第94話 入部・・・どうする?
第94話 入部・・・どうする?
「えっと、生駒さんがラッパ経験者で、黒松さんがラッパ希望っと・・・それで、田川さんがホルン希望ね。どうする?早速練習に参加する?」
大倉はもう一度聞き直し名簿に記入する。
「そうですね、トランペット貸していただけるのであれば・・・」
「えっと、確かあるはずだけど・・・パート長が来てから確認するわ。黒松さんは?」
生駒の答えに大倉はそう言い、今度は黒松に尋ねた。
「え~とえ~と、何の練習するんです?」
「・・・彼女もパート長待ちと・・・田川さんは?」
「私ですか?勿論、参加します。」
「OK。じゃぁ、パート長が来たら引き渡すわ。見学と言わずこれからもよろしくね。」
大倉は最後にそう締めると笑顔で3人に言った。
「「「よろしくお願いします」」」
その笑顔に釣られて3人は返事を返したのであった。
「大倉先輩って可愛いよね。」
「だねだね、背も小さいから余計にそう思えるね。もう、ぎゅっと抱きしめたくなっちゃう~♪」
「たまに呆けるけどね・・・あれは天然かも・・・」
田川・黒松・生駒はそう言って大倉の第一印象を話し合っていた。
「まぁ、大倉先輩は可愛いけどちょっと問題があるんやで~」
そこに揚子が割ってはいる。既に手には自分のトランペットを持っていた。
「え、なになに~?」
黒松は興味深そうに聞く。
「うちのお兄ちゃんに手出すんや。許されへん存在やな。ほんま大問題やで。いつか南港に沈めんとな・・・」
「「「・・・」」」
力の入った拳を突き上げて力説する揚子に3人はあっけに取られたのであった。
するとその大倉から声がする。
「3人共~パート長来たわよ。紹介するからこっちに来て~」
「「「はい」」」
3人はその声に答えると大倉の元に向かう。
「じゃぁまた後で。」
揚子はその3人を見送る形で後ろから声を掛けたのであった。
「えっと、彼がトランペットパート長の小路君、こっちがホルンパート長の三浦君。」
「「「よ、よろしくお願いします」」」
「よぅ、よろしく~」
「よろしくな~」
3人に挨拶された小路と三浦はお互いに挨拶を返す。
「(ねぇねぇ、小路先輩ってちょっと可愛くない?)」
「(うん、女装がしたらめちゃくちゃ可愛い女の子になりそうね)」
「(それに対して三浦先輩ってカッコイイよね。)」
「(うんうん、二人とも美形よね。柏原先輩といい、入学式にビラ配っていた人もかっこよかったし・・・すごいねここ♪)」
「(いたいた、3人共背が高かったよね)」
「((うんうん))」
黒松・生駒・田川はひそひそ話で盛り上がっていた。
その様子を三浦・小路は見ていたが、どうやって声をかければいいか当惑気味だ。まだまだ話は続いている様である。ある意味彼女らもこの吹奏楽部の面々と同じ部類かも知れない・・・
それを見ていた大倉はさすがに小路・三浦を見かねて助け船を出す
「はいはい、3人共そこまで。先輩が困ってるでしょ。」
「「「は~い」」」
大倉に軽く注意された3人は話を中断し、それぞれのパート長に体を向けたのである。
「え~と、改めて、俺がホルンパート長の三浦や。田川さんって言ったっけ?」
「はい、田川明子と言います。よろしくお願いします。」
三浦の自己紹介に田川は可愛い笑顔で返した。
(お~~~か、可愛いなぁ・・・)
三浦はその笑顔で撃沈寸前だ。だが、ここでちゃんとしとかないと後に響くと思いポーカーフェイスを押し通す。くだらないプライドであるが、大事な事である。
「そうか~せや、もうちょっとで大原と松島先輩が来るから紹介するわ。それにしても・・・」
「はい、なんですか?」
「いや、なんでホルンなんかな~って思ってな。ほら、他にもラッパとかサックスとかクラリネットとかあるやん。」
その三浦の問いに、田川は少し首を傾げて言う。
「そうですね・・・和音・・・かな?」
「和音?」
「そう、入学式の演奏で綺麗な和音が聞こえたので、私もしてみたいと思って・・・先輩はどうしてホルンなんですか?」
「そやな~俺の一つ上にめちゃホルン上手い先輩がおってな・・・その人みたいに吹けたらなぁ~と思ったんや・・・結局、無理やったけどな・・・」
その言葉に田川はピンと来るものがあった。
「その先輩って、揚子のお兄さんですか?」
「せや、よう知ってるな・・・ああ、同じクラスやもんな。ほんま、あの人の音聞いたら・・・」
「聞いたら?」
「あまりの上手さに気絶しそうになるで。」
三浦のその言葉を聞いた田川は思わず「ぷっ・・・」と噴出して笑った。
