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第30話 いざ決戦(前編)

第30話 いざ決戦(前編)


コンクール当日、朝の9時に三浦は音楽室にいた。

『吹奏楽部の南川君、吹奏楽部の南川君。電話が入っております、至急事務室まで来てください。』

始まりのミーティング前に唐突にアナウンスが流れた。

「ちょっと行ってくるわ。古峰~、あと頼むわ。」

「ええ、任しといて。」

南川が古峰にそういうと、古峰が答えた。

「では、今日のスケジュール発表するわね。10時まで合奏して11時までに楽器の積み込み、1時に現地についてそれから暫くで本番よ。昼は弁当取ってあるので1時までに済まして頂戴、以上よ。何か質問は?」

古峰は一通り周りを見渡すと続けた。

「では、よろしくお願いします。」

「「よろしくお願いします」」

いつもの挨拶が終わると、皆慌しく合奏の準備を始めるのであった。


「中嶋は遅れてくるねんて。現地に直接来って南川が言ってたわ。」

三浦はそう島岡から聞いた。9時にいなくて、合奏にもいなかった彼は本番早々遅刻しているのだ。

遅刻常習犯の威力は本番時に、さらに大きく発揮されていた。

三浦はこのとき、相手が先輩でありながらも軽蔑した。しかし、事実は全く違っていたのであるが・・・


4tトラックに楽器の積み込みも終わり、ひと段落ついた。運転手は更科である。

さらに荷物室に何人かの部員が乗り込む。パーカッションなどの楽器転倒を防ぐ人員だ。楽器係長である島岡は当然乗り込んでいた。パーカッションパートであり楽器係の伊藤は助手席である。

「ほんじゃ、先に現地で待ってんで~」

既に上半身ランニング1枚(貨物室内は暑い為)の島岡はそういうと扉を閉めた。

そしてトラックは一路コンクール会場へ向かった。

今年のコンクール会場は「東大阪市民会館」である。近鉄奈良線「河内永和」駅のすぐ前にある。

ちなみに府大会は、大阪城公園そばにある「大阪府立森之宮青少年会館」である。

フルート・クラリネット・トランペットパート以外は楽器もなく、身軽な体で地下鉄の駅に向かったのである。

学校そばのいつもの地下鉄の駅から乗り込み、難波駅で近鉄に乗り換える。「河内永和」は各停しか止まらないので、ゆっくりと向かった。

ただ、地下鉄に乗り込むときに扉に挟まれるという珍事があったが、詳細は省略しておこう。被害者は沢木である。いつものことだ。

「なんでやねん!」


さて、一行は「河内永和」についた。

東大阪市民会館はこの高架駅を降り、左に進むとすぐ左手にその建物が見える。

その前の広場に部員の面々が集まっていた。トラック組とも合流を果たしている。

まだその時間は中学生の部である。市民会館の周りは中学生・高校生ともすごい数だ。

少し時間があるらしく、島岡は三浦に言った。

「ちょっと中入ってみるか?」

「ええ、気になりますからね。」

事前に配られた入場券(当時は1枚300円、出演する生徒は無料)で会場の中に入る。そこは学生で一杯だ。どうも午前最後の団体の演奏中のようだ。演奏中は観客席に入ることはできない。扉の前に実行委員と思われる生徒が扉の前に立っている。

仕方がなくホールにあるモニターで見た。中も人で一杯のようだ。

ふいに後ろから声がした。

「何やお前らも気になるんか。」

石村であった。近くには寺嶋・平田の姿が見える。

「まぁ人の入りがね。プログラムでは俺ら結構前の方やから、他の学校の演奏も聞かれへんやろうし。」

「確かにな~、相変わらず人がすごいな~」

「ええ、圧倒されます。」

「一般人なんておらへんからな、ここには。なんかしら楽器に携わってる人らやで。そう考えたら吹奏楽人口って馬鹿にはできんよな。」

島岡が最後にそう言った。

確かにそうである。読者の方も、周りの知人に聞いてみたら面白いかもしれない。案外、「え?この人が!」と思う人が何かしらの楽器の経験者だったりする。

午前最後の演奏が終わると、5人はホールを出た。皆がいるところに向かうと、そこには中嶋の姿があった。ただ、右手には痛々しい包帯を巻いている。

「なんや、中嶋。それどうしたんや。」

島岡は聞くと、いつものニコニコはなく苦々しく答えた。

「ペットの緑亀にな、指噛まれてん。」

「あのでかい奴かって、あほ。こんなときに冗談言ってる場合か。その手でボーン吹けるんか。」

「なんとかなるわ、中指だけやし。指全部無くなってもうても吹くで。」

三浦は思った。もし自分が右手の中指とはいえ、包帯を巻くほどの怪我をしたとき、楽器を吹けるのかと。いや、ホルンの場合、ある意味利き手は左だ。さすがに出れないであろう。島岡ならどうか小声で聞いてみた。

「島岡先輩。もし、先輩が左の中指を包帯するほどの怪我したらコンクールでます?」

「ん~、包帯取って出るわ。」

即答だ。三浦は聞いた相手を間違えたようだ。


楽屋に入る入り口で、部員は楽器を持って並んでいた。演奏は次の次だ。

三浦は緊張で胸の高鳴りを感じていた。後ろにいる小路を見る。やはり緊張でガチガチだ。三浦よりひどい。

「三浦君。やっぱり緊張する?」

横にいる浅井が話しかけてくる。さすがに3度目だ。それほど緊張している様子は無い。

「ええ、緊張しますね。ようやくここまで来たというのもありますし、これから始まるというのもあります。」

「そうねぇ。でも、三浦君は1年なんやから気を楽にして。本当にがんばるのは2年生3年生なんだから・・・」

浅井はそういうと島岡の方を見た。三浦も続けてみる。

後ろから見てても島岡の雰囲気がいつもと違う。今までに見たことが無い緊張感だ。見ているこちらが寒気を覚える。その後ろにいる石村も顔つきが違う。

「あの二人が本気になってるわ。私たちはそのお手伝いという感覚でいいわよ。だからといって、緊張抜くのはダメだけど、肩の力落としなさい。そこの1年も、ね。」

浅井は三浦そして小路にも言う。そういわれると少し肩の力が抜ける感じがした。小路もさっきほどの緊張はない。気が楽になったようだ。

列は進みだし、舞台袖までくる。次が彼らの番だ。

舞台には府立大和河高校の演奏が始まっている。課題曲は今高高校と同じ「交響的舞曲」だ。

曲を聞いて三浦は、無意識に自分が演奏するところの指が動く。


そして、その緊張の中ハプニングが起きた。

後ろから「カラーン」という音がしたのだ。

甲斐のトロンボーンのスライドが落ちたのだ。その表情はまさに「え?!」である。

周りから小さく笑い声が起きる。甲斐はちょっと顔を赤くしてスライドをトロンボーンに装着した。特に問題はないようだった。

いつしか、三浦の肩から無駄な力が落ちていたのである。


そして、彼らの出番が来た。


さぁ、とうとうコンクール本番です。果たして彼らは無事演奏を行うことができるのでしょうか?

ちなみに、舞台袖でスライド落とす奴なんていないって?いえ、いましたよ。本当に(笑)

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