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第41話 身内だけのコンテスト(前編)

第41話 身内だけのコンテスト(前編)


夕食後、部員・OBは広間に集まっていた。いつも指揮台があるところには、椅子と譜面台がセッテングされている。部員たちは広間の端に、対面には6人のOBが審査員として座っていた。

「トップバッターは、フルート四重奏です。曲名は『アマリリス』です。」※1

司会は岩本だ。その声に4人が椅子に座る。メンバーは古峰・犬井・大倉そして小柳先生だ。

一度4人でチューニングを再度行う。そして、古峰の合図で演奏が開始された。

(うわ~めっちゃ懐かしい~)

三浦は曲を聴いて思った。

古峰が旋律を吹く。フルートらしい綺麗なハーモニーだ。そして犬井がピッコロで旋律を吹く。中間部は小柳先生だ。ビブラートが不自然に響く。どうも緊張しているらしく、震えが音に伝わっているようだ。最後は大倉が旋律を吹き曲は終わった。確かに小柳先生の所はちょっと残念だったが、先生にしても社会人から始めて、練習時間も余り取れない。しかし、技術はともかく音色に関しては十分及第点であろう。

拍手の後、岩本が次のパートを紹介する。

「次にクラリネット五重奏です。曲名は『星条旗よ永遠なれ』です。」

クラリネットパートはあえて今高祭で演奏する曲を出してきた。※2

メンバーは、岩本・楠田・辻本・犬山・浅井だ。B♭クラリネット4本、バスクラネットの編成である。

クラリネットの華やかな音と、下を支える辻本のバスクラがいい調和が取れている。

特に浅井は1年ながらもこの中で唯一の中学からの経験者である。難しいトリルやすばやい指回しなど難なくこなしていた。

後半の繰り返しのないバージョンであったが、最後まで華やかな演奏で幕を閉じた。

「次にサックス四重奏です。曲は『A列車で行こう』です。」※3

(おっ、A列車か~)

三浦はちょっとわくわくした。このクラブに入ってから、今まで見向きもしなかったクラッシクやジャズを聴くようになっている。知っている曲が演奏されると、嬉しいものだ。

メンバーは、山郷・朝倉のアルトサックス、三村・原のテナーサックスという編成だ。

山郷の合図の後、演奏が始まる。本来ならばピアノソロで始まるが、そこはカットである。サックスの艶のあるハーモニーが響く。

前半はテナーサックスによる旋律だ。アルトサックスが裏で動く。

そして中間部、アルトサックスのソロが始まる。山郷だ。いつものおっとりさが感じられない色っぽい音を奏でる。後の3本はソロが引き立たせるように演奏する。

そろそろ曲が終わろうとしているころ、三浦たちホルンの4人は楽器の用意を始める。いよいよ次が出番だ。

「次にホルン四重奏です。曲名は『グリーンスリーブス』です。」

岩本も紹介の後、4人は並ぶ。三浦・松島・石井・島岡の順だ。その様子を見た部員やOBは少し驚いてる。三浦が1stだということに・・・

軽くチューニングを行い、三浦がホルンを振る。

(なんや~結構、様になっとるやないか)

更科は三浦の合図に少し感心した。

三浦・松島の旋律、石井・島岡の伴奏が始まる。松島や石井は途中で対旋律や伴奏・旋律で三浦を支える。島岡は常に伴奏だ。その低音はしっかりと3人をリードする。

そして・・・三浦の旋律はその3人の上に乗っかり、そして歌う。それに答えるように松島は対旋律で迎える。石井・島岡の伴奏は取り乱さずしっかりと支えていた。三浦はこの非常に吹きやすい環境で、伸び伸びと演奏をしたのであった。

「次にトランペット五重奏です。曲は『G線上のアリア』です。」※4

(ええ~、あの派手好きのラッパが・・・)

三浦がそう心の中で叫ぶと、トランペットパートが並んだ。柏原・南川・沢木・小路・丸谷の順である。

柏原が軽くトランペットを縦に振ると曲が始まった。

旋律は主に南川が受け持っている。残りは伴奏だ。ゆっくりとしたハーモニーが響く。時折、和音の上を担当している柏原が、高音を優しく奏でる。あの爆音トランペッターがである。旋律を消さないように、極力音量を落として吹いている。

