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第31話 いざ決戦(後編)

第31話 いざ決戦(後編)


舞台の上は観客席同様暗かった。

その中を今高高校吹奏楽部の部員たちは各々の決められた席に着く。

ティンパニーは最後のチューニングとして、音叉を聞いて軽く「ぼーん」と叩く。

誰も話はしない。静かだ。

グルッと観客席を一回しすると、全席が人で埋まっていた。後ろは立ち見だ。

彼は初めて舞台という場所に立ち、そして座った。緊張はしているが変に意識はしなかった。先ほどのトロンボーン効果であろうか。


『プログラム○○番、府立今高高等学校による演奏を行います。曲は課題曲B「交響的舞曲」、自由曲レナード・バーンスタイン作曲「キャンディード序曲」です。』

アナウンスが終わると舞台に照明が戻った。照明が付けられると不思議と観客席は見えない。

河合が舞台袖から指揮台に上がる。

一礼すると拍手が起こりすぐ静かになった。

河合がこちらを向く。部員全員が河合を見る。指揮者に集中するとさらに観客を気にすることは無くなった。河合は目で「落ち着いていつもの通りだ」と語りかけてくるのが不思議と伝わる。

河合がタクトを構える。それに反応して曲冒頭で入るパートが構える。三浦もその一人だ。

そして・・・曲が始まった。


クラリネットの静かな前奏が始まる。始めは1本そして掛け合いとなる。

そして木管が旋律となり、ホルンの静かな伴奏がそれを支える。時折、ホルンはゲシュトップを行う。操作は忙しい。三浦の譜面にはゲシュトップ記号を示す「+」がないのでそのままだ。

山場直前でホルンの2分3連符が盛り上げる。三浦はここが苦手であったが、今日はうまいこといった。※1

前半部の最大の山場で全ての楽器が入る。だがフォルテであり最大音量ではない。そして音量はフォルテシモへ。

木管の旋律戻るが、対旋律のトロンボーンが忙しく入る。

その後急速に音量は減衰し、最後はチューバの数小節のソロで前半部は終了する。

中間部、頭はホルンの「パァーン」という和音から始まる。三浦がこの曲で一番緊張する瞬間だ。ここで和音が決まらないと曲をぶち壊すからだ。

サックスの艶のあるアンサンブルが始まる。そして全体の旋律へ・・・中低音の渋い音が響く。

中間部最後は、高中音が奏でる。吹き伸ばしの後には、トランペット・トロンボーン・チューバが前奏部の旋律を添える。

再現部、再びクラリネットの静かな旋律が始まる。輪唱のように色々な楽器が入ってくる。

そして、中間部の旋律を中音・中低音楽器が奏でる。ここでは島岡の音が中心だ。聞いていると鳥肌が立つくらい彼の実力が遺憾なく発揮された。クラリネット・トランペットがその花を添える。

前半部の最後旋律が再現され、対旋律にはトロンボーンと更にトランペットが入る。

最後はチューバの旋律の後にピッコロの可愛らしい音が響くと、最後の打ち込みの和音で曲が終わる。※2


曲間に各パートは忙しく席を変える。ティンパニーもこのうちに音を変える。ホルンは移動は無い。

全員が準備を終えたころ、全員河合を見る。それを合図と受け取ってか河合は構えた。

前振りが行われる。速さはいつもの通りだ。


ティンパニーの後に華やかな金管のファンファーレが響く。

ホルンの軽快な打ち込みのあと木管の早い旋律が入る。

それが繰り返された後、木管とホルンの旋律が始まる。この旋律は三浦は付いていけない、先輩達が頼りだ。4本のホルンがきれいに揃う。その後ホルンはミュートを取り付け、すぐさまオープンへ。非常に忙しい。

トランペット・トロンボーンが主体となる旋律が奏でられ、そして木管の忙しい旋律が後を追う。

ここでもホルンはゲシュトップを行っている。手を出したり入れたりだ。「ホルン殺し」とはよく言ったものだ。オープン・ミュート・ゲシュトップと多彩な演奏方法が求めてられいる。※3

木管の旋律の後のピッコロの旋律が非常に可愛い。

ゆったりした木管が主に演奏する旋律。金管も入る。ホルンの対旋律が旋律を越える様に響く。

いきなり戻る前奏部分。トランペットのファンファーレだ。曲の起伏が激しい。

木管の旋律が再現され、トロンボーン・トランペットが主体の旋律に移る。

そしてホルンソロに引き継がされる。

通常ここはソリで中音楽器で演奏されるが、あえてホルンソロとした。島岡の音に誰も付いてこれないのだ。

十数小節でしかないが、会場全体がこのホルンソロに魅了された。審査員もである。

それが終わると木管の旋律となる。ホルンは対旋律となり、その柔らかい高音を発揮する。

そして曲調が変わる。愉快な跳ねるような旋律だ。盛り上がりを見せたところで、次の曲調へ移る。

軽快なワルツテンポだ。さらに盛り上がりを見せたところで、再現部へ。

序盤の木管の旋律、更にトランペット・トロンボーンの旋律が再現される。

最後は、ホルン等中音楽器の早い旋律のあと強いアクセントの和音で締めくくられた。※4


曲が終わった瞬間、盛大な拍手が送られた。「ブラボー!」の声も聞こえる。(どう聞いても更科の声だ)

河合は観客に振り向き一礼すると照明が落とされる。

しかし、拍手は鳴り止まない。まるで定期演奏会の様な拍手だ。

その通常では考えられない拍手に、女子部員は泣き出した。嬉し泣きだ。

だが、ここはコンクールである。当然アンコールは無い。アナウンスが強制的に次の団体を案内し始めると、拍手もまばらになり鳴り止んだのであった。


舞台袖は一部の生徒が泣いているが、まごまごしている訳には行かない。

すばやくパーカッションの搬出を終えなければならないのだ。

島岡の指揮の下、楽器はどんどん搬出される。一部目の届かないところは平田が指揮をしている。その搬出速度は速い。

パーカッションがトラックに搬出されたあと、全員市民会館前の広場に集まった。

「これから記念写真とるぞ~。はよ並べよ~。」

「「は~い」」

本番が終了したとあって、南川の言葉にも皆気の抜けた返事だ。

「さっさと並べよ~」

南川は急がすと、ようやく揃った。

「1枚目は普通の写真、2枚目はくだけた格好でお願いします。」

三脚に大きなカメラを携えたカメラマンはそう言った。

「では、1枚目いきます。はい、チーズ。」

そして2枚目の写真である。各パートで相談している。

「そろそろ2枚目いいですか~」

「「は~い」」

「はい、2枚目いきます。はい、チーズ。」

そこには各パートが、思い思いに取った姿が収められていた。


「島岡先輩だけ、ベルカットで普通の帽子っぽいなんてずるい!!」

ホルンパートは頭の上からベルを被っていたのであった・・・


※1 3連符は4分音符は3つに分けた長さだが、2分3連符は2分音符を3つに分けた長さ。結構リズムが取りづらい。

※2 88’の課題曲の音源はないと思っていましたがニコニコ動画にありました。「交響的舞曲」「吹奏楽」でググればすぐヒットしました。

※3 ここまで頻繁に演奏方法を変える曲は、著者の記憶の中でもこの曲くらいです。

※4 「キャンディード序曲」の音源はオケ編等多く見かけられます。「キャンディード序曲」でググればすぐヒットします。


無事演奏が終わりましたが、その観客の反応に皆びっくりしていました。さて、結果は・・・

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