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第29話 ラストスパート

第29話 ラストスパート


コンクールもあと2日に迫った頃、いつもの様に我らの今高吹奏楽部の部員たちは合奏をしていた。

しかし、その場所はいつもと違っていた。

それは音楽室ではなく、春研で演奏したことのある講堂であった。(第2話 春研 参照)

だが、彼らの並んでいるところは舞台の上ではない。観客側の一番奥に舞台に向けて並んでいる。

舞台の上には河合が立っており、そこから指揮をしている。


「お~い、聞こえるか~」

「「はい」」

「俺はここで指揮するから、ここに向けて音が聞こえるように演奏せぇよ~」

「「はい」」

河合の言葉に部員が返事をする。

そして河合は指揮を始める。合奏の音が講堂内に響き渡る。


「これってなんの意味あるんですか。」

三浦は島岡に聞いた。二人は講堂の出口からすぐのベンチに座っている。講堂では、木打分演を行っている。

「あ~、これなぁ~。要するに音がちゃ~んと前に飛んでるか確認してんねん。ほら、審査員は舞台やのうて観客席におるやろ。せやからそこに向けてちゃ~んと聞こえてるかテストしとるんや。」

「ああ、なるほど。」

「これ結構大事やで。特に俺らの楽器は、ラッパとちご~て前に音飛ばんからな。」

「ですねぇ。」

「でもな、不思議なもんで「あそこまで音飛ばすんや~」思うて吹くとな、ちゃ~んと音届きよる。だから基礎練でも大通りに届くくらいに吹けって言ってるやろ?」

「そういうもんですか?」

「ああ、そんなも・・・」

「朝倉が倒れたぞ」

島岡の言葉が言い終わらないうちに、講堂から叫び声がした。

「こらあかん、連日の練習で疲れ出てるんやろ。三浦、運ぶの手伝うで~」

講堂に向かった二人はその場所に向かう。

「ゆっくり運ぶんや。講堂の外のベンチに置くんやで。」

そこでは平田が運ぶ指揮を取っていた。朝倉をはさんで男子部員が左右に並び、両手で担架の様にしてして朝倉を運ぶ。幸い、意識は辛うじてあるみたいだが、自力で起き上がれそうにない。

執行部の面々は集まり話をしている。※1

「島岡、中嶋~、ちょっと来てくれ~。」

不意に柏原から二人を呼ぶ声がした。

二人はその話し合いに加わる。暫くするとその話し合いが終わり島岡は戻ってきた。

「三浦~すまんけど、朝倉を病院まで連れてってくれへんか~。駅前のとこや、すぐ着く。」

「でも、合奏が・・・」

「1年男子で比較的吹けるの選んだんや。大丈夫、お前やったら今すぐにでもコンクールで吹けるの俺が保障したる。」

「判りました。」

三浦はそう返事すると講堂の外に向かった。

ベンチには朝倉の横に山郷がいた。表情は暗い。近づいた三浦に気付くと言った。

「この子、ほんま一生懸命練習しとってん。明後日のコンクール大丈夫やろか・・・」

「僕が病院まで連れて行きますから。大丈夫です、明日になればピンピンしてますよ。」

三浦がそう言ったあと、後ろから古峰が来る。

「はい、これ。病院の地図よ、頼むわね。病院には岩本さんが電話入れてるから。」

その手書きの地図を受け取った三浦は思った。確かここは駅からすぐ西にある記念病院だと。

三浦は朝倉に近づいた。意識は大丈夫そうだ、だが顔色は悪い。

「朝倉~、病院いくで。立てるか?」

「ちょっとまって・・・よっしょ・・・きゃ・・・」

朝倉は立とうとするが足元がおぼつかない、すぐに尻餅をついた。

「三浦く~ん、わるいんやけど~おんぶして行ったって~。」

朝倉の様子に安心した山郷は、いつもの口調で言った。ちょっと顔がニヤニヤしているのは気のせいであろうか。

「大丈夫です!」

朝倉は顔を真っ赤にしてそう言うがやっぱり立てそうにない。

「しゃ~ない、ほれ。」

三浦は朝倉に背を向けると少しかがんだ。

「私・・・重いわよ?」

「んなこと言ってる場合かよ・・・」

朝倉の言葉に三浦は呆れて言った。

そうすると諦めたように朝倉は三浦の背中に体を預けた。

三浦はしっかりと朝倉を背負い、立ち上がる。

「一体どこが重いねん・・・!?」

ここは当然のお約束の様に三浦は、背中に2つの柔らかいものを感じた。しかも、結構でかい・・・

三浦は顔を赤くしながらも、しっかりとした足取りで講堂を後にした。

「ではごゆっくり~」という山郷の声を聞きながら・・・

一方講堂では・・・

「若いのっていいねぇ~俺も青春したいわ。」

「・・・」

年も1歳しか違わない癖に何いってるんだこいつ、という目をした松島は思った。

(お前やったらこのクラブの女共、よりどりみどりやっちゅ~ねん。このホルン馬鹿が・・・)


コンクールの前日、午前中は休みで午後からの練習である。

朝倉も元気な顔をして練習に来ていた。

三浦と目が合うと少し顔を赤くしてすかさず目をそらした。昨日のことが恥ずかしかったのであろう。

そして、合奏はいつもの音楽室で何回か軽く通して終わった。

そこには、更科が音楽室の入り口にいた。

(今年は結構ええところまでいけるんちゃうか。金、いや府大会までいけるかもな・・・)

合奏を聞いていた更科はそう思ったのであった。


「明日は9時に音楽室集合や。時間に遅れないように。特に中嶋~お前や、気つけろよ。では今日は早いけど、お疲れ様でした。」

「「お疲れ様でした」」

コンクール当日の注意といつもの挨拶で部活は終了する。時間はまだ4時だ。

「三浦~、今日はゆっくりして明日に備えて英気養えや~」

「先輩も今日はこれ以上練習したらダメですよ?」

「わっはっは、お前も言うようになったな~。わかっとるわかっとる、大人しくしとるわ。後輩の頼みやもんな。」

島岡は三浦の言葉に豪快に笑い、了承したのであった。


※1 執行部の面々。部長の南川、副部長の古峰、マネージャーの岩本、指揮者の柏原を指す。さらにここに河合が加わる。


ちょっとしたハプニングがありましたがとうとうコンクールまで前日まできました。果たして更科の期待通り府大会まで進めれるのでしょうか?

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