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第17話 新歓遠足

第17話 新歓遠足


ゴールデンウィークのとある日曜日の朝、三浦たち吹奏楽部の面々は梅田の「ビッグマン」の前にいた。※1

なぜ彼らがここにいるのかと言うと、話は5月に入ってすぐの部活動の日に戻る。


「え~、新入部員の増加も落ち着いてきたし、親睦を図るべく新歓遠足を行います。」

南川が終わりのミーティングのときにそう言った。

(新歓遠足?新歓コンパなら聞いたことあんやけどな。どっかの公園でも行って楽器でも吹んかな?)

「行く日は次の日曜日、場所は去年も行った仁川にかわや。集合場所は梅田の「ビックマン」の前に10時集合。弁当は持参してこいよ。服装は軽く運動できるかっこうでな。」

「先輩、仁川ってどこにあるんですか?」

三浦は仁川の場所が判らなかったので、島岡に聞いてみた。

「ん~、阪急沿線にある駅の名前や。広場とかボート乗りとかもあって遊ぶにはええとこやで。」

(ほんまに遠足なんや。ちょっと楽しそうやな。)

三浦は密かにそう思った。

「あと、迷子になっても駅内アナウンス流すなや~、恥ずかしいから。」

南川の言葉に場がどっと笑った。

「迷子って・・・なった人おるんですか?」

三浦は怪訝そうに島岡に聞く。

「おったらしいで。集合場所わからへんで駅構内のアナウンス流したって聞いたわ。ラッパの藤本先輩が1年の時にな。伝説級やで。」

島岡は笑いながら答えたのであった。


9時50分、「ビックマン」の前にはほとんどの部員が集まっていた。

皆私服なので結構新鮮である。3年生は平田・寺嶋・石村の姿も見える。その3人は集まって何か話しをしている。

あと、見たことが無い人もいた。3年生の女子生徒であろうか。3人の女子生徒が辻本を取り囲んで話をしている。三浦の目には辻本の額から汗が流れているように見えた。三浦はその光景を見なかったことにした。

