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第105話 暗躍の陰?

第105話 暗躍の陰?


「・・・ということなんよ。そっちはどうでした?」

揚子は先輩たちの前で今日昼にあったことを話した。


ここは例の沢木宅。そして『闇の執行部』と言われるメンバーがここに居た。

前部長の南川を筆頭に、柏原・辻本・中嶋、そして、この場を提供している沢木という面々だ。本来なら島岡・甲斐も加わるのであるが、島岡は遠くスイス、甲斐はデートの真っ最中なのでいない。さらに、今回のミッションの協力者という形で揚子と黒松、それに生駒が加わっていた。はっきり言ってここで話し合う内容は碌なものが無い。ほとんどが悪戯の為の話し合いばかりだ。

例えば・・・

「なぁ、坂上って動揺することあるんか?」

という話が上がると、甲斐に電話を掛けさせる。そして、声色を変えて・・・

「伸ちゃん・・・好き・・・」

と言って電話を切ったことがあった。

ちなみに、その結果は3日間楽譜係が機能しなかったという・・・

はたまた、

「この世の中に怪文書なんてないよな~」

と言う話が上がると、先輩や後輩に『珍宝海』という謎の人物から年賀状送られてきたり・・・これは未だに犯人が分かっていない。まぁ、この面々のうち誰かではあるのだが・・・

とにかくまともな話し合いをしない。

そして彼らの今日のお題目は、『三浦と田川の今後の行方』だったりする。

「なんや、面白ろないな~普通にくっつくやん。」

辻本がそういってぼやく。彼は木管パートの黒一点で、背も高くてスポーツ万能。更に成績も良いと言う、女にもてそうな要素満載なはずなのであるが、何故か彼女がいない。例の3人娘が卒業してもそんな浮いた話一つも聞こえないのである。ある意味、(くだん)の先輩方の調教の賜物と言ったところか・・・

「まぁ、でも上手いこといきそうで上手いこといかんのが男と女の仲やからな・・・」

南川が若干上の空で話す。どうも最近岩本との仲が上手くいっていないようだ。所詮、倦怠期といったところか・・・どうせまた暫くしたらラブラブモード全開になるはずだ。

「でも、羨ましい話やな、まったく・・・結局、両思いってか。」

沢木である。彼は生まれてからこの方、彼女らしい人もいない。一目には体格ががっちりしており、少々『イカツイ』お兄ちゃんなのであるが、噛めば噛むほど味の出るスルメのごとく、本当に『いい奴』なのである。だがしかし、心優しい彼は最後の最後で『あの人は良い人』止まりで終わってしまう。

そんな彼に肩をトントンと叩く人物が居た。

中嶋である。ただ『ニコニコ』しているだけなのであるが、その雰囲気から『まぁ、落ち着け』と伝わってくる。本当に彼は一番謎の人物である。噂では、あの『珍宝海』ではないかとも言われている。

そして、このメンバーの中で一番力を持つ男が口を開く。

「まぁ、あれや。俺らが後押ししといたるか。揚子と生駒、それに黒松。ちょっと耳貸せ。」

そう、『策士』柏原である。またの名を『言葉のペテン師』・・・これまでの数々の悪戯の成功は彼の力と言っても過言ではない。彼はゆっくりと1年生3人に近づき、お馬鹿な策を授けるのであった・・・


