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第9話 すれ違い

第9話 すれ違い


次の日の放課後、三浦は一人音楽室に来ていた。いつも一緒に居る鈴木は、掃除当番なので少し遅れている。

三浦は昨日、家に帰ってからも少しの時間ながら、腹式呼吸とマウスピースによる練習をしており、『今日こそ楽器を!!』とやる気満々でいたのであった。


音楽室には、まだ島岡の姿はなく代わりに松島の姿があった。

「こんにちは、松島先輩」

「うっ~す、昨日はどんな感じやった?うまくいけそうか?」

松島の労わりの言葉に三浦は、「ええ、まぁまぁです。」と言葉を濁した。

「そっか、そりゃ良かったわ。」

三浦は少し考えてから、松島に聞いてみた。

「そういえば、松島先輩はマッピを持っていつくらいから楽器に付けたんですか?」

(ははん、三浦はまだマッピ鳴らすのに苦しんでんねんな。ちょっと希望持たせたるか。)

松島は三浦の問いをそう解釈して答えたのであった。

「そうやな~、マッピが鳴った日にはもう楽器に付けとったな。」

「そんなに早いんですか~。」

その言葉を聞いた三浦は、今日にでも楽器を持たしてくれると思い音楽室を出る。

部活開始の時間が来るまでに、少しでも練習したかった為である。

(まぁ、俺がマッピが鳴ったのは練習始めてから3日目、その次の日に楽器につけたな。楽器を付けるまでが苦しいからこれで励みになるやろう。)

松島はうんうんと納得してその後姿を眺めたのであった。


少し時間は戻る・・・


島岡は授業が終了すると「3-1」の教室に向かっていた。

教室の中を除くと目的の人物を発見する。

「部長~、ちょっと時間いいですか?」

島岡の声に石村は返事をした。

「もう部長やないし・・まぁええわ、なんや話って。今日は楽器吹いて帰るつもりやったし、むかいながら話そうや。」

石村は廊下に出ると二人は歩きながら話し出した。

「自分にとって部長は、石村さんだけですよ。まぁ、おいおい直します。用件なんですけど、実は三浦、もうマッピ鳴っとるんですわ。」

「一日でか?えらい早いな。俺や松島でも3日かかったのに。」

「俺は5日かかりましたけどね。」

島岡は頭をかきながら答えた。

「あほ、お前は始めこそ時間掛かったが、その後とんとん拍子や。お前の才能、俺に分けて欲しいくらいや。」

「そんな・・俺にはそんなもの無いですよ。柏原や中嶋みたい音楽知識も無いですし・・・欲を言えばもっと部長に教えてもらいたかったです。」

その言葉を聞いた石村はいつもこれや、といった感じで呆れるのであった。

(今の島岡の奏者としての腕は俺を越えてるんや。あの更科さらしなさんと並ぶくらいに。あとは自信を持つだけなんやが・・・)

石村はそう思いつつ、話を元に戻した。

「で、話ってなんや。それだけやないんやろ?」

「ええ、その・・・三浦の楽器を触らせるタイミングでして・・・誠に言いにくいんですが、松島のときもあるのでどうしようかと・・・」

「あいつには気の毒なことさせてもうたな。いくら『合同』が近づいているといって焦りすぎたわ。まぁ、ええ。お前の考えてる通りにしたらええわ。今はお前らの代なんやから。」

「分かりました。マッピが安定するまでもう少し我慢してもらいますわ。まぁ、初日で鳴らせたんです。今日の練習と明日の練習・・・もしかしたら明日にでも楽器付けれると思います。ありゃええ奏者になりますよ。俺なんて軽く越えれるくらいの。」

(あほ、お前を越えれる奏者がぽんぽんおるわけないやろうに・・・)

その後は雑談しながら、二人は音楽室に向かうのであった。


三浦は1階に下りて頭の中で拍を数えながら、昨日の練習通り、2拍吸い4拍鳴らしを繰り返していた。

暫くすると島岡と石村が話しながら渡り廊下を歩くのが目に映った。

「お、頑張ってるやないか。」

三浦の姿を見つけた石村は三浦に声を掛けた。

「こんにちは、石村先輩」

「早くも名前覚えてくれてんな~。昨日はすまんな、顔出せへんで。」

「いいえ、3年生は休部状態なんですよね。仕方ないですよ。」

「なんや、知ってたんか。まぁ、こいつが居る限りホルンパートは安泰やけどな。」

石村はそういうと島岡の肩をばんばんと叩いた。

「俺なんてまだまだひよっこですよ・・・そうや、三浦」

島岡の声に三浦は目を輝かせた。もしかしたら、今すぐにでも『楽器を持たしてやる』と言ってくれると思ったのである。

「マッピで練習するときもメトロノーム使いや。頭ん中だけで拍数数えるのはまだまだ早いで。ホルンケース置いているところに、うちのパートのメトロノームあったやろ?いつでも使ってええからな。」

島岡はそっけなく言うと、音楽室へと階段を上がっていく。

後ろでは三浦がちょっとがっかりしていた。

「松島は俺が見たるから、お前は三浦をしっかり見たってや。」

石村は階段を上りながら島岡にそう告げると島岡は「ありがとうございます」と石村に言ったのであった。


そして部活動中、今日も三浦は楽器を触ることはなかった。

島岡は三浦と同じ練習をしながらも、三浦のマッピの音を聞いていたのであった。


三浦が考えているものと島岡が考えているものが見事に違っています。

三浦はいつ島岡の考えに気づくのでしょうか。

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