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第97話 『春研』再び・・・

第97話 『春研』再び・・・


『春の研究発表会』・・・通称『春研』。今年もこの時期がやってきた。いつもならこの『春研』後に多くの部員が入ってくる我らの吹奏楽部であるが、今年は少し違っていた。

「なんか・・・多いなぁ・・・」

三浦はボソッとつぶやく。

『春研』前日に控えた合奏の時間・・・そこには数多い部員が居た。そう、本来であるならば2年生3年生だけで行われるのであるが、1年生も混じっている。

トランペットには揚子・生駒の経験者コンビ。勿論、合奏に慣れてもらうため、黒松の姿もそこにある。3人プラス丸谷で仲良くしゃべっている。そして、黒松と同じように田川もホルンパートの一番右端にいる。彼女の横にも大原がいるので、お喋りの輪が広がっている。


そして、木管セクション・・・クラリネットには多くの優秀な新入生が居た。

小麦色の肌で健康的な感じの『三島(みしま) 麻美(あさみ)』。

三島とは対照的に大人しい感じの『御子柴(みこしば) 絵里(えり)』。

更に更に、双子の『篠原(しのはら) 夏子(なつこ)冬子(ふゆこ)』。

実はこの4人は同じ中学出身で、なんと中嶋の後輩に当たる。とは言っても、中嶋を頼ってこの高校に来たわけではないが・・・たまたまである。


フルートにも二人の有望な経験者が入っていた。

おさげが姿が似合う笑うととっても可愛い『水沢(みずさわ) 亜紀(あき)』。

丸顔で人懐っこい感じの『成元(なるもと) (かおる)』。

特に、水沢にいたっては大倉同様子供のときからフルートをしており、既に10年以上も吹いている(つわもの)である。


これだけではない。パーカッションにも強力な助っ人が入っていた。

色黒で黒縁眼鏡が似合うボブカットの子だ。『大西(おおにし) あや』と言い、彼女も中学からの経験者である。

ある意味、今年の今高高校吹奏楽部は豊作の年である。

勿論、3年生は全員参加しており、今のところは休部の人は居ない。

しかし、ある一角だけは寂しい・・・バリチューパートである。寺嶋・平田が抜けた穴は非常に大きい。期待の新人である為則は、初心者なので合奏に参加していない。今も柏原とマンツーマンでチューバの練習中だ。『春研』には間に合わなさそうである。

故に、坂上が『入学式』同様チューバを持っている。ユーフォニウムは0だ。ささやかながらも辻本がバスクラリネットを持っているのでまだマシなのであるが、バリチューパートが一人と言う現状はいささか頼りない。合奏もやはりそこが悩みの種となっている。

(う~ん、中低音がどうしても足りないわ・・・)

近藤は指揮をしながらそう思っていた。

『A列車で行こう』はそこまで顕著に現れなかったが、『アメリカーナ』でそのマイナス要因は大きく出た。しかし・・・


「い、いいんですかねぇ・・・」

三浦は少し心配気に言う。

「いいと思うけど?非常事態やし・・・」

朝倉は特に問題なさそうに言う。

「細かいこと言うなや。せっかく駆けつけたんやからな。」

平田は『はぁ?お前ら何言ってるんだ?』と言う感じで言っていた。

そう、家が学校に近い(歩いて10分)平田は、たまたま今日明日と仕事が休みと言うこともあり、遊びに来ていたのだ。

「あれやったら寺嶋も呼ぶか?あいつもどうせ予備校で暇してるはずやし。」

「あっそれ良いですね。でも、初見でいけます?」

朝倉はその提案に乗り気だ。

「どっちも1年でやった曲や。問題あらへん。」

平田は自信満々に答える。

「これで、中低音は何とかなりそうですね~」

横でその会話を聞いていた近藤はそっと胸を撫で下ろした感じだ。

「ほんまに・・・えんかな~」

それでも三浦は心配であった・・・


そして『春研』本番。

昼休みになり、部員は一斉に動く。昼休みの1時間で楽器運びと演奏をしなくてはならない。昼ごはんなど取っている余裕などないのだ。さすがに片付けは放課後に行うが・・・

「オラ、手前ら!!ささっと運べ!!」

「「サー・イェッサー」」

鈴木の掛け声で男子部員が動く。それは1年生であろうが、2年、3年生であろうが関係ない。

「鈴木えらい張り切ってんねんな~」

そんな鈴木の姿を見て平田は言う。

「まぁ、ええんちゃうか~しかし、またこうやって演奏できるとは思わんかったで。」

横に居た寺嶋は平田にそういった。ちなみに二人共学ランを着ており、まだ卒業したての為か違和感が無い。

そして、演奏に加わらない田川と黒松は、MCの紙を凝視していた。そう二人は裏方として今回の『春研』に参加するのである。為則も緞帳の幕開けやら配電盤などの設備系の係りを務める。


