第1話 新しい門出
第1話 新しい門出
桜舞う、この4月7日。「三浦浩一」はこの度高校生になった。
進学する高校の名は、『府立今高高等学校』。
場所は通天閣に程近い如何にも『大阪の学校』というところにある。
地下鉄の出口から高校へ向かう三浦であったが、ふと校門の前を見るとかなりの人だかりあった。
その人たちをよく見てみると、学ランや女子のブレザーに混じって、野球部らしいユニホームやら剣道着など体育会系のユニホームを着ている人たちも居た。
そう、この学校では入学式から新入部員の勧誘をしているのだ。
各々が入部を促進するチラシを手に持っており、新入生に配っていた。いや、もうこれは強制的な押し付けである。
それだけではない。よく聴けばどこともなく音楽が聞こえてくる。曲はどこかで聴いたことがあるマーチのようだ。
三浦は音がする方に目を向けると、そこにはトランペットやらクラリネットを吹いている面々がいる。そう、吹奏楽部である。三浦にとっては初めて聞く生演奏だ。
しかし、三浦はその音よりも違うところに目が行く。
(やたらでかい人がやたら小さな楽器吹いてんねんな・・・)
彼が見ている先は、一番前の男性(立てば190cmはありそうだ)であった。
その彼は体格の割りに小さく感じる黒い縦笛※1を吹いているのである。
三浦はそう思いつつそのまま足を止めその演奏を聞く。3曲ほど聞いたであろうか。再び同じ曲が演奏される。
「お~い、三浦~。こんなところで何やってんだ?」
後ろから聞き覚えのある声がした。同じ中学出身の「鈴木健二」だ。三浦より背が高く、175cmはある。
「初めて生演奏聞いたから、ちょっと聞いててん」
「そうなんや。まぁ、うちのところには吹奏楽部なかったな~」
「そういうこと」
「そういえばクラス分け見に行ったんか?」
「いや、まだ見てへんわ」
「同じクラスやったらええんやけどな。あそこで張り出しているみたいやで。見に行こうや。」
鈴木はそう言うと、校舎の前の人だかりを指差した。
「ほな、見にいこか。」
三浦がそう言うと二人は並んで校舎に張り出しているクラス分け表を見に行ったのである。
しかし、人が多い。まさに人の群れである。
それもそのはずで、この学校は1学年で12クラスあり、大体500人。学校全体で約1500人の生徒がいる。
「三浦~。どうや見つけれたか?」
「あかん、もうちょっと前にいかんと見えへんわ」
「ちょっとまっとけよ、1組・・・ないな・・・2組・・・あ、俺は2組みたいやな」
「そうか、で、俺は何組なんや?」
「三浦は・・・あ、同じ2組やな。下のほうに名前があったわ。」
「よっしゃ、うちの中学からは俺らしか来てへんから。とりあえず1年間よろしく頼むわ。」
三浦がそう言うと、二人でハイタッチをし、校舎内にある案内図を見て目的の教室へと向かうのであった。
しかし、この校舎はそうとう古い。鉄筋ではあるが床は木張り。歩くと「キュキュ」と独特な音がする。
1年生の教室は校舎南側の2階である。
彼らは教室に入るが、まだ席は半分くらいしか埋まっていなかった。どうもかなりの人たちがクラス分け表の所で足止めを喰っている様だ。
教室の席順はどうも出席番号順になっているらしく、廊下側から男子1番、次の列は女子1番になっている。※2
鈴木は3列目の先頭、三浦は窓から2列目の中ほどの席である。
暫くすると、続々と新しいクラスメートが教室に入ってくる。クラスの全員が揃ったのは、黒板の上にある時計が11時を示す頃になっていた。
程なく担任の先生であろう人物が教室に入ってきた。20代後半であろうか、女性の先生である。
「このクラスを受け持つ大北真紀子です。今から体育館に移動しますので、廊下に出席番号順で並ぶように。」
その声で廊下に生徒たちが出席番号順に並び、わらわらと体育館に移動する。
その体育館は校舎と比較するとかなり新しいようである。広さは全校生徒1500人が入ってもまだまだ余裕があるように見えた。
校長先生の比較的短い話が終わると、各担任の先生の紹介と続き、校歌斉唱とプログラムが移る。
勿論、体育館の生徒は全員新入生。校歌なんてわからない。しおりに歌詞が書いてあるだけである。
すると、舞台に上級生と思われる生徒が舞台袖から並びだした。
(校歌斉唱の為だけに入学式に呼ばれてるなんて、ついてない先輩たちやな。)
三浦はそう思ってその様子を見ていると、その先輩たちに見覚えがあった。
そう、校門前で演奏をしていた吹奏楽部の人たちである。
その歌声は大きく、歌詞もしっかり聞こえていた。
(この人数相手に臆せず歌えるなんてすごいな。)
三浦は素直にそう感じたのであった。
※1 B♭クラリネットのこと。この時点では三浦には楽器の知識はありません。
※2 当時の出席番号は現在の混合制ではなく男女別です。
さて三浦君と吹奏楽部との初めての出会いです。
この時点ではあまり関心がありませんが今後彼の生活にどう絡んでくるのでしょうか。