「えええっ!なんでそこで笑いが・・・」
「だ、だって・・・揚子と同じこと言うんやもん。私も是非その人の音聞いてみたくなりました。でも、入学式のホルンの和音も素敵でしたよ?」
「あ、ありがとう。」
田川の言葉に三浦は少し照れるのであった。
「えっと、彼女が見学者の田川明子さん。で、彼女が大原さんで、この人が3年の松島先輩。」
「よろしくお願いします。」
「よろしくね」
「よろしくな~。で、三浦パート長。今日のご予定は?」
お互いの挨拶の後、松島はニヤニヤしながら三浦に聞く。
「もう、松島先輩は・・・とりあえず、一回僕らの練習しているところを見てもらって、それから別れよか。田川さんは初心者なんで腹式呼吸から教えないと駄目やからな~」
「OK」
「分かりました」
松島・大原はそう言うと楽器の用意をする為、ホルンのパートロッカーに向かうのであった。
「では、何か連絡事項はありませんか?」
時間は3時40分。いつもの通り朝倉がグランドピアノの前に立ち開始のミーティングを行っていた。
「はい」
犬山が手を上げる。
「はい、犬山さん」
「今日、3人クラブ見学者が来ています。」
「「お~~」」
犬山の言葉に皆は感嘆の声を上げる。その声が静まると犬山は話を続ける。
「ということですので、以後も見学者が増えると思います。パート見学のときはよろしくお願いします。」
犬山はそう言うと席に座る。それと同時に皆はきょろきょろし、その3人を見つける。皆ニコニコ顔だ。
「では、練習を始めます。よろしくお願いします。」
「「よろしくお願いします」」
朝倉が大きな声で言うと、皆も元気な声で返す。
(ほんと、部活って感じよね。)
その様子を見ていた田川はそう思ったのであった。
田川を含めたホルンパートの面々は渡り廊下に並んでいた。三浦・松島・大原の順である。田川は廊下を挟んだ反対側にいた。
「じゃぁ、早速ロングトーン始めんで。いつも通りFからFな。」
「「はい」」
二人は三浦の言葉の後に返事をする。
それを見ていた田川はちょっとドキドキだ。
(一体どんな練習するんだろ・・・こういうのって初めて見るわ)
そう、彼女はピアノを習ってたとはいえ、それは教師と生徒のマンツーマン。こうやって複数人で並んで練習することなど無かったからだ。
「さんしー」
三浦の掛け声で3本のホルンがロングトーンを始める。いつもの事ながら始めはピッチが合っていない。しかし、進むにつれてその音が揃いだす。まるで1本のホルンで吹かれているかの様に・・・
(す、すごい、これがホルン・・・)
田川は始めばらばらだった音で少し落胆したが、その音が合うにつれて感動を覚え始めた。そして一抹の不安も・・・
(わ、私、この人たちについていけるのかしら・・・でも、私もこの中でホルンを吹いてみたい・・・)
最後に綺麗に揃ったFの音を聞いた田川は、このクラブに入ろうと決意したのであった。
「ねぇねぇ、明ちゃん。ホルンパートどうだった?」
次の日の昼休み。田川・黒松・生駒・揚子の4人は集まり昼食を取っていた。
「うん、凄くよかった・・・私もあの中で吹きたいと思った・・・小百合の方はどうだったの?」
「んとね・・・丸谷先輩がカッコよかったの・・・」
黒松はどこか上の空だ。
「明ちゃん、聞いてよ。小百合ちゃんったらね、練習そっちのけでず~と丸谷先輩見てたんだから。」
その黒松に変わって生駒が説明する。
「そ、そんなにカッコイイ先輩だったの?」
「う・・・うん・・・」
まだ上の空だ。それほどカッコよかったらしい。
「まぁ、丸谷先輩は背~高いからなぁ。うちかて憧れるで。」
揚子は少し肩をすぼめて答える。感の良い田川は揚子の言葉にピンと来る。
「えっ、憧れる?もしかして・・・丸谷先輩って・・・女の人?」
「ピンポン、当たり。すらっと背が高い先輩だったわ。トランペット吹く姿は私もうっとりするわね。」
「へ~そうなんだ。ということは、二人共入部する気満々?」
「勿論、ほらこれ。」
生駒はそういって胸元から入部届の用紙を出す。黒松もぼ~としながらも同じく入部届を出した。
「な~んだ、私もよ。」
田川も胸元から入部届の用紙を同じように出した。
「なんやかんやで皆、吹奏楽部やな。これからもよろしくやで。」
「「「うん」」」
揚子の言葉と共に3人は元気良く返事をしたのであった。
三浦たちホルンパートの練習を聞いて決心を決めた田川。そして、黒松・生駒も・・・新生今高高校吹奏楽部の始動です。




