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第101話 ま、まじですか・・・

第101話 ま、まじですか・・・


「・・・という話なんやけど、お前どう思う?」

『どう思うって言われても・・・部外者の私がどうこう言える話ではないじゃないですか。』

夜の11時。河合はアパートから立石に電話をしているようだ。

「ちゃうねん、唯一部外者でうちのことよ~判ってるお前やからこそ聞いてんねん。」

河合は尚も立石に聞く。そうすると電話口から小さくため息が漏れると、立石が話し出した。

『えっとですね、私の個人的な意見で良いのならそれは『十分あり』だと思いますよ。実際、私も彼を目の当たりにしているというのが判断の素ですが・・・それに事情が事情です。いいんじゃないですか?』

「そうかそうか~これであいつらに説得しやすくなったわ。」

立石の言葉に河合が嬉しそうに言った。

『それは一体どういうことですか?』

それに対して立石は不思議そうな声を出した。

「いやなに、なんやかんや言って、あいつらお前のこと気に入っているらしくてな。どうも今までに居ないタイプの先輩やってな。」

『そうなんですか?私は普段どおり接しているだけですが・・・』

河合の言葉に立石も少し困惑気味だ。彼としても彼らを特別に扱っているつもりは無い。

「それや。その先輩らしい風格があいつらには新鮮なんやねんやろ。」

『というか・・・河合さんももう少し先輩らしく振舞ってみては?』

立石は少し苦笑いをして言った。

「あ~あかん、無理や。あいつらと一緒にいるとな・・・高校時代思い出して一緒になって遊んでしまいそうでアカンねん。」

『あっ、判りますその気持ち。彼らはどこか先輩を友達感覚で接してますよね。ついつい私も彼らを年の離れた後輩ではなく、出来の悪い弟、妹みたいな感覚で彼らを見てしまう時があります。』

「やろ~まぁ、その中でもお前が一番先輩らしい人ちゅ~訳やからな。じゃぁ、夜も遅いしまた電話掛けるわ~。良かったらまた大阪に遊びにおいでや~あいつらも待ってるわ。」

『判りました。また機会があればそちらに向かいます。では、おやすみなさい。』

「おやすみ~」

河合はそういうと電話を切ったのであった。


「柏原と近藤~それから朝倉。ちょっとええか?」

ふらっと音楽室に現れた河合は音楽室の扉から顔を覗くとそう言った。

「ええですよ~なんですか?」

「分かりました~」

「行きますね。」

柏原と近藤、朝倉はそういうと音楽室から出て行く。その様子を三浦は眺めるように見ていた。

(何やろな~まぁ、指揮者二人と部長が呼ばれたからコンクール絡みなんやろうなぁ?)

三浦はふとそんなことを思った。去年もなんやかんや言って河合が来ない日は柏原が指揮を振っていたのだから・・・

「今日こそは下のFまで出しますからねっ!」

「うんうん、その意気その意気。明ちゃんならきっと大丈夫。」

「私も早くホルン持ちたいな・・・」

向こうでは田川と大原、伊達がそんな話をしている。3人を見ていると本当に仲の良い姉妹のようだ。勿論、長女は伊達。次女は田川である。一番の年長者が末っ子なのは・・・まぁ、仕方が無いであろう。

「ねぇねぇ、揚子ちゃん・・・」

さらに向こうでは黒松の声が聞こえる。彼女は舌っ足らずの割には声は高いのでよく聞こえる。相変わらずトランペット3人娘のトークは全開のようだ。

しかし、よく考えてみるとこちら側の金管セクションも前と比べて華やかさが増している。以前であれば男ばかりでむさ苦しかったのであるが、一気に女子が入部したので様変わりしている。逆にあの野郎ばかりの騒々しい時代が懐かしくも思えた。

そして、河合と連れられた3人が戻ってくる。しかし、柏原の様子が変だ。大概の事では動揺しない柏原である。ちょっと落ち着きが無い感じもする。

(一体・・・何の話やったんやろうな・・・)

三浦がふとそう思っていると時間が来たようだ。朝倉がグランドピアノの前に立つ。

「では、ミーティングを始めます。何か連絡事項はありませんか?」

朝倉のその言葉に誰も手を挙げない。そのまま朝倉が話をする。

「では、皆さんにお伝えすることがあります。重要なことなので良く聞くように。」

朝倉が珍しく畏まって話を切り出す。

(な、なんやろな・・・)

三浦はそう思うと柏原の方向を見る。さっきと違い既に落ち着いているようだ。とうより、いつもより堂々としている。三浦は逆にそれが気にかかった。

「まず、今年のコンクールですが、3年間振って頂いた河野さんが今年は振ることが出来ません。」

「「ええーーーーーーーーーー!!」」

その言葉に場が騒然とする。それはそうである。去年のコンクールの後あれだけの激を飛ばしてくれたのだ。今年こそは府大会という思いも強い。当然、河合が指揮を振ってくれると彼らは思ったのだ。

すると河合が前に出てきて話し始める。

「すまんな~本当なら振りたいんやけど、ちょうどその頃にリサイタルすることが決まってな・・・すまんな~」

河合は本当に済まなそうに皆に言う。

(あれ・・・リサイタルということは、プロとして活動するんかな?)※1

三浦は河合の説明を聞き、冷静にそう思った。しかし、次の話に思わず驚くのである。

「でや、その変わりにコンクールの指揮を柏原に取って貰うことになった。」

河合の話の後、場は暫く静かになる。そして・・・

「「え?!」」

全員が驚き一斉に柏原の方を向く。そう、前代未聞の学生指揮によるコンクール出場だからだ。

しかし、ある意味異端児(イレギュラー)たちのこの吹奏楽部。前例が無いわけではない。

実はその昔、あの更科が3年の時に同じくコンクールで学生指揮として出ているのだ。その時はなんと府大会『金』。代表こそ逃したものの堂々たる成績だったのである。勿論、そんな昔話など彼らは知るよしも無い。精々、河合が知っている位であろう。※2

だが2年・3年は柏原の指揮者としての実力を知っている。皆は声を出すことなくお互いに頷き合うと一斉に柏原の方に向き頭を下げたのであった。

「「よろしくおねがいします。」」

その声に柏原は大声で返す。

「よし、これからビシバシ行くからな。付いて来いよ!!」

「「はい!!」」

そんな様子を見た河合は思う。

(なんや、な~んも心配すること無かったな・・・この雰囲気やとひょっとしたらひょっとするで。府大会・・・いや、支部大会まで行くかも知れへんな・・・)

河合はにこやかな顔をして彼らを見ているのであった。


※1 リサイタル。1名又はごく少人数の演奏会の場合に『リサイタル』と使います。今回の場合は、『河合 恒夫ソロリサイタル』です。

※2 事実確認は取っていませんが、『伝説』として語られています。聞いとけば良かった・・・


なんと学生指揮でコンクールに出場する彼ら・・・しかし、その士気は高いです。

ちなみに、『コンクール実施規定』には、『5.指揮者の資格については制限しないが、課題曲、自由曲とも同一人が指揮すること。同一指揮者が同一部門で2つ以上の団体の指揮者として出場することはできない。』としか書いていないので問題ありません。

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