第39話 それぞれのアンサンブル
第39話 それぞれのアンサンブル
「もう一回、頭からしよ。」
「「「OK」」」
三浦の声に3人は返事をした。
今はまだ日も上がりきっていない午前中。昨日の調整の結果、この時間からアンサンブルの練習が始まった。島岡も松島もいない1年だけの練習だ。
(ここがなんか吹きにくいなぁ。)
三浦はそう思っていたがまだ皆には言っていない。そのとき、ふと島岡の言葉を思い出した。
(・・・お互い聞きあって、言い合ったらええねん・・・)
「なぁ、小路~」
小路が「ん?」と反応する。
「ここなんか合ってなかった気がするんやけど、どう思う?」
「そうか~?そんなこと無いと思うけど・・・」
小路はちょっと怪訝そうに答えた。それを見た丸谷は、「せやったらそこ一回やってみたらええねんよ。」と和やかに言った。
「そうやな。じゃ、お互い聞きながらやろか。」
三浦はそう答えると、その部分から4人は演奏を始めた。
合図は三浦のホルンの振りで始まる。始め3人は戸惑っていたが、何回もしているうちに今ではすっかり慣れていた。
そして問題のところを吹く。耳を傾けてだ。
(あ、やっぱり。ラッパのピッチがちょっと低い。上の音が上がりきってないんや。)
確証を得た三浦は、演奏後にその事を告げると小路も丸谷も気づいたのか、「ほんまやったな~」と声を合わせて言ったのである。二人は三浦と少し離れてその部分を確認しあう。
「お前、よう判ったな。合ってないところ。」
鈴木が感心したように言う。
「ん~判ったというか、合わそうと思ったらそこだけ吹きにくかったんや。なんかかなりアバウトやけど・・・」
三浦は頭をかきながら言う。
「でも、判るだけでもすごいで。俺なんてまだ自分の所吹くので精一杯や。まだ他人の音聞く余裕あれへんで。」
鈴木がそういった後、合わせ終わったのか小路が話に割り込む。
「これで大丈夫やと思うけど、もう一回この部分やれへんか?いけてるかどうか試したいねん。」
「OK、しよか。」
三浦がそういうともう一度4人で合わせる。今度はピッチも合い、和音もきれいに揃った。
「おお、なんか吹いてて気持ちいいな。今やったら俺もわかるで。確かにこれに比べたらさっきの吹きにくかったな~これが三浦が言ってたことか。」
鈴木は吹いた後驚いていうと、三浦はちょっと誇らしかった。
その後も4人がお互いに聞きあいアンサンブルを続けたのであった。
(松島君の音って・・・こんなんやったっけ。すっごく温かくて優しい音やん。とっても吹きやすい~)
楠田は合わせながらそう思っていた。始めは島岡を入れようと思っていたが、今を思えばそれだと島岡の音にクラリネットが負けてしまうと思ったのである。逆に松島の音だとこのアンサンブルに綺麗に溶け込んでいる。
「岩もっちゃん、もうちょっとこの部分・・・そうそう、ここ。前に出る感じで吹いてもらうと俺助かるんやけど・・・」
演奏後、松島は岩本に言った。そこは岩本が旋律で支えるようにホルンが伴奏をしている部分だ。譜面はそこの音量はピアノが指示されていた。
「でも、ここピアノやん。そうなったら、そのあとにあるメゾフォルテと差出えへんようにならへん?」
岩本はちょっと不服そうに言う。だが松島も負けてはいない。
「そうなんやけど・・・メゾフォルテから愛ちゃんのクラも入るやん。ピアノのとこは岩もっちゃん1本やし・・・それでバランス取られへんかな?」
岩本は「ああ、そっか~」と言って納得すると譜面にペン入れをする。
実は、さっきから松島はこんな感じで、全体の音量やピッチを色々言ってくれるのだ。
(誰やも~、ホルンは島岡君以外おまけ言ったんは・・・松島君も全然うまいし、こうやって色々言ってくれるやん・・・それに・・・この音結構好きかも・・・)
楠田は心の中で自分のことを棚に上げつつ、演奏を続けるのであった。
島岡・南川・柏原・中嶋・寺嶋の5人は駐車場にほど近いところで練習をしていた。
本来なら寺嶋はコンクールで引退のはずなのであるが、未だにそんな気配はない。クラブ1のトラブルメーカーはクラブ1の楽器好きなのかもしれない。
「よう、島岡~元気にしとったか~」
「あ~更科さんや~、今着いたんですか~?」
ちょうど休憩中だった島岡は「ぎゃはは」と笑いながら言った。(第18話 その男、最強につき・・・参照)
「「「更科さん、こんにちわ。」」」
対照的に、南川と柏原、そして寺嶋もちょっと顔を引きつって言う。島岡と違い3人から見た更科は、厳しい先輩に違いない。
「(ニッコニッコ~)」
中嶋はマイペースで会釈をする・・・島岡とは違う意味で動じなかった。
「ほんま、お前らは・・・まぁええわ。大橋と河合は夕方にきよるで。あとな・・・」
少しため息を付いて更科が言ったが、言い終えないうちに後ろから一人の男が割り込んできた。
「よぅ~久しぶりやないか。この前のコンクールよかったで~」
「「「「「大沢さん!?」」」」」
島岡・南川・柏原・中嶋・寺嶋の声が揃った。
そこには一人の男がニコニコして立っていた。
大沢先輩・・・更科の2つ上のOBで楽器はバストロンボーン。温厚でいつもニコニコしている。しかし、演奏は雰囲気と真逆で激しい。島岡の様に雰囲気まで変わらないが、大音量になると「バリッバリッ」と音を割る。ついたあだ名は「ニコバリ」(ニコニコしながらバリバリ鳴らす)。さらに、驚くなかれ職業は医者であり、それも「小児科医」である。
更科曰く、「絶対、あの人だけには手術されたくないわ。笑いながらメスで腹切りそうや。」と。
「1年がここにおれへんけど、誰か練習見てるんか?」
更科が周りを見回しながら言った。それに島岡は答える。
「三浦らもアンコン出るんで今は別練習してすねん。」
「そうか~、じゃぁ、俺が見てきたろか?」
しかし、大沢はやんわりその言葉を否定した。
「更科~自分で音楽作るええ機会やで。俺らはちょっとゆっくりしてよや。」
「あっそうですね。じゃあ俺らはロッジにいるから、用があったらいつでもこいよ~」
「そのときはよろしくお願いします。」
更科の言葉に島岡はそう答えると、更科・大沢はロッジの方に向かったのであった。
「よっしゃ、もう一回頭からしよか。」
柏原がそういうと、5人は演奏を始める。その音色はロッジまで届き、更科・大沢をうならせたのであった。
ホルンパートの面々がばらばらに分かれての練習です。そしてOBも集まりつつあり、夏合宿も佳境に近づいてきました。
お詫び:小ネタ集を一番最後に掲載しておりましたが、最新更新日が更新されなくなるので削除しました。最終話後に外伝?の形でアップしますのでよろしくお願いします。