表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/115

第11話 なんか違うんですが・・・

第11話 なんか違うんですが・・・


「よっしゃ、一回音楽室もどろか。」

8拍間マウスピースを鳴らす練習が終わった後島岡がそう言うと、メトロノームを持って渡り廊下から音楽室に向かった。三浦もその後ろについて行く。


音楽室に戻った島岡は、ホルンが入っている棚に向かうと二つの楽器ケースを持って三浦の前にやってきた。

三浦は俺もやっと楽器が触れれると思い、目を輝かせた。

一つは島岡がいつも触っているホルンのケースだ。ベルの部分がふっくらとしている。

もう一つは見たことが無い。

真っ黒でやたら直線的で島岡のホルンケースの様に丸みが無い。形は台形で幅の広いところにベルがくるのであろう。箱も結構古そうだ。

島岡はその黒いホルンケースを開けて楽器を取り出した。

その楽器を見た三浦であったが、島岡や松島の持っているホルンとは少し違うと思った。

ぱっと見はホルンの様に見えるが、キーの部分が明らかに違う。トランペットと同じピストンなのである。管もなんだかすっきりしている。

「これが三浦が使う楽器や。ほんまやったらホルン渡したかってんやけど、今余ってないねん。ちょっとの間やけどこいつで吹いとって。」

「これ、ホルンじゃないんですか?」

「まぁ、仲間みたいなもんや。『メロフォン』言うねん。で、俺らがいつも使ってるホルンは正式には『フレンチホルン』って言うねん。」※1

島岡はメロフォンを机の上におき、自分の楽器を取り出した。いつものシルバー色の綺麗なホルンである。

「ほら、楽器もって教室いこや。」

島岡はメロフォンを三浦に渡すと、音楽室を出たのであった。


教室に入った二人は楽器とメトロノームをそれぞれ机の上に置いた。三浦は島岡のホルンを置くのを見て真似て置いた。

「さてと、持ち方教えるわ。こうやって右手でもってやな・・・そうそう、で左手はベルに手を添えるんや・・・お、様になってるな。」

三浦はメロフォンを構えるとさらに違和感を感じた。ベルの向きが右側ではなく左側を向いているのである。

「んじゃ一回音だしてみ。マッピ鳴らすのと同じやから簡単に音でるはずや。」

三浦は島岡の言うとおりメロフォンを鳴らしてみた。

「フォ~~~~ン」という軽い音が出た。島岡の様な重く澄んだ音ではないが確かにホルン(?)の音である。

「お、いきなり『ソ』が出たな。じゃぁ一回『ド』の音が出るようにしよか。俺が今から出す音が『ド』の音やから覚えとけよ。」

島岡はそういうとホルンを吹いた。先ほど三浦が出した音より低い音を出す。

「覚えたか?それでや、その音を思い浮かべてもう一回吹いてみ。」

三浦は島岡の言うとおりさっきの音を思い浮かべながら吹いた。島岡が出した音と同じ音がした。

「そうそう、その音が『ド』や。金管楽器は同じ指回しで色んな音がでるんや。こんな風に。」

島岡はそういうと、キーは開放のままで色々な音をだした。

「なんで同じ指回しで違う音が出るのかというと、理屈では息の早さやら量で変わるらしいねん・・・て、言われてもピンとこんやろ?」

三浦はうなずく。

「でや、人の体っておもろうてな、頭に思い描いた音で吹くと体が勝手に調整してくれるねん。せやから音出すときには、頭に出す音を描いとくんや。逆になんも考えへんかったら同じ音が出たとしてもピッチがおかしな音が出る。ホルンの場合やと下手すると違う音が出るで。」※2

「ホルンやとどれくらい音がでるんですか?」

三浦はふと聞いてみた。

「開放やったら『F』『B♭』・・・ああ、ドレミで言おか。『ド』『ファ』『ラ』『ド』『ファ』『ソ』『ラ』『ド』やな※3。二回目の『ド』以降はオクターブ上や。もしかしたらもっとあるかもしれんけど・・・大概正規の指回しで鳴らすから、変のは意識したこと無いな。」

「そんなにも・・・」

「それはともかくや、『ド』の音覚えよか。楽器なんて理屈や無い。耳と体で覚えるんや。」

二人は並んで『ド』の音のみでロングトーンを始めた。


三浦は初め、音を鳴らすのに夢中であったが、自分の出す音と島岡が出す音が若干違うことに気がついた。音質ではない。音程がだ。

ロングトーンの小休止中に三浦はその事を島岡に聞いてみた。

「なんか、僕と先輩の音が違うように感じたんですが・・・」

「おっ、よう気がついたな。」

島岡はニコニコ顔だ。

「実はな、三浦の楽器、管抜きしてないねん。」

「管抜き?」

三浦がそう言うと島岡はメロフォンを手にして主管に指を掛けた。

「この管な、実は動かすことができるねん。抜くと音が低くなる。大概そのままやと音が高いんや。これはキーのところの管も同じことが言えるねん。」

そういうと島岡はメロフォンの管をいじりだした。

「まぁ、こんなもんかな。そうそう、キーのところの管を操作するときは必ずキーを押して動かしや。」

「なんでなんですか?」

「押していないと閉じられた状態やからな。そのときに動かすと管の中の気圧が変わって楽器を痛める元になるねん。つば抜きするときなんかでそれしたら『ポンッ』って音がするくらいや、気つけや。」

島岡は調節したメロフォンを三浦に渡すと、二人は再びロングトーンを始めるのであった。


※1 フレンチホルンの代用品とされる楽器。本来はホルンとはまったく別の楽器である。

※2 音程の事

※3 島岡はB♭管の倍音を言っている。F管の場合は異なる。ちなみに、三浦の持っているメロフォンはF管の設定である。


やっと三浦は楽器を吹くことができましたが、それはホルンの代用品。彼がホルンを手にするのは何時になるのでしょうか。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