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第95話 チューバを継ぐ者

第95話 チューバを継ぐ者


(う~ん、なんかクラブしたいな・・・何かないかな、俺でも出来る部活・・・体育会系は・・・パスやな、文化系で・・・そうや、楽器できるようになったらカッコえんちゃうかな。ギターとか出来たらカッコええやろうな~)

その男・・・『為則(ためのり) 泰二たいじ』は考えていた。

彼は本当に背が小さい。その身長、155cm。まぁ、まだ高校一年であるからこれから背も伸びるであろうが・・・

そして彼は、そのまま軽音部へ向かう。そこには、数多くの部員が居た。エレキギターにフォークギター、ベースにドラム、キーボード・・・数多くの楽器がそこにあった。

「おっ、入部希望者か?」

エレキギターのチューニングをしていた部員が彼に気付く。

「さぁ、入った入った。」

彼は赴くままに奥に通される。

「で、バンド経験は?ギター、ベース、ドラム何がいい?それともキーボード?」

矢次にどんどんと質問される。

「え、えっと・・・しょ、初心者です・・・楽器はしたことは無いです。」

「そうか~じゃぁ、何かしたい楽器あるか?」

そんな彼に対して、その男子部員は優しく言う。中々面倒見の良さそうな男である。

「ギ、ギター・・・ですかね?」

「お~そうか、ちょっと弾いてみるか?」

「え?いいんですか?」

「かまへん、かまへん。ものは何でも試しや。」

その男はそういうと、自分の持っていたエレキギターを為則に掛ける。

「それでな、持ち方は・・・そうそう。おっ何か様になってるな。」

「そ、そうですか。」

その男に持ち上げられた為則は照れる。

「じゃぁ、一回コード弾いてみよか。基本中の基本のCな。指はっと・・・」

その男はそう言って為則の左手をCのコードに合わせるが・・・

「痛たた・・・」

「おっと、すまんすまん。なんや指が届かんのか・・・こりゃ、女性用のネックの細いギターがいるなぁ・・・」

「す、すいません・・・」

「ええってええって、今はちょっと無いからな・・・どないしよ・・・」

「え~と、また出直していいですか?他のクラブも見たいので・・・」

「まぁ~しゃ~ないな。もし良かったら明日も顔出してな。待ってんで~」

その男はそういうと爽やかな笑顔で為則に言ったのであった。

(あかん・・・ギターは無理や・・・体と一緒で手が小さいんや・・・)

為則は項垂(うなだ)れて軽音部の部室を後にした。

すると前から華やかな2人の女子生徒が近づいてくる。

「ねぇねぇ、明ちゃん。」

「何?小百合。」

「最近やっとラッパの音鳴るようになったよ~」

「へ~早いね。私はまだマウスピースしか練習してないわ。でも、初心者でも案外早くトランペットって音鳴るのね。」

「うんうん、私もびっくりしたわ。」

その会話を聞いた為則は、どこともなく一筋の光を見出した様である。

(こ、これだ・・・確か、トランペットって小さかったよな。女の子でも出来るんだから俺だって・・・)

そう思ったが早いか、彼は吹奏楽部の部室に向かうのであった・・・

(あれ・・・吹奏楽部って部室どこだ・・・)

『音楽室だ、早よ行け!』

(ああ、音楽室か・・・でも、どこから声が・・・)

『こまけ~ことはええんだよ、早よ行け。』

(サー・イェッサー!!)


「トランペットが希望ねぇ・・・」

為則の言葉に犬山は当惑気味だ。それはそうだ。既にトランペットは3人も1年がおり、これ以上入れると他のパートとのバランスが崩れるからだ。

「だ、駄目ですか・・・」

為則はがっくりと(こうべ)を垂れる。

すると後ろから大きな声がする。柏原である

「なんや~他にもっと大事なパートがあるやろうが・・・」

「え?それってなんですか?」

為則は声のした方向に向き言った。

「チューバや。ちょうどお前みたいな男を捜しとったんや。」

「チューバ・・・ですか?」

「そや、お前低音に興味ないか?ほれ、ベースとかああいうの。」

その言葉を聞いた為則は以前行ったライブの風景を思い出す。

確かに、ギターの様に派手ではないがその腹に響く低音はカッコよかった・・・

「ベースですか・・・いいですね。でも、僕、手が小さいから・・・フレットが・・・」

「あ~チューバには関係ないから。ほれ、こっちこい。」

柏原がそういうと為則は誘われるままに移動する。そのチューバがどんな楽器か分からないからだ。断然興味を持つ。そして・・・

「で、でか・・・!!」

初めて目にするチューバ。その大きさに思わず為則は一瞬後ろに引いた。

「まぁ、初めて見たらびびるけどな。でも、その分渋い低音出すで。近藤は今どこや?今すぐ呼んで来い。」

「は、はい」

柏原に言われるまま犬山は音楽室を飛び出す。そして、暫くすると犬山が近藤を連れて音楽室に戻る。

「なんですか?柏原先輩。」

近藤はいきなり呼ばれて怪訝そうな顔をする。しかし、柏原は気にせず話す。

「近藤、一回この子にチューバの魅力見せてやってくれへんか?」

柏原がそういうと近藤は為則の方を向く。そして・・・

「そういうことですか、いいですよ。」

近藤はそういうとおもむろにチューバを手に取った。

(うわ~俺とあんまり変われへん女の子が軽々と・・・)

為則は近藤の動作を見て思わず感心する。そして・・・

『ヴォーーーーーーーーー』

腹にずしんと来る低音が音楽室に響き渡る。

(あっ、す、すごい。こんな低い音がでるんや・・・)

為則はこの無骨な楽器から出る音に、思わず感動する。

「どや、渋い音やろ。他にもこんなん出来るねんで。近藤、『恋のカーニバル』のソロいけるか?」

「いけますよ。」

近藤がそう答えると、『合同』で演奏した『恋のカーニバル』のチューバソロを吹く。

それを聞いた為則は・・・

(うわ~めっちゃかっこええ。こんなんも出来るんや・・・俺にも出来るかな・・・)

彼は思わずそのソロに聞き惚れる。その様子を見た柏原はもう一押しと思い・・・

「なぁ、為則君。一回チューバ吹いてみるか?なんかお前素質ありそうやから一発で鳴ると思うんやけどな・・・」

それを聞いた為則は・・・

(俺に素質・・・まさかな・・・でも、もしかしたら・・・)

柏原の策略に嵌ったのである。※1


「そうそう、そう持って、マウスピースに口を・・・お、ええ感じやな。それから吹くときは唇を『ブブブ』って震わすんや。ほれ、吹いてみ。」

柏原の指導通り為則はチューバを吹く。

『ヴォン』

(な、鳴った~~~~~)

感動である。今まで何一つ出来なかった男が、始めて何かを出来た瞬間である。

そして何回もチューバの音を鳴らす。確かに、近藤の様に芯のある音は出ないが、吹けば吹くほど幾らでも音が出るのだ。

そして・・・次の日から、柏原と近藤の指導の下、彼はチューバを吹いていたのであった。その顔はどこか自信に満ち溢れた姿であった・・・


※1 確かにチューバは他の楽器に比べて比較的音が鳴り易いですが、きっちり音が鳴るかどうかは別です。


待望のチューバ奏者の誕生です。これで、今高高校吹奏楽部も3年間安泰(?)・・・

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