「明ちゃん・・・私、いけるかな・・・」

いつもは明るい黒松は珍しく不安げな表情で言う。

「そうね、ゆっくりとはっきりとした口調で言えば小百合なら大丈夫よ。私が保証するわ。」

そんな黒松に田川は適切なアドバイスを伝える。やはり、長年の付き合いなのか、彼女のテンションの持ち上げ方を良く知っている。

「う、うん。分かった~」

二人は最後の確認をすると舞台袖から舞台に登場する。舞台の一番端ではあるが、そにはマイクスタンドが立てられていた。二人は揃ってマイクスタンドの前に進む。

『皆さん、こんにちわ~。今高高校吹奏楽部です。』

落ち着いた田川の声がマイクを通して講堂に響く。

『短い時間ですが、是非楽しい音楽のひと時をお楽しみ下さいね~』

次に高い黒松の声だ。いつもの舌っ足らずな口調でなく、明るくはきはきした声である。

そして、彼女らのMCが終わったと同時に近藤が指揮棒を振り始めた。舞台の照明が一気に点灯される。


木管の軽快なリズムに乗って前奏が始まり、サックスの旋律が始まる。後ろで動いている中低音が更にその軽快さを更に引き立たせる。

(昨日の合奏より断然いいな・・・)

三浦は後うちを打ちながらバリチューパートを見る。本当にこの寺嶋と平田の名コンビは上手い。

そして小路のトランペットソロが出てくる。1年の時にと比べて、その演奏は安定感がある。

次に出てくるのは鈴木のトロンボーンソロ。彼もまた大きく腕を上げている。まだまだ中嶋の様にとはいかない。少し技巧的なところでは音を外す場面もあったが、概ね問題ないソロであった。

さらに今度は朝倉のアルトサックスソロ。まだまだ音自体は『上手い』と言うところまで行かないが、考えてみれば2年生の中で一番ソロ回数があるのではないだろうか。その楽しそうに吹く演奏は、違う意味で観客を魅了する。

そして冒頭に戻り、花形パートのトランペットとトロンボーンが場を盛り上げる。

次に出てくるのは丸谷のソロだ。カップミュートを付けてイヤラシク吹く。彼女の場合は元々音が柔らかいせいか、こういうところは本当に上手い。それに答える様に犬山のクラリネットが登場する。

考えてみれば、この曲でソロを吹いたのは全員1年からの初心者。中学からの経験者から見ればまだまだであるが、共通することはこの曲を本当に楽しく吹いていたことではないであろうか。


『如何だったでしょうか?先ほどの曲は、ジャズで有名な『A列車で行こう』でした。』

「さて、次にお送りする曲は『アメリカーナ』と言う曲です。皆様も良く知っている曲が多数出てくるので、楽しんで聞いてください。』

黒松・田川のMCが終わると、近藤はゆっくりと指揮棒を振った。


中低音の前奏から始まり、続いてトランペットのファンファーレが響く。そして、木管による緩やかな演奏が終わると、ピッコロとスネアによる元気な曲が流れ出した。『アルプス一万尺』である。

そして、ホルン・ユーフォニウムが軽快さのなかで緩やかに旋律を吹く。その旋律に木管の早いパッセージが花を添える。最後はトランペットのファンファーレ。

次に飛び出る曲は『草競馬』。トランペット・トロンボーンの旋律の後、トロンボーンパートが軽快に旋律を吹き上げる。

そして、テンポはゆっくりとなり、ホルンパートによる演奏がなされる。『ケンタッキーの我が家』・・・本当にここはホルンアンサンブルとなっていた。三浦の旋律に、大倉・松島の伴奏が付く三重奏。三浦自身もソロを演奏するより、こうして合わして吹くという方が好きである。

そして、今度は丸山のソロ。優しいトランペットの音が講堂に響き渡る。

それが終わると木管となり、再びトランペットに引き継がれ、緩やかな演奏が終わる。

中低音による勇ましい音が奏でられる。そして木管による『リパブリック賛歌』が現れる。曲調は一気に軽快になり、トランペットによる『線路は続くよどこまでも』へ・・・最後はトロンボーンによる『

リパブリック賛歌』へ戻る。トランペットのファンファーレと木管の旋律が一段と曲を盛り上げる。

そして、曲はリタルダンドし、壮大な和音で曲を締めくくったのであった。


『これで、吹奏楽部による『春研』を終わります。今日はお集まり頂きありがとうございました。』

『吹奏楽部は毎日音楽室で練習を行っていますので、音楽に興味がありましたらいつでも音楽室に来て下さいね~』

MC役の田川と黒松のコンビが最後に締め、今年の『春研』は終わったのである。


今年の『春研』は、例年以上に1年生たちが頑張りました。

そして、1年初心者であった2年生も上達し、急遽応援に駆けつけた平田・寺嶋コンビもあり、『春研』も成功へと。

更に部員が増える予感がします・・・

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