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第104話 二人の気持ち・・・

第104話 二人の気持ち・・・


ゴールデンウィークも開け、いつもの日常が戻ってくる。

三浦はいつもの通りいつもの時間に学校に着き、ホルンを吹いていた。

今日の朝の基礎練習をロングトーンとリップスラーで終わりにし、楽譜を開く。そう、昨日やっと『ビバ・ムシカ』の譜面が配られたのである。

メトロノームを指定テンポより若干遅めにし、冒頭から吹く。昨日の夜に一通り譜読みを終わらせていたので、スムーズだ。頭の中にあるイメージと、今吹いているイメージが重なり合うように吹く。

暫くすると旋律部分に差し掛かる。ここは跳ねるイメージで軽めに吹く。『旋律だ!』と思い、フォルテシモ気味に吹くと曲自体のイメージが変わってしまうからだ。

そして、そこまで吹き終わると一度演奏を止め、自己チェックを行う。音量や和音、アクセントにスタカート・・・気をつけなければならないところが沢山ある。さらに、各箇所の吹き方のイメージなども一緒に記入する。こういうところは指揮者の指示が優先されるので、参考程度に留める。

(しかし、パート割どないしようかな・・・俺が1番でええとして、あとのパートやな・・・大原は基本下吹きやから2番してもらって、松浦先輩を3番・・・アカン、1年2人で4番はきついやろ・・・かといって、2番も結構難しいしな、この曲・・・)

三浦はそうやってパート割であれこれ悩んでいると、校門に見慣れた生徒が入ってくる。柏原と揚子だ。さらにもう一人居るようだ。この時間だと大原か大倉なのであるが、その人物は彼女達よりも背が高い。

(あれは・・・明ちゃん?あっそうか、揚子ちゃんから朝練のこと聞いたんやな。)

その予想は大当たりで、校舎から渡り廊下に出てくるところで、彼女ら3人の姿をはっきりと確認することができた。

「よう、おはようさん。」

「おはようございます、三浦先輩。」

「三浦先輩、おはよ~相変わらず、朝から元気やな~」

「皆おはよ~」

4人はそう言ってお互いに挨拶をする。

そして、三浦は田川に言った。

「じゃぁ、せっかく明ちゃんも朝早くから来たんやし、一緒に練習しよか~」

その声に田川はちょっと嬉しそうに「はい!」と大きく返事をして、音楽室に駆け上がっていった。

そんな二人を見た柏原は・・・

「なんや~えらいええ感じやな、2人は。師弟関係以上のモノを感じんで。三浦センパイにもようやく春が来たか?これは。」

と、茶化しながらニヤニヤ顔で言う。

「え?そうですか。ふ、普通だと思いますけど・・・」

三浦はその突っ込みにちょっと困った顔で返す。心なしかキョドっている。※1

そんな三浦を見た揚子は・・・

(はい、誤魔化した。明ちゃんもなんか様子あれやったしな・・・よ~し・・・)

揚子は心の中でそう思うと、少し人が悪い笑みをするのであった。


そして、その日の昼休み。

田川・黒松・生駒・揚子の4人は相変わらず机を合わせ、仲良くランチを取っていた。

「あ”っ、明ちゃんの卵焼き美味しそ~」

黒松は『タコさんウィンナー』を頬張りながら、田川の弁当を覗き込む。

「こらこら、食べながら喋らない、覗き込まない。ほら、あげるから。」

田川はそう言って綺麗に焼きあがった卵焼きを箸で掴むと・・・

「はい、ここ、ここ。」

と、黒松は大きな口を開けて待っていた。

「ちょっと、小学生じゃないんだから・・・『あ~ん』なんてしないのっ!」

「え~いいじゃんいいじゃん」

「よくありません。」

「けち~」

そんな二人やり取りを見ていた生駒は、揚子に言った。

「ほんと、この子ら見てたら飽きないわ・・・仲の良い姉妹みたいね。」

「やな、当然明ちゃんが姉で小百合ちゃんが妹やな。」

揚子がそんなことを言うと、その会話を聞いた黒松は憮然とした態度で揚子を見る。そして・・・

「そんなことないもん。姉の座は渡さないわっ!!」

と、意味もなく腰に手を当て(わめ)き立てる。そんな黒松の様子を見て揚子はふと思った。

(どこか抜けてる姉にしっかり者の妹・・・なんやそっちの方がどこかで見たような構図やな・・・)