そして、最後の吹き伸ばし。柏原がそっとトランペットで円を描くと静かに終わった。静まり返った広間の中大きな拍手が起こったのである。

「次にトロンボーン三重奏です。曲名は『リパブリック賛歌』です。」※5

岩本の曲の紹介で三浦は首をかしげた。聞いたことがない曲名だからだ。しかし、それは中嶋のトローンボーンソロで解明された。

(あっ、「おたまじゃくはかえるの子」かぁ)※5

中島のゆったりしたソロで始まったその曲は、いきなり早いテンポのスィングに変わった。鈴木が旋律、甲斐が低音の伴奏、中嶋が副旋律である。

1年である鈴木であったが、しっかりと旋律を吹く。しかし、それ以上に難しいのは中嶋の副旋律だ。すばやいスライド操作で、複雑な音を奏でる。時折、トロンボーンにしかできないグリッサンドを交えて花を添える。その演奏力は、同じトロンボーン奏者である大沢も思わず唸ったほどだ。

そして華やかなパレードで曲が終わった。

「次は・・・これなんて読むの?」

岩本が坂上に聞きに行く。そして戻ってくる。

「失礼しました。次は金管三重奏です。曲名は『組曲「奇異(きい)」』です。」

(組曲?アンサンブルで?それも聞いたことがない曲名だな。)

三浦は首をかしげる。広間にいる全ての人がその思った。

坂上・平田・寺嶋が演奏を始める。その組曲は・・・あらゆる曲の集合体だった。

始めは、第一組曲の「シャコンヌ」の冒頭部分が始まる。※5

ユーフォの坂上・平田、チューバの寺嶋の素晴らしい演奏だ。そしていつものバリチューパワーが炸裂する・・・いつの間にか曲は「ぞうさん」短調バージョンに摩り替えられ(第5話 楽器紹介(金管&打楽器)参照)、その後はなぜか「チャンチャカ・チャンチャン・チャンチャンチャ~ン」(中国音楽のあれです)が鳴り響き、NHK「きょうの料理」のテーマへ・・・そして大阪市のごみ収集車が鳴らす通称「ごみ屋」の音楽(これも第5話 楽器紹介(金管&打楽器)参照)で曲は終了する。※7

(・・・)

皆、同じ気持ちであった。その中でいち早く自分を取り戻した岩本が、次の演目を紹介する。

「つ、次に・・・パーカッション4人による演奏です。曲名は『スターウォーズ』です。」

(打楽器だけで・・・あ、そうか鍵盤があったか。)

同じく自分を取り戻した三浦の疑問は、伊藤がマリンバの前に立つことで解明された。

金沢はドラムセットに座りステックを叩いて合図する。

「ワン・・・ツゥー・・・ワン・ツゥー・スリィ・フォー」

タムタムのフィルインから始まるスターウォーズだった。編曲元はディスコバージョンであろう。

伊藤のマリンバが旋律だ。同じ鍵盤を何回も叩き、通常なら吹き伸ばしをそれで演出する。

金沢はドラムセットでベードラ・ハイハット・スネアでリズムを支える。そこにタンバリンの古河が入りさらに、大原のコンガが独特の音を出す。

(これは・・・サンババージョン?)

三浦は思わず笑みがでた。そしてドラムセットが鳴り止むと、グロッケン(鉄琴)による静かな独奏だ。※8 時折ウィンド・チャイムが雰囲気を出す。そしてホイッスルとともに元に戻り、騒がしいうちに曲が終わった。

(うわ~打楽器だけでアンサンブルできるんだ。)

三浦は思わず感心したのであった。


後半へ続く・・・


※1 『アマリリス』。ヒガンバナ科ヒッペアストルム属ではなく、17世紀のフランス王、ルイ13世が作曲した曲。小学校の音楽の教科書に載っていましたね。

※2 クラリネット五重奏用の楽譜が存在するみたいです。譜面を見ていませんから編成等は著者の空想です。

※3 ジャズのスタンダード・ナンバーの一つ。作曲ビリー・ストレイホーン。近年では映画「スウィングガールズ」で演奏されましたね。

※4 ヨハン・セバスチャン・バッハの『管弦楽組曲第3番』のうちでも、とりわけ名高い「アリア」楽章に付けられた愛称である。ちなみに、G線上とは「ヴァイオリンのG線のみで演奏可能」という所から付いた。詳細はウィキペディア等で参照してください。

※5 リパブリック賛歌。アメリカ合衆国の民謡・愛国歌・賛歌であり、南北戦争での北軍の行軍曲である。日本では『お玉じゃくしは蛙の子』『権兵衛さんの赤ちゃん』の替え歌で知られている。

※6 グスターヴ・ホルスト作曲。正式には『吹奏楽のための第1組曲 変ホ長調 作品28の1 』でシャコンヌ、間奏曲、行進曲の3曲からなっている。文中はその中でもシャコンヌを指している。

※7 この組曲「奇異」は実話です・・・後に「完成バージョン」が・・・

※8 グロッケン。正確には「グロッケンシュピール」。


アンサンブルコンテストで全パートの演奏が終わりました。後半へ続きます・・・


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