表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
113/115

第107話 皆からの期待

第107話 皆からの期待


三浦がセクションリーダーを柏原から引き受けた次の日の朝・・・早くもその試練が始まった。

今日も朝から仲良く朝練習を始めていた三浦と田川であったが、そこに柏原が現れて一言言った。

「三浦~練習中スマンけど、あとで上に来てくれるか?」

その言葉に三浦は、

「いいですよ、柏原先輩。今やってるロングトーン終わったら上がります。」

「そうか~待ってんで~」

柏原がそういうといつもの様に軽やかな足取りで階段を上がっていく。その柏原を見た三浦は少しため息をついた。

「どうしたんですか?ため息なんてついて。」

そんな三浦の様子を見ていた田川がそう言った。

「昨日な、金管のセクションリーダーしろっていわれてん。」

「セクションリーダーですか?それって一体何の係なんです?」

吹奏楽について余り分かっていない田川は不思議そうな顔をして聞く。

「セクションリーダーいうのはそのセクションを束ねる役目やな。金管セクションリーダーなら金管パートのパート長ちゅ~存在や。」

「そうなんですか。凄いじゃないですか。」

そんな説明を聞いた田川は尊敬の眼差しで三浦を見る。しかし・・・

「凄いちゃうで~あんまり他のパート知らんのに、合奏みたいにみんなに色々指示せなあかんねんで?流石(さすが)にちょっと自信ないわ・・・」

そう言って三浦はがっくり肩を落とした。だが・・・

「そんなこと無いと思いますけど・・・今までも私や真樹、大原先輩に3年生の松島先輩にも色々指示してたじゃないですか。三浦先輩なら大丈夫だと思いますよ。頑張ってください。」

田川はそんな自信なさげの三浦に励ましの言葉を掛けた。いや、励ましではなく本心から思っているのであろう。

「そ、そうかな・・・」

「そうですよ、もっと自信を持ってください。」

「分かった。まぁ、昨日引き受けると返事したんやし、やるしかないか・・・」

田川の励ましに三浦は先ほどよりも元気を取り戻したのか、若干笑顔が戻ったようだ。

「じゃぁ、ちょっと柏原先輩から話聞いてくるわ。先にロングトーン始めとって~」

「分かりました、頑張って下さいね。」

三浦は田川の極上の笑みを受け取ると音楽室に上がって行ったのである。


「なんや、結構早かったな~」

「まぁ、ちょっと色々ありまして・・・」

三浦は柏原に答える。そして音楽室の外では田川のホルンの音が聞こえていた。

「それにしても明ちゃん上手(うま)なったな~音も結構安定してるやん。」

「そうなんですよ。それに元々ピアノをやっていたんで符読みも早くて、もうちょっと高音が鳴れば『ビバ・ムシカ』の旋律部分も吹きこなせれると思うんですよね。」

「そらまたエラい早いな。あとそれと真樹ちゃんの方はどないや?」

「そうですね、下の音がかなり出るようになりましたね。二人とも素質十分あるんでこの先楽しみです。」

「ええこっちゃええこっちゃ、じゃぁお前もレベルアップするか?」

「えっと・・・セクションリーダーのことですよね、その話・・・」

先ほど田川に励ましの言葉を貰った三浦であったが、柏原の言葉に昨日と同じように不安そうな顔をした。

「そんな心配することあらへん。昨日も言ったけどパー練にちょこっと人数増えた思ったらええ。まぁ、中間試験後からやってもらうけどな・・・でや、その前にこれ聞いて貰おうと思ってな・・・」

柏原は笑いながらそう言うと、一本のカセットテープを取り出した。

「これって・・・どこの演奏ですか?」

三浦は柏原から受け取ったカセットテープを見ながらそう呟く。

「これか?淀工や。」※1

「えっ?淀工ですか。」

「せや。それでな・・・中間試験明けまでにその曲聞いてもらって感想聞きたいんや。」

「感想ですか?」

三浦は一体どんな難しいことをさせられるかと思っていたが少し拍子抜けした。しかし、次の柏原の言葉がその課題が如何に難しいか改めて思い知る。

「せや、どこがどういう風に悪かったかのな。簡単やろ。」

「え?!」

柏原の言葉を聞いた三浦は一瞬自分の耳を疑った。そう柏原は常に全国大会に出ている高校の演奏を聴き、悪いところの評価をしろと言うのだ。三浦もいままで多くの演奏を聴いたが、感動こそすれ批判など考えたことが無かったからだ。

「じゃぁそういうことやから、ほれほれ、下で愛しの明ちゃんが待ってんで~はよ行ったれ。」

そんな三浦の気持ちを知ってか知らずか、柏原はニヤニヤして手を振りながらそう言った。

「もう、またそういう風に言う・・・僕たちはまだそういう関係じゃないんですからね。」

三浦は違う意味で肩を落として言うと音楽室から出て行く。

そんな様子を見た柏原は、

(あいつ・・・さりげなく『まだ』とか言っとるし・・・まぁ、時間の問題やろうな。)

と、そんなことを思っていたのであった。


「それでは何か連絡事項はありませんか?」

終わりのミーティングに朝倉は皆を見渡してそう言った。

その言葉に柏原は手を挙げ、スッと立ち上がる。

「えっとな、皆に一つ報告があるんやけどええか?」

柏原はそう言って皆の顔を見ながら続きを話した。

「これは中間試験後からになるんやが、コンクールに向けてセクションリーダーを置きたいと思っているんや。それでな、そのセクションリーダーに木管は大倉、金管は三浦にやってもらおうかと思ってる。それから近藤には、俺の不在中の指揮をとってもらうことにしようと思ってるんや。せやからセクションリーダーの候補から外させてもらった。他にもっとええ人材が居るんやったら推薦してもらいたいんやが、どうやろか?」

その言葉に皆は少しざわめきつつも、特に手を挙げるものはいなかった。

「じゃぁ一応信任の決とるで。異存の無いものは拍手で。」

柏原がそう言うとバラけながらも拍手が起きる。最後には全員で大きな拍手をしていた。

「では、二人。前に出てちょっと挨拶してちょうだい。」

朝倉がそういうと大倉と三浦が皆の前に出た。

「え~と、私、フルート以外のパートのこと良く知っているとは言えませんが、精一杯頑張りますのでよろしくお願いしますね♪」

大倉はいつもの調子で挨拶をする。そして・・・

「僕もホルン以外そこまで詳しくないのですが、皆の演奏がより良くなる様に頑張っていきたいと思います。」

そんな二人の挨拶に皆は大きな声で、

「「よろしくお願いします」」

と、頭を下げて言ったのであった。


※1 淀工。大阪府立淀川工科高等学校のこと。常に全国大会に出場し、金賞獲得回数は全国最多という・・・部員も200名在籍しているとんでもないところである・・・


さまざまな期待を掛けられた三浦ですが、セクションリーダーとして再スタートです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