第103話 緑地公園へ行こう!(後編)
第103話 緑地公園へ行こう!(後編)
昼食後、男共は『バトミントントーナメント』を行っていた。
幸いにもこの公園、バレー用のコートがあり、ネットも張っているので中々本格的だ。
観客は女子生徒たち。可愛い女の子の目線が多いので、意地と名誉と数少ない誇りを掛けて彼らはぶつかっていた。
「こ、ここ、本当に吹奏楽部なんですか・・・柏原先輩上手すぎます・・・」
為則はゼイゼイと息を切らしながら座り込んだ。
「まぁな。特に3年生はおかしな経歴の人が多すぎるから・・・」
三浦は為則を少し哀れむように見た。しかし、その言葉に鈴木が突っ込む。
「何言ってんねん。お前中学の時、サッカー部のエースやったやんけ・・・」
「へ?!」
鈴木の言葉に為則は目が点になる。まさにどうしてここに居るのかかと・・・
「そう言うお前は剣道で大阪府大会優勝してるくせに・・・」
さらに横に居た小路が鈴木に突っ込む。
「は?!」
その言葉にまたしても為則の目が点になる。
「でも、小路。それでもお前には一本も入れられへんかったけどな・・・この古武道場の跡取り息子が!!」
「え?!」
三度為則の目が点になる。そして思う。この2年生たちには絶対逆らえないことを・・・
しかし、上には上がいるのもで、3人は揃って言った。
「「「でも、揚子ちゃんには誰も勝たれへんけどな!!」」」
そして3人は同時にこのクラブの一番の猛者『揚子』の方を見た。
彼女もこの『バトミントントーナメント』に参加する様子で、本格的にストレッチをしていた。この大会で一番の小兵ながら全身がバネの様にしなやかだ。もしかしたら一番の強敵かもしれない。
「あの・・・島岡さんはどういう経歴を・・・」
為則は恐ろしいものを見るかのように三浦に聞いた。
「あの子な・・・少林寺拳法で全国制覇してんねん・・・」
「・・・」
もう為則は言葉を出せなかった。本当にこのクラブの人は異常な経歴の持ち主ばかりである・・・
そんな彼女の相手は部内ナンバーワン・・・いや、学校内ナンバーワンの身長を誇る辻本。奇しくも『最長』対『最短』の中々面白いカードである。
辻本の長身を生かした高さのあるサーブから始まる。彼は元々中学の時にバスケットボール部でキャプテンをしていた男だ。運動神経が悪いわけは無い。
だが、相手が悪かった。その上を行く揚子の動体視力としなやかな動きはまさに野生。次々と襲い掛かる強烈なシャトルをなんなく捌き、コート一杯を使って前後左右へと辻本を翻弄する。
へろへろになった辻本に対し、一汗も掻かずに余裕で撃破するのであった。そんな揚子に、女子生徒たちの黄色い声援が彼女を称えた。
「なっ、強いやろ・・・」
「なんか桁が違います・・・」
「三浦~お前次出番やろ~」
三浦と為則の会話に、鈴木が声をはさむ。
「よっしゃ~行って来るわ。相手は沢木先輩か・・・確か合気道と薙刀を嗜んでたよな・・・」
なんともはや彼も凄い経歴である。
他にも校内マラソン大会で2年連続優勝している金沢や、剣道・フィギアスケートとなんでも器用にこなす柏原もいる。
もしも、『全国吹奏楽部格闘技大会』があったら間違いなくこの高校は優勝するのではないであろうか・・・
その沢木は既にコートに居ておりこちらもやる気満々である。
三浦もコートに立つと、容赦なく沢木にシャトルを叩き込むのであった・・・
「結局・・・揚子ちゃんに勝たれへんかったな~」
三浦はちょっと悔しそうに言う。
「それでも準優勝やろ、すごいわ。」
二回戦で早くも揚子に当たり、ボロボロにされた鈴木は善戦した三浦を賞賛する。
「そうですよ、格好良かったですよ。」
横に居た田川もそう言って三浦を労う。
「あ、ありがとう。しかし、そろそろかな・・・あの企画は・・・」
三浦は二人に礼を言う。しかし、田川はその言葉に首を傾げた。
「あの企画ってなんですか?」
「まぁ、見てたら分かるわ。ホレ。」
三浦はそう言うと、皆の前に立っている朝倉を見た。
その朝倉は・・・
「ねぇ・・・これやっぱり言わんとアカンの?」
手元に小さな紙を持ち、どことなしかモジモジとしている。ちょっと萌える構図だ。
しかしそんな彼女に周りは容赦しない。
「「当然!!」」
まぁ、主に言っているのは3年男子達であるが・・・
「・・・・・・・」
「「聞こえないぞ~!」」
中々皆も意地が悪い。すると朝倉は意を決するように大声で言った。
「『ドキドキ?ワクワク?カップルでボート乗り』大会を開催します!!もう、誰よ。こんな名前考えたのわ!!」
顔を真っ赤にして彼女は去年南川が言っていた台詞を言う。