次の日の昼休み・・・

「ねぇ、明ちゃん。」

「何?揚子。」

揚子の声掛けに田川は怪訝そうに答えた。昨日の今日である。そうなるのも当然だ。

実は揚子の方も今回のミッションには半信半疑なのである。この聡明な田川がこんな策に引っかかるわけはないと。しかし、彼女は意を決してミッションを続ける。

そんな二人の様子を見ていた黒松と生駒も自然に席を外す。打ち合わせどおりに・・・

「もう、そんな警戒せんとってぇなぁ。ちゅう~か、どっちかというと応援してるんやから。」

「ほ、ほんとう?」

そんな揚子の言葉に田川は少し警戒を解く。絶対からかわれると思ったからだ。

「そうそう、でな、ここで一気に三浦先輩のハートを掴むええ手あるうやけど・・・聞く?」

しかし、その言葉を聞いた瞬間再び警戒をする。聡明な田川はこの言葉は罠であると即座に判断したのである。しかし・・・惚れた弱みがあり、ついついその話を聞いてしまう。

「な、何。その手って。」

揚子も田川の様子を見て、心底驚く。そして昨日の柏原の言葉を思い出した。

『田川は今、猫まっしぐら状態のはずや。まぁ、本来なら絶対こんな手にかからんが、思わず聞くはずや。そこまでいったらこっちのもんや。』

そして、揚子は話し出す。

「あのな・・・」

田川から同意を得た揚子は田川の耳元に口を近づけてこそこそと話す。すると、田川の顔がみるみると赤くなり出した。最後には頭から湯気が出ている様な雰囲気まで漂わせる。

「よ、よ、よ、揚子?!それ、ほんまにせんといかんの?」

声が裏返りながらも問いただすように言う田川。いつものしっかり者の仮面を脱ぎ取り、目からうっすらと涙が見える。

そんな田川を見た揚子は、(ほ、ほんまにかかった?!)と柏原の洞察力に脱帽する。こうなると彼女は俄然やる気を出す。一気に締めにかかる。

「ほんまや、ほんま。そりゃ効果てき面やで。」

揚子は話の内容の割りに爽やかに話す。そして更に追い詰めるように田川に言った。

「そういえば・・・『春研』の後、ちょくちょく聞くな~あのカッコイイ先輩は誰って。こりゃ、うかうかしてると三浦先輩取られるかもな~」

まさにダメ押しである。揚子自身もなかなかの役者で、本当に田川のことが心配しているようなそぶりで話す。

「そ、そんな~・・・わかった、揚子!!私やるわ!!」

田川はそういうと手に握りこぶしを作り力強く答える。

「が、頑張って~な・・・」

その気合に当てられた揚子は若干汗をかきつつも、応援の言葉を出したのであった。


放課後・・・

田川はわき目も見ず、そのまま一気に音楽室に向かう。そのスピードは揚子でさえ追いつけない。

階段を降り、校舎を出て、渡り廊下を突っ切る。そして音楽室に着いた。そこには・・・

誰も居なかった。当然である。こんな早くに音楽室に向かう者などいないからだ。

仕方がなく田川は椅子に座り一時(ひととき)待った。時間がやけに遅く感じられる。そんなうちに部員たちが集まり始める。その中には勿論柏原が居た。彼は一瞬田川を見ると少し離れた席に座る。

すると今回のターゲットの人物が現れる。

田川はそのターゲットを見ると即座に詰め寄った。

「み、三浦先輩!!」

「は、はいっ」

その鬼気迫る様子に三浦の声が裏返る。そして・・・


(あっ、これ結構落ち着くかも・・・ちょっと懐かしい・・・)

田川は子猫の様にうっとりとしていた。そんな田川に三浦は声を掛けた。

「あの・・・田川さん。」

「はい、なんですか。三浦先輩?あっ、もしかして私重いですか?」

「いや、そんなことはないんだけど・・・」

三浦は思わず振り向いた田川の顔に今以上にどぎまぎする。少し上からの目線なのであるが、はっきり言って近すぎる。

というか、もうそんな事態ではなかった。

三浦が座った上に田川が座っている・・・そう、お父さんの胡坐(あぐら)の上に子供が座っている、そんな体勢なのである。密着している為、三浦も嬉しいのであるが、その前に皆の目線の恥ずかしさが

大きい。

(まぁ、普通に付き合ってもらう前に、俺らも楽しまんとな。しかし、女の子って吹っ切れると怖え~)

柏原は三浦の羞恥心拷問を横目で見ながらそう思ったのであった。



三浦と田川の微笑ましい情景でした・・・というか、こんな女の子居ないって?

そこはノーコメントで・・・本当、女の子って不思議です。

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