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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
二部・第三章 ホリデーを楽しもう!

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ミシャの杖について

 なんだかレナ殿下にとんでもない勘違いをされてしまったような気がする。

 抱き合った男女を目撃してしまったら、彼女でなくとも親密な関係だと思われても仕方がない。


 ヴィルの腕から脱出し、はーーーー、と盛大なため息を吐いてしまう。

 きっとこの先も、二人っきりで過ごしていたら、今日みたいに誤解を受けてしまう可能性がある。

 小さな勘違いの芽は、今のうちから刈り取っておいたほうがいいのだろう。


「あの、ヴィル先輩。以前から思っていたのですが、少々、私への距離が近いように思うのですが」

「当たり前だろう。ミシャは私の当番生なのだから」

「もしも他の生徒が当番生でも、先ほどのように抱きしめたりするのですか?」


 その問いかけに対し、ヴィルは小首を傾げる。


「ミシャ以外の者を当番生に指名することはありえない。そのため、その質問に答えることはできない」


 なるほど……と言いかけたものの、それでは根本的な解決にならない。


「あの、今、レナ殿下は私達の関係を誤解したと思うのですが」

「誤解? 具体的には?」


 質問を返されるとは思っていなかったので、うっ! とたじろいでしまう。

 けれどもここで負けてはいけない。恥ずかしくても、はっきりと説明しなくては。


「このように、人気ひとけのない場所で男女が抱き合っている様子を目撃したら、誰もが秘めたる恋愛関係にあると思うはずです!」

「ああ、そういう意味だったのか。理解した」


 頭はいいのに、どうしてこんな単純なことに気づいてくれないのか。

 勘違いについて説明しても、真顔である。本当にわかっているのか。それとも私とのことについて何か思われても、たいしたダメージではないのか。

 思わず本日二度目のため息を吐いてしまった。


「ひとまず、レナ殿下へはのちほど誤解を解いておきますので」

「解かなくていい」

「はい、わかりまし――ええ!?」

「この件については私がどうにかするから任せてくれ。ミシャがあれこれ言う必要はないから」


 我が耳を疑う言葉をヴィルは発してくれた。

 両肩にコマドリを二羽ずつ載せたこの男性は今、何を言ってくれたのか。

 聞き返す勇気さえなかった。


「ひ、ひとまず、朝食を食べましょう」

「いいのか?」

「ええ。レナ殿下はカフェテリアで召し上がるとおっしゃっていたので」


 ジェムにお願いし、朝食が載った食卓と椅子を外に持ってきてもらう。

 フレッシュハーブティーを淹れる予定だったが、予想外のトラブルに見舞われたので、作っている暇などなかった。

 ヴィルには白湯でも飲んでいただこう。

 料理を並べ、カップに注いだ白湯を差し出す。


「なんだ、この透明な飲み物は?」

「白湯です」

「さゆ……? 初めて聞く飲み物だ。ラウライフに伝わる飲み物なのか?」


 さすがのラウライフの者達も、白湯は飲んでいない。

 かと言って、前世で紅茶の葉っぱも買えないときに飲んでいた、健康志向の一杯だと言えるわけがなかった。


「白湯はただの湯冷ましです。冷えやむくみに効果があるみたいです」

「そうなのか」


 興味津々、といった感じで飲んでいたが、無味無臭の飲み物なので、不思議そうな表情を浮かべていた。


「白湯には体を内側からぽかぽかにする効果があって、体の毒素の排出を促す効果も期待できるようです」

「なるほど、興味深い。私もさゆとやらを取り入れる生活を送ってみよう」


 なんだか丁寧な暮らしをしている人みたいなことを言い出した。

 まあ、コーヒーや紅茶を飲みまくるより、白湯のほうがいいだろう。なんら問題はない。


「して、このさゆはどのように作る?」

「魔石ポットで水を沸かしたものを、飲めるようになるまで冷ますだけです」

「それだけでできるのか?」

「はい。放課後とかでしたら、言ってくださったら作りますので」

「ああ、ありがとう」


 白湯についてここまで突っ込まれるとは思ってもいなかった。

 どうやらお気に召したようで、ごくごく飲んでいた。


 スモークサーモンのオープンサンドを食べつつ、魔力の制御ができるようになった話をする。


「なるほど。雪属性の魔道具が必要だったのか。それは盲点だった」

「本当に、氷柱を素材にして作った今の杖は、とても相性がいいと思っていたのですが」


 雪属性にとって、氷属性は親戚みたいなものなのだろう。そのため、手に馴染んでいたのかもしれない。


「しかし、雪属性の杖か……。王都で目にした覚えはないな」

「そ、そんな! 雪属性の箒はあったのに、杖はないