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第13話 今高高校吹奏楽部の実態

第13話 今高高校吹奏楽部の実態


4月下旬の土曜日、午前中の授業も終わり三浦は鈴木と共に音楽室へとやってきた。※1


「お~三浦と鈴木~、お前ら昼どうするん?」

二人を見かけた島岡は声を掛けた。

「この辺何があるかわからないからどうしようかと思ってたんです。」

島岡の問いに三浦はそう答えた。

「学食は土曜やってないからな~お前ら金そこそこあるか?」

「いえ、そんなには持ってきてないです。」

「ほな、弁当屋かパン屋やな。お前ら地下鉄組やったら来る途中あったやろ。あそこや。」

島岡の言葉を聞いた三浦は通学路を思い出してみた。そういえば途中に弁当屋があったことを思い出す。

「なんや、お前昼飯に後輩連れて行ってくれるんか?それやったら小路も頼むわ。」

島岡たちの話に割って入ってきた柏原は、そういうと小路を呼んだ。

「小路~、お前も島岡に昼飯連れて行ってもらえ~」

向こうでは小路が「わかりました」といって島岡の下に来る。

「なんや、お前可愛い後輩連れて行かへんのか?」

「今日はな、腹減ったんでカレー屋行こうと思っててん。」

「ちゅうことは大盛か、ふざけた盛り方するからなあそこは。」

「じゃぁな」と柏原は島岡と別れると音楽室を出ていく。

そして島岡も「ほな、いこか~」と3人に言うと、音楽室を出るのであった。


「・・・」

「・・・」

「・・・」

「ちょっと遅かったか・・・」

弁当屋に着いた4人はその現場に唖然とした。

理由は目的の弁当屋が、すごい数の生徒で溢れかえっていたからである。

当然といえば当然である。午後からクラブ活動のある面々は、価格の安いこの弁当屋を訪れるのであるから。

「おまえら、パンでええか・・・」

島岡の問いに3人はうなづくしかなかった。


昼ごはんを調達した4人は音楽室で買ってきたパンをかじりついていた。

「小路どうや、マッピは鳴るようになったんか?」

「いえ、鳴るには鳴るんですが・・・まだうまく伸ばせません。」

「そっか~まぁ、ラッパはなかなか音が鳴らせにくいからな。あせらずじっくりやることや。鈴木はそろそろ簡単な曲吹ける様になったんやろ?」

「そこまではまだ・・・今は教則本を基本にやってます。下の音が結構出るようになりました。」

「俺も下の音結構出るようになったんやで、ねぇ先輩。」

「あほ、メロフォンは下のCまでしか出えへんねん。でて当然や。」※2

4人は最近の楽器の上達具合で話が盛り上がっていた。

「そういえば・・・」

鈴木は何かを思ったのか島岡に聞いてみた。

「吹奏楽部って女子が多いって思ったんですけど先輩の学年は男子が多いですよね。」

「あ~、うちの代だけ特別や。お前らの代で今3人やろ。で、3年は4人や。更にもうひとつ上は1人しかおらへんかってんで。」

「じゃぁ、ある意味他の学年はハーレム状態ですね。」

「まぁ、傍から見たらそういう風に見えるらしいな。実際は違うけどな。」

そう島岡は言ってから3人に近づいて声を小さくしてさらに言う。

「OBとかが結構さらっていくねん。向こうは大人や。こっちはまだ学生。経済面・精神面その他もろもろ太刀打ちなんてでけへんわ。」※3

「そういうもんですか。」

「ああ、そういうもんや。」

島岡がそう締めくくると4人はがっくり肩を落としたのであった。


土曜日の練習は1時30分から始まる。終わる時間は少し早く6時である。

「今日は何か連絡事項はありませんか?」

南川の問いに柏原が手を挙げた。

「今日は河合さんが来るそうです。ですので、今日の合奏は河合さんに見てもらえれます。合奏時間は後で黒板に書くので見にくる様に。」

その言葉に部員たちはざわざわした。

「河合さんって?」

三浦は島岡に尋ねた。

「あ~、まだお前会ったことなかったな。OBの人や。今は芸大でユーフォ専攻しとる。今年のコンクールで指揮してもらえることになってんねん。」

「コンクール?!」

「そや、そういえば言ってなかったな。夏に吹奏楽コンクールちゅうのがあってやな、7月末になか地区大会があんねん。」

「へ~そうなんですか。」

「『へ~』やあらへん、お前もでるんやで?コンクールに。」

「え?」

島岡の言葉に三浦は驚いたのであった。つい最近楽器を触り始めた人間にコンクールに出ろというのだ。

「まぁ、心配すんなや。1年初心者は出るゆうても吹けれるとこだけでええ。」

「吹けないところは?」

「口ぱくや。演奏している振りでええで。大体ホルンは、旋律とか裏旋とかはユニゾンがほとんどや。そういうややこしいところは先輩に任せたらええ。」※4※5

「ほかの所は?」

「そりゃしっかり吹いてもらうで?特に和音とかは4thフォースおらんと困るしな。」※6

「わかりました。頑張ります。」

三浦はそう言ってからひとつ気になった事があった。

「あれ、コンクールはその河合さんが指揮というか指導してくれるんですよね?普段はどうしてるんですか、顧問の先生とかは?」

「あ~それはやな・・・」

島岡は一呼吸置いてから言った。

「うちの吹奏楽部、そういう指導者はおらへんねん。顧問2人おるんやがどっちも吹奏楽の経験ないからな。だから、コンクールでは毎年OBの人に頼んでんねん。ああ、でも、普段は柏原が指揮振るで。」

「それって・・・他の学校もそうなんですか?」

「いや?普通は顧問が指導するで。うまいところは大概顧問がするなぁ。うちらが規格外イレギュラーなだけや。」

島岡は肩をすくめてそう答えたのであった。


※1 当時の公立高校は土曜日も午前中のみ授業があります。

※2 CはF音階(ホルンで使用する音階)でいうと「ソ」に当たります。

※3 「さらっていく」という表現ですがここでは「彼女にする」という意味です。

※4 裏旋。対旋律のこと。

※5 ユニゾン。多数の楽器で同じ譜面を演奏すること。

※6 ホルンの4thは主に低音を受け持つ。まれにヘ音記号で書かれるくらい低い音を出す場合もありますが・・・


色々とこの吹奏楽部の特殊な実態が明らかになってきました。三浦君は果たしてついて行く事ができるでしょうか・・・(色々な意味で)

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