第35話 夏合宿準備
第35話 夏合宿準備
今日は今高祭で演奏する曲の選曲日である。
だが、今日は島岡の姿がなかった。彼のホルンも、楽器掃除の為持ち帰られていてここにはない。
「柏原先輩、島岡先輩今日はどうしたんですか?」
三浦は島岡のすぐ近くに住んでいる柏原に尋ねた。
島岡と柏原は小学校からの仲である。
「あ~、そやな~・・・確か暫く用事で来れんって言ってたで。まぁ、合宿までには戻ってくるやろ。」
「用事・・・ですか?」
「ああ、用事や。」
三浦は柏原が明らかに何かを隠していることを、感じ取っていた。
本人から口止めされているのか、柏原があえて話さないのかは分からないが、このまま問い詰めても話さないであろうと思った三浦は、南川に聞いてみた。
「部長~、島岡先輩いないんですけど・・・」
「あ~昨日の夜、家に電話あってな。暫く来れないっ言ってたわ。」
「そうですか・・・」
南川は詳しく詳細を知らなさそうだ。
昨日の今日である。三浦は少し心配になった。
「選曲するで~。配られる楽譜は原譜やから汚すなよ。」
柏原が黒板の前で言う。彼の横の机の上には、CDラジカセと音源であろうカセットとCDが置かれてあった。
黒板上にはかなりの曲数が並んでいた。が、全部書くとトンでもない数になるので省略する。
すったもんだの挙句、以下の曲が今高祭の曲となった。(括弧内は三浦の感想)
・ディズニーメドレー1
ディズニーの名曲が7曲入ったメドレー。
「ミッキーマウス・マーチ」「小さな世界」「ハイ・ホー」「狼なんかこわくない」「いつか王子様が」「口笛吹いて働こう」「星に願いを」が収録されている。
(ミッキーマウス・マーチのチューバソロがコミカルで好きです。)
・カーニバルのマーチ(杉本 幸一作曲)
88’吹奏楽コンクール課題曲D。
(コンクールの課題曲なんだけど、軽快で一般の人でも飽きないと思います。途中の打楽器のみのところが楽しそうですね。)
・バックトゥザフューチャー(A.シルベストリ作曲、J.ブリア編曲)
映画「バックトゥザフューチャー」のテーマ曲。
(ホルンの旋律がすごくカッコイイです。)
・ムーンライトセレナーデ(グレン・ミラー作曲)
スウィング・ジャズの代表曲の1つであり、グレン・ミラー楽団のバンドテーマとなっている。
(スローテンポで以前から聞いたことがある曲です。結構、好きですね。でも、ホルンの活躍する場が・・・)
・茶色の小瓶(ジョセフ・イーストバーン・ウィナー作曲)
元々アメリカ合衆国の民謡で、グレン・ミラーの演奏で一躍有名になった。ジャズのスタンダードナンバーの1つ。
(軽快なジャズです。でも、やっぱりホルンが・・・)
ここからは歌謡曲となります。
・ダイアモンド
プリンセス・プリンセスの曲。
(プリプリですね。あんまりファンでもないので良く分かりません。)
・恋したっていいじゃない
渡辺美里の曲。
(この曲は好きですね。でも、ブラバンでするとどうなるんですかね。ちょっと不安です。)
体育祭で演奏するマーチです。文化祭にはアンコールとして1曲演奏します。
・双頭の鷲の旗の下に(ヨーゼフ・フランツ・ワーグナー作曲)
運動会などの行進曲としてよく用いられる。明快かつリズミカルな曲調。
(小学校の運動会でかかってましたね。曲名がカッコイイですね。)
・錨を上げて(チャールズ・ツィマーマン作曲)
アメリカ海軍の事実上の公式歌(行進曲)として知られる。
(中盤からの旋律がいいです。でも、譜面がE♭です。)
・星条旗よ永遠なれ(ジョン・フィリップ・スーザ作曲)