そんな企画の宣誓に田川は三浦に言った。
「三浦先輩・・・」
「明ちゃん、なに?」
「え~と・・・これって・・・男女でボートに乗るんですよね・・・」
「まぁ、そうやけど?どうしたん?」
三浦の言葉に田川は少し困ったような顔をして答える。
「あのですね・・・その・・・私、あんまりそういう機会なくて・・・」
「あ~そうか、なるほどな。う~ん、確かこれって抽選の前に男の方から指名できたはずやったなぁ・・・」
その言葉に田川はピンと何か閃く。
「あっ、それじゃ、三浦先輩。」
「なに?」
「三浦先輩が私を指名すれば万事解決ですね。」
田川の発言に時間が止まる。いや、止まっているのは三浦だけであるが・・・
「・・・えっと・・・迷惑ですか?」
その間に耐え切れなくなった田川が、少し涙目で下から覗くように三浦に言った。はっきり言ってこれは反則である。ほとんどの男は撃沈するのではないであろうか。
「と、と、と、と、と、と、と、と、とんでもありませんでございますです、はい。」
三浦は訳の判らない言い回しで答えると田川は「よかった~」と一言言って安心したのであった。
そして『運命』という名の抽選が始まる。というか、第三者から見たら外れの無いくじ引きである。女の子は皆魅力がある子たちばかりだし、野郎共もなんやかんや言って『イケメン』揃いなのである。
というわけで、誰と誰がボートに乗ったか書いていこうと思う。
・三浦、田川組
・松島、楠田組
・南川、岩本組
・鈴木、甲斐組
ここまでは順当である。そしてここからがある意味『必然』という名の偶然が巻き起こる。
・為則、朝倉組
朝倉「よろしくね、為ちゃん。」
為則「よ、よろしくお願いします。(わ~憧れの部長と一緒だなんてちょっと嬉しいなぁ~)」
・坂上、近藤組
近藤「ん~なんかいつものパー練と変わらないのは気のせいですか?」
坂上「ふむ。まぁ池の上から人物観察するのもまた一興だな。」
近藤「・・・」
・金沢、古峰組
古峰「よろしくね、金沢君。」
金沢「・・・もっと若い子・・・」
古峰「何?聞こえないわよ?」
金沢「いえ、なんでもないです。アータノシイナー」
・小路、犬山組
犬山「ねぇ、小路君・・・」
小路「な、なんや?」
犬山「新しい服作ったんだけど、着てみない?」
小路「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、女装はもう懲り懲りです;;」
犬山「ちぇ~せっかく似合うと思ったのに・・・」
・沢木、犬井組
沢木「た、頼むからボートの上では寝るなよ!!って・・・・早っ!!」
犬井「Zzzzz・・・」
・柏原、揚子組
柏原「なぁ?」
揚子「なんや~柏原先輩。」
柏原「俺ってお前のお守り?」
揚子「・・・後でしばく」
柏原「か、かんべんして・・・」
・辻本、相原組
相原「先輩・・・先輩ってば、涎が出てますよ?それに・・・凝視しすぎです、エッチ~♪」
辻本「・・・あ~俺は幸せ者だな~」
そんなこんなで皆は1組づつボートに乗る。
「明ちゃん、ほら揺れるから気をつけてや。」
「あ、ありがとうございます。」
三浦は先にボートに乗り込むとそういって田川をエスコートする。エスコートされた田川も若干照れ気味だ。顔が少し赤くなる。
彼らの割り当てられたボートは普通に漕ぐタイプだ。
田川は差し出された手を取ると危なげなくボートに乗り込む。
「こうやってボート乗るの初めてか?」
「ええ、ボート自体乗るのが初めてです。でも良いですね。風が気持ちいいです。」
二人はそうやって正面を向きながら他愛のない話をする。傍から見てると二人とも美男美女と中々お似合いである。
「せやな~そや、どうクラブも慣れてきたか?」
「そうですね~先輩方にも良くして頂いてますし、楽しい人ばかりで、なんか毎日充実してます。」
「そうか~それは良かった、うん。」
田川の言葉に三浦は満足そうに答える。しかし、どことなしか田川はモジモジしているようである。
「どうした、明ちゃん。なんか落ち着きがないで~」
三浦はその様子に気を使い声をかける。
「え?そ、そうですか・・・あっ、そうそう、この前ですね・・・」
(あれ、なんか誤魔化した?ん~女の子はようわからんなぁ。まぁいっか。)
三浦はそう思いつつ田川との会話を楽しみ、この遠足は終了したのであった。
相変わらずドタバタしている彼らですが、彼らの色々な経歴を垣間見た話でした。
しかし、『柏原』と『相原』って見間違いそうになります・・・読み返して今気付きました。
そして、そろそろ『ラブコメ』の様相が・・・勿論、次の話は・・・