~やった4人とも~ええ演奏やったで~」

島岡が大声で言う。三浦はそれにニコっと笑って答えた。

「後はゆっくり俺らの演奏でも聞いとけよ~。格の違いみせたるわ~」

柏原が自身満々に笑いながらそう言った。

「では、その自慢の演奏を皆で聞きましょう。金管五重奏、曲名は『サウンドオブミュージック』です。どうぞ~」※3

岩本が紹介すると、柏原・南川・島岡・中嶋・寺嶋の5人が席に座った。今高吹奏楽部の金管五重奏で最強の編成であろう。

柏原のトランペットの振りで合図が入る。チューバの吹き伸ばしの後、ホルン・トロンボーンの旋律だ。そしてトランペットが入り、フェルマータで柏原が合図を送りスムーズに繋がる、トランペットの旋律とトロンボーンの対旋律。ホルンとチューバの伴奏がしっかりとリードする。時折ホルンの対旋律が響く。

そしてホルンのソロだ。自然なアッチェレランドで曲を盛り上げてく。※4

盛り上がった最後は再びフェルマータだ。嫌味がないくらいで次に続ける。次はトロンボーンが旋律となりトランペットへと・・・トロンボーン・ホルン・チューバの伴奏が再びアッチェレランドとなり山場を迎える。そして終曲へ、ホルンのソロで曲が終わる。

しばらくしーんとした後、大きな拍手があがった。

三浦はあまりの感動に我を忘れてしまった。島岡だけではない、柏原も南川も中嶋も寺嶋もすばらしい演奏だったのだ。柏原の格の違いというのも、頷けた。


「これで、アンサンブルコンテストを終わり・・・」

「ちょっとまった~~」

岩本が締めくくろうとしたところへ更科の声が轟いた。

「えっ、何か・・・」

「せっかく、ええ演奏聞かせて貰ったんや、俺から一曲皆に奉げたくなってな。言うても、今日は城山も広沢もおらんから、金管五重奏でけへんけど・・・島岡~あれせえへんか?」

「え?またですか?」

島岡は怪訝そうに言う。三浦は「ああ、あれか~」と感じた。あの激ムズのホルン二重奏だ。(第18話 その男、最強につき・・・参照)

「ちゃうちゃう、もう一個のほうや。」

どうやら違うようだ。島岡はさらに嫌そうな顔をする。

「さすがにあれは一番練習してませんよ?」

「かまへん、俺が一番するから。」

更科がそういうと島岡はあきらめたようだ。ホルンケースに移動し、楽譜を準備する。

皆はざわざわとしている。今から何が始まるかを期待して・・・

「では、ホルン二重奏や。曲は・・・聞いたらわかる。」

更科がそういうとホルンを一振りする。三浦も皆と同様ちょっとどきどきしている。

(え?アイネ・クライネ・ナハトムジーク!?)※5

それも相当テンポが早い。しかし、二人は難なくこなす。高音部の更科、それを受ける島岡。息もぴったりでまったく乱れがない。そして最後はさらにアッチェレランドをかけ嵐の様に曲が終わった。

(ホ、ホルンであの動きをするんか~~~!!)

感動よりも驚きである。特に三浦は同じホルン吹きである。その難しさは一番判っていた。

そしてようやくアンサンブルコンテストは閉幕した。


「では、これより表彰式をします。」

あの嵐の様な演奏が終わってから10分後、審査が終わったようである。ちなみに、更級・島岡コンビの演奏は対象外だ。

「では、銅から・・・クラリネット五重奏。」

岩本が言うと、本来ならリーダーである岩本の代わりに辻本が出てきた。手製の賞状と大きな包みが手渡された。OBからの商品である。

大きな拍手の後、岩本が再び言う。

「続いて、銀・・・木管8重奏。」

言われて古峰が前に出る。同じく賞状と商品を受け取った。

(う~ん、木管勢が銅・銀かぁ~)

三浦はホルンパートが入ると思ったのか少し残念そうだった。金はきっと・・・

「では、金です・・・金管五重奏。」

(あっ、やっぱり)

三浦が想像していたように、金管五重奏は金となった。柏原が賞状と商品を受け取り、大きな拍手も貰った。

「では最後に、審査員特別賞です。」

(あっ、そういえばそういうのあったな~)

三浦はとっさに思い出すと、そのまま岩本が言った。

「金管四重奏。」

「「「「え!?」」」」

三浦・小路・丸谷・鈴木は同時に驚いた。まさか、賞を貰えるとは思わなかったからだ。

「・・・代表者、早く前に・・・」

岩本がそういうと小路・丸谷・鈴木の視線が三浦に集中した。三浦も「え?僕?」っと驚く。

「三浦~とっとと前にいかんか~」

島岡はニヤニヤしながらそういうと、三浦は「はっはい!」と声をひっくり返して前に出た。

「おめでとう、よく頑張ったわね。」

岩本が賞状と商品を渡すときに小声でそう言った。

「あ、ありがとうございます。」

受け取った三浦は大きな声を出して言った。そして周りを見ると皆暖かい笑顔で見守っていたのであった。

そうして、夏合宿最大のイベント、アンサンブルコンテストが幕を閉じたのである。


※1 ピョートル・チャイコフスキーの作曲したバレエ音楽(作品番号71)の2曲目の行進曲である。クラッシックを知らない人でも聞いたことがあると思います。

※2 ヨハン・ゼバスティアン・バッハ作曲、通称『狩のカンタータ』。

※3 元々は自叙伝『トラップ・ファミリー合唱団物語』の前編に基づくミュージカル。のちにミュージカル映画として1965年公開。どちらかといえば映画の方を知っている方が多いのではないでしょうか。

※4 アッチェレランド。テンポが次第に上がっていくことを指す。アッチェレまたはアチェレと略すときもある。(著者はアチェレ派です。)

※5 モーツァルトの曲の中でも非常に有名な曲の一つ。ここで演奏しているのは『第1楽章 アレグロ、 ソナタ形式 ト長調 4/4拍子』である。通常は弦楽合奏、あるいは弦楽四重奏にコントラバスを加えた弦楽五重奏で演奏される。著者も楽譜を持っていますが、相当難しいです。


アンサンブルコンテストも終わり、三浦たちの1年生カルテットは「審査員特別賞」。身内での大会でしたが何か身についたようです。


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