アメリカ人の愛国心の象徴とも言える行進曲で、1987年12月にはアメリカ合衆国の「国の公式行進曲」に制定された曲。
(ピッコロソロが小鳥さえずりのようで好きです。ホルンは後打ばかりだと思っていましたが、後半に山場がありました。同じく譜面がE♭です。)
ちなみに、すったもんだの内容というのが・・・
・第一組曲より「マーチ」・威風堂々
柏原「誰や、これマーチのカテゴリーに入れたんは・・・」
・軍艦行進曲
男子一同「「この曲はぜったいやるべきだ!!」」
女子一同「「さすがに・・・外しましょ!!」」
後に「パチンコ行進曲を体育祭で演奏し隊」が結成したとか、しなかったとか・・・
「三浦~松島~、花火買いに行かへんか?」
次の日のいつもの挨拶後、南川は三浦に声を掛けた。後ろにはトランペットパートの面々がいた。
「花火・・・ですか?」
「そうや、合宿でやる花火や。」
三浦は「ああ」と納得すると、共に音楽室を出たのであった。
「さぁ、買うで~」
トランペットパートの4人(柏原はスコアーの製本に借り出されている)とホルンパートの2人(島岡は今日も休み)は、松屋町のとある人形店にいた。
普段ここはおもちゃの問屋街であるが、夏場は花火の問屋街にもなる。
三浦は店の中を見て圧巻した。そこにはあらゆる花火が店舗内にひしめいていた。中には絶対素人には使うことはできないであろう、尺球まであった。※1
店が用意した段ボール箱に好きな花火を入れていく。線香花火・手持ち花火・ロケット花火・打ち上げ花火・爆竹・ねずみ花火・煙玉・・・煙玉?
「誰や、煙玉入れたんわ。へびもあるやないか!」※2
南川の声に沢木が反応する。
「え~、あかんの?」
「合宿でみんなでやる奴やで。ちょっと考えたら判るやろ・・・」
「煙幕になっておもろいのに・・・」
南川は呆れると、煙玉をへび花火を箱の中から取り出して。沢木に渡す。
「そういうんは個人で買え。これは部費で買う奴やからな。あと爆竹とねずみ花火も個人もちやで。」
結局、ダンボール箱には約1万円分の花火が詰め込まれたのであった。
次の日、今高祭の楽譜が配られた。ホルンパートは松島が島岡の代わりに取りに行く。
「・・・」
「・・・」
「ねぇ、松島先輩。これって・・・」
「分かってる、とりあえず触ってみよか・・・」
三浦と松島は、バックトゥザフィーチャーの楽譜を見て顔を青くしていた。
そこには旋律の部分でハイE♭の音を見つけたからだ。そう、三浦がホルンの旋律で「カッコエー」と思っていた正体がこれだったのである。
「まずはオクターブ下で練習するんや。そのあと・・・やるで。」
「分かりました。」
三浦はまずオクターブ下で指をさらう。確かに旋律なのであるが、迫力がいまいち欠けていた。
そして、譜面通りに吹いてみる。ハイB♭は余裕だ。ハイCもなんとか。ハイD♭とハイE♭が出ない。松島もハイD♭までは出たが、どうしても最後のハイE♭が出ないようであった。
「こら・・・あかんわ。ここは島岡に踏ん張ってもらうしかないで。俺らはオクターブ下でやろか、今は。」
「それしかないですねぇ。早く戻ってけえへんかな・・・」
松島の言葉に三浦はそう返事したのであった。
結局、合宿当日まで島岡は顔を出すことは無かったのである。
※1 尺球。よく花火大会で打ち上げているあれである。
※2 へび。へび花火のこと。火をつけると煙と共に黒くて長い物体がでてくるあれである。
ちゃくちゃくと進んでいく今高祭と夏合宿の準備。だが、そこにいない島岡に三浦は不安を感じるのでした。