第98話 コンクールに向けて・・・
第98話 コンクールに向けて・・・
『春研』が終わった日の放課後。彼らは再びミーテングを行っていた。
「『春研』お疲れ様でした。」
「「お疲れ様でした」」
朝倉の第一声に皆は元気良く答える。
「では、これからコンクールの課題曲の選曲を行います。」
朝倉のその言葉に場は騒然となる。
「お~」とか「よっしゃ~」など、歓声や気合の入った掛け声がする。
今年の課題曲は以下の通りとなっている。
・課題曲A「風と炎の踊り」(小長谷宗一)
・課題曲B「WISH for wind orchestra」(田嶋勉)
・課題曲C「行進曲「清くあれ、爽やかなれ」」(別宮貞雄)
・課題曲D「ポップス・マーチ「すてきな日々」」(岩井直溥)
「相変わらずマーチは2曲あるねんなぁ・・・」
三浦は思わずつぶやく。
「そうなんですか。去年は何と言う曲をしたんですか?」
横に座っていた田川は三浦に聞く。
「去年は『交響的舞曲』ちゅう曲やったんや。自由曲は『キャンデード序曲』やな。」
「へ~そうなんですか。あっ、『キャンディード序曲』は知ってますよ。」
田川は以外にも色々な曲を知っているようだ。その言葉に三浦は思わず驚く。
「え?『キャンデード』知ってるんや・・・さすがピアノ経験者やな。」
「え~、そんなこと無いですよ・・・良く親に連れられてコンサートに付き合わされて、その影響です。」
田川は少し顔を赤くし、照れながら答える。そして三浦が思わずつぶやいた。
「あれやな・・・同じ初心者でも俺とは全然違うな~」
その言葉に今度は田川が大きく驚く。
「ええ!!?あんなにホルン上手なのに三浦先輩は初心者だったんですか!?てっきり中学からの経験者かと思ってました・・・」
そんな田川の言葉に今度は三浦が照れる。
「上手いだなんて・・・まだまだだよ。島岡先輩や更科先輩の演奏に比べれば・・・そうや、去年のコンクールの演奏、今度ダビングして持ってくるからあげようか?」
「あっ、是非聞きたいです。楽しみにしてますね。」
三浦と田川がそんな話をしているうちに、コンクールの課題曲の選曲が始まる。
まず、各パートに楽譜が配られデモテープがカセットデッキから鳴らされる。
「『WISH』は始めのところはめっちゃええけど・・・中間部なんかこちゃこちゃしてるな。上手いところがやったらええ曲なんやろうけど・・・」
三浦は譜面を見ながら曲を聞き、そう評価する。
「せやな~俺もこの曲なんか苦手や。マーチ2曲の方がええんちゃうか?」
後ろに居た松島も肯定して言う。
「この『すてきな日々』っていいんじゃない?途中のスィングとかも入ってて面白そう。演奏もやりやすそうだし・・・」
今度は松島の横に座っている大原が言う。
「ですよね、でもこの『清くあれ、爽やかなれ』もいい感じの曲ですね。私はこっちがいいかな?そう言えば、『風と炎の踊り』は?これもいい曲だと思うけど・・・」
田川がそう言うも皆の反応は薄い。
「『風と炎の踊り』なぁ・・・前に『風紋』演奏したから、どうしても被って聞こえるねんなぁ・・・」
「せやな、あの曲はほんまええ曲やったからな・・・」
「そうそう、どうしても比べちゃうわね。」
三浦・松島・大原は揃って同じような言葉を言う。
「その『風紋』ってそんなにいい曲なんですか?」
「せやな・・・この前の『追い出し会』で演奏したんやけど、ほんまええ曲やったわ・・・」
三浦はしみじみした顔で言う。
田川はそんな三浦を見ているとふと思う。彼はいつもこういう顔をするときは、あの『島岡』先輩のことを思い出しているということを・・・ちょっと切ない気がした。
そんな中、課題曲の選曲が進められる。やはり絞り込まれた曲はマーチ2曲、『すてきな日々』と『清くあれ、爽やかなれ』である。この2曲で決戦投票を行う。
その結果・・・
「というわけで、最終投票の結果今年のコンクールの課題曲は『すてきな日々』に決まりました。」
朝倉が黒板の前でそう言う。
その瞬間大きな拍手が音楽室に響き渡る。続けて朝倉は言う。
「続きまして自由曲ですが・・・」
そうあともう一曲、自由曲の選曲が残っている。黒板の前に書かれた曲は以下の通りだ。
・アルメニアンダンスパートⅠ(アルフレッド・リード)
・VIVA MUSICA!(アルフレッド・リード)
・シーゲート序曲(ジェイムズ・スウェアリンジェン)
・カスケード高地の歌(アルフレッド・リード)
「・・・リードばっかりや・・・」
三浦は黒板に書かれた曲を見て思わずつぶやく。そう、『シーゲート序曲』以外全部アルフレッド・リード作曲の曲ばかり並んでいる。
「あの・・・そのリードさんって?」
田川は三浦の言葉を聞いて不思議そうに聞く。それはそうだ。吹奏楽関連ではこの名前を知らない人はいないが、一般人には馴染みの無い名前だ。三浦も今でこそは知っている名前だが、吹奏楽部に入るまでは知らなかったのだ。どう説明するか思わず躊躇する。
「え~と・・・吹奏楽の曲を一杯書いてる人・・・かな?」
「は、はぁ・・・」
三浦の説明を聞いた田川も理解したのかしなかったのか、なんとも頼りない返事で返す。
そんな1年生も混じってる中、次々に音源が流される。譜面はこの4曲共、今高高校には無い。
「しかし・・・『アルメニアン』はいつ聞いても難しそうやな・・・うわ~ホルンソロもあるやん・・・」
三浦は少し苦笑いして言う。
「まぁ、数小節しかないけどな。それより『VIVA MUSICA!』もホルン目立つな~島岡が好きそうな曲やな。」と、松島。
「私は『シーゲート序曲』がいいですね。ノリがよくって私は好きですよ。」と、大原。
「う~ん、『カスケード高地の歌』はなんか微妙ですね。先の3曲に比べるとあっさりしすぎているかもですね。」と、田川。
4人が各曲を聴いた感想である。
その言葉はやはり選曲にも表れる。まずは『カスケード高地の歌』がイマイチという理由で消え、『アルメニアンダンス』が難しいという理由で消える。
残るは、『VIVA MUSICA!』と『シーゲート序曲』。そして、決戦投票の結果・・・
「今年のコンクールの自由曲は『VIVA MUSICA!』となりました。というわけで、譜面の手配お願いします。当面は、『すてきな日々』を練習していきましょう。」
朝倉の声に皆は大きく「「はい!」」と言ってその日のミーティングは終了したのであった。
今年のコンクールの曲が決まりました。彼らは『今年こそは地区予選突破』を合言葉に練習を始めるのでした。