南川ら2年生の男子生徒はバレーボールやバトミントンのラケットを手にしている。ラケットにいたっては3組もある。

「それ家から持ってきたんですか?」

三浦は南川に聞いてみた。

「いや、音楽室から持ってきたんや。言っとくけど・・・この子たちは勝手に音楽室に入ってきて、うちらが保護しただけやぞ?」

そういえば音楽室の隣には体育会系クラブの部室長屋があったことを思い出した。

勿論、三浦は南川の言葉を脳内からデリートした。


時計は10時を示していた。

「やっぱり、あいつ遅刻か。」

南川はつぶやいた。

「誰なんです。来ていないの?」

南川は三浦の問いに「中嶋や」と短く返事をした。

「あいつ、遅刻の常習犯やねん。まぁ、10分もせんうちに来るやろ。」

南川の言葉通り、5分程で中嶋がやってきた。さすがに2年生3年生の男子部員から手荒い歓迎を受ける。だが、中嶋はニコニコしているのであった。


阪急神戸線の西宮駅で乗り換え一行は仁川駅についた。

川沿いを暫く歩くと大きな公園が目に入った。※2

その公園の敷地内を更に歩くと大きな広場に着く。そこで南川たちは荷物を下ろした。

「ちょっと時間早いけど昼飯にしよか~」

南川がそういうと各々《おのおの》昼の準備を始める。

「なんやお前らパンかいな。」

昼飯時、鈴木が三浦と小路に言った。

「しゃーないやん、いつも学食やのに弁当作ってくれるわけあれへんやん・・・なんでお前弁当あんねん。」

三浦はそう答えると鈴木も同じく学食組のはずなので不審に思った。

「あ~これか。これな~甲斐先輩と近藤がな、協力してバリチューとトロンボーン全員に作ってくれたんや。」

鈴木の手には、派手でも豪華でもないが、うまそうな弁当があった。

「ええのう、パートに女のおるとこは。」

「うちとこにも女おるけど、そういうのはないな。」

小路はパンをかじりながら言った。

「おまえんとこの先輩はどうしてるん。」

三浦は小路に聞いた。

「なんや知らんけど、島岡さんが3人に配ってたわ。弁当。」

「はぁ~?なんやそれ。」

それを聞いた三浦は驚いて、その真意を探るべく島岡の下へと向かった。

「先輩~その弁当は自分で作ったんですか?」

「お~三浦か~、これなぁ・・・妹が作ってん。」

そこには派手な弁当があった。これまた旨そうである。

「たまにはうちの手料理食わしたる~ってな、作ってくれてん。んで、ついでにいつも遊んでもらってるお礼いうてラッパの3人にもって作りよってん。」

島岡はそういうと割り箸の先で3人を指差した。

「へ~、先輩に妹おるんですか。」

「2こ下の妹や。生意気でな、あの3人の名前呼び捨てでいいよる。所詮、兄貴の友達やろ、言うてな。」

島岡は苦笑いをしながら答えたのであった。


昼飯も終わった頃、平田は言った。

「よっしゃ、中嶋と鈴木はこっちこい。バトミントンでトーナメントするぞ。」

既に向こうでは、寺嶋・石村・松島・甲斐・坂上・金沢の面々が集まっていた。

「三浦~、呼ばれたんでちょっと行ってくるわ。」

鈴木は三浦にそういうと平田の方へと向かった。

「勝っていよ~」

三浦の声援に鈴木は片腕を挙げピースサインで返答したのであった。

「三浦~、バレーでもしようぜ~」

「了解」

島岡が声を掛けると三浦は軽く返答し、そちらへ向かったのであった。

既に場は円形に広がっており、島岡と三浦はそれぞれ隙間に入る。

三浦は久しぶりに体を動かした感じがしたのであった。


「あの人反則や。」

バレーボールが終わり皆が休憩しているときに、三浦は南川を軽く指差して鈴木に言った。

鈴木のバトミントントーナメントの方も終わっていた。

「あの高さからアタック飛んでくるねんで、受けるほうの身にもなってくれや。ちゅうか円形のパスのし合いやのに、アタックするなんて考えつかへんわ。」

「でも、島岡先輩軽く返しとったやん。そのアタック。」

「なんや見とたんかいな。」

「最後の方だけな。」

「で、そっちはどうやったん。」

「優勝は石村先輩やったわ。さすが中学のときに野球やってただけあるわ。準優勝は金沢さんや。元陸上部のエースやって・・・」

「なんでそんな人が吹奏楽部なんやろ・・・」

「さぁ、わからんなぁ」

二人がそんなことを話していると南川が集合を掛けた。


「ではこれより恒例の・・・」

南川が一瞬の間を置いた。

「『ドキドキ?ワクワク?カップルでボート乗り』大会を開催します・・・だれや、この名前考えたんわ!」

ちょっと顔を赤くして南川は言った。場は爆笑で包まれる。ちなみに、平田・寺嶋・石村の3人はこの場にいないことを明記しておこう。

「・・・ともかくや、説明すんで。まず、男子がこの箱、女子はこっちの箱からくじ引くんや。で、同なじ番号の男女がボートに乗るんや。あ~、あとな・・・」

南川は周りを見渡して言った。

「目当ての女おるんやったら男から積極的にアタックするのは許可されているねん。話は以上や。」

当然ながら南川がけしかけても誰も動かないのであった。


「よろしく~」

「よろしくね」

三浦は同じ1年の朝倉 佳代子に話しかけた。背は三浦と同じくらいで、格好はデニムのオーバーオールに黄色いTシャツを着ている。髪型はポニーテールである。顔立ちがすっきりしている中々の美少女だ。(第12話新しい仲間達を参照のこと)

まだお互いクラブに入ってそれほど日が経っていないので、普段は挨拶する程度だ。

割り当てられたボートは二人で並んで自転車のように漕ぐタイプのボートだ。

三浦が先に乗り朝倉が後から乗った。二人はペダルを漕いで船着場から離れる。

(か、会話が・・・)

三浦はなんとか会話の接点を見つけようと考えるが思いつかない。

そのとき朝倉の方から話しかけてきた。

「なんか、こういうのってちょっと照れるね。」

「だよな~」

「誰が考えたか知らないけど、2年生の為の企画のように感じるんやけどな~」

「あ、俺もそう思うわ。入ってまもなく同士で乗ってもあんまり無意味だよな。」

「そうそう、こういう風にだんまりになるのわかり切ってるしね。」

朝倉はそう笑顔で答えた。

(おっ、この子可愛いじゃん。)

三浦は素直にそう思った。そこで三浦は朝倉にちょっと聞いてみた。

「んじゃ、朝倉から見てこのクラブの男子部員に好みの人っておった?」

「そうね~、難しい質問するんやね。ほら、このクラブの先輩達ってかっこいい人ばっかりじゃない。」

それは三浦も思っていた。ちょっとしたホストクラブ状態である。

「しいて言うんだったら・・・南川先輩・・・かな?背が高くて凛々《りり》しいじゃない。」

ちょっと考えてから朝倉は答えた。

「男の俺からみてもあの人はかっこええと思うわ。」

「あら、あんたも結構いけてるほうよ?おまけとしては。」

「おまけ言うな、おまけと。そりゃ2年の先輩達から見たら、俺なんておまけかもしれへんけどなぁ・・・」

「ははは、ごめんごめん。あんたもいい男よ?もっと自信を持ちなさい。」

二人はボートの終わる時間まで色々としゃべったのであった。


日も結構傾いた頃、皆は広場に集まった。

「ではこれで新歓遠足を終わるぞ~。現地解散になるんやけど皆気をつけて帰るんやぞ~」

「「は~い」」

南川がそういうと皆は音楽室との時とは違う気の抜けた返事をし、帰路に着くのであった。


番外編・・・

仁川駅に向かう帰り道、三浦はふと気づいたので島岡に聞いた。

「そういえば途中から3年の先輩達が見当たらないように感じたんですが・・・」

島岡は肩をすくめて言った。

「ん~なんて言ったらいいんかな~。大人には大人の、先輩には先輩の、著者には著者の事情ちゅうのがあってやな・・・」

「それ誰に言ってるんですか?」

「いや、なんでもない・・・例の大作戦が恥ずかしくてとっとと帰ったんちゃうか・・・そういうことにしておいてくれや。」

「はぁ・・・」

三浦は納得しなかったが、それ以上は追求することは無かった。


ちなみに・・・阪急仁川駅の近くには「阪神競馬場」があるとだけ書いておこう。


※1 阪急梅田駅構内の「紀伊国屋書店」の入り口にある「巨大ビジョン」のこと。ここも待ち合わせ場所としてよく使われています。

※2 「甲山森林公園」であると思われる。


親睦を深める新歓遠足で、三浦と朝倉が急接近しました。さて、この二人の仲は発展するのでしょうか。

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