そして思わず『ぷぷぷ・・』と思い出し笑いをする。

「え~そこ笑うとこ~」

そんな揚子を見た黒松は頬を膨らませて抗議した。

その黒松の様子が可笑しかったのか、生駒も田川も笑い出す。そして、黒松自身も。本当、彼女たちは騒がしくて仲がよい仲間である。


「そうそう、明ちゃん、ちょっとええか?」

ランチも食べ終わった後、揚子は本題に戻すべく田川に言う。

「何、揚子?」

田川はちょっと首を傾げて揚子の方を向く。そして、揚子は田川に近づき他の二人に聞こえないようにこっそりと言った。

「なぁ、明ちゃん・・・三浦先輩のこと好きなん?」

はっきり言って揚子はまどろっこしい事は嫌いだ。ストレートど真ん中で聞く。田川は一瞬何のことか分からなかったらしく、キョトンとするが顔が見る見る赤くなる。そして思わず席を立つ。

「なっなっなっ、何を言ってるのかな、よ、揚子は。そ、そんなこと・・・」

いきなりの大声に生駒と黒松は田川を見た。その視線を感じたのか、田川はサッと席に座りこっそりと揚子に言った。

「そうかもしれない・・・」

照れながらモジモジする様子はいつもの田川ではなかった・・・

一方、音楽室・・・

三浦は学食の後、いつもこうやって音楽室で駄弁(だべ)っていた。※2

ここには柏原や南川、小路に鈴木など男子部員が集まっていた。いつもなら大倉や大原など女子部員もいるが今日は居ない。

そしてここでも何やらきな臭い空気が・・・

「なぁ、三浦~」

発言の主は柏原だ。雑談の話をぶった切って三浦を呼ぶ。

「何です?柏原先輩。」

三浦は田川と同じく首を少し傾げて柏原の方を向いた。

「お前、明ちゃんのこと好きやろ?」

なんともはやこの男もストレートである。更に皆に聞こえる様に言ってるのがなお悪い。

「ちょっと、えらい行き成りですね・・・」

柏原の言葉に三浦は少し呆れたように言う。周りもそういう浮いた話には興味津々らしく、皆三浦を見ていた。

三浦もその視線を感じており、『下手なことは言えないぞ』と心の中で思っていた。

そして・・・

「ん~とですね、まだそこまで気持ちが行ってるかどうか分かりませんが、こんな彼女居ったらええな~って位は思ってますよ。」

三浦はそう悠然(ゆうぜん)と答えた。

しかし、周りはあらゆる修羅場を潜り抜けた(?)猛者たち。彼の挙動を余すことなく見ていた。

(あっ、一瞬鼻触りよった・・・相変わらず誤魔化すの下手糞やな~)と長年の付き合いで読む鈴木。

(それって・・・好きと言ってるのと同じやん・・・)と、言葉で解釈する南川。

(なんや、目が完全に泳いどるやん・・・)と、挙動で読む柏原。

皆、何かしら彼が『嘘ではないが真実を言ってない』ことに気付いていた。

そして・・・

「「頑張れよ!!成功を祈る!!」」と、同時に言ったのであった。

その言葉を聞いた三浦は、

(な、なんで、ばれたんや・・・完璧に誤魔化したはずやのに・・・)

三浦は脆くもそこに崩れ落ちたのであった。


※1 キョドる。挙動不審な行動や怪しい態度をとること。母校のブラバン用語か大阪弁かと思っていましたが、俗語でした。他所では余り聞かない言葉でしたので・・・

※2 駄弁る。無駄話をする。くだらないおしゃべりをする。これも俗語です。


予想通りと言うか、やっぱりお互い好き合っている二人。

このすれ違い(?)、成就することができるのでしょうか・・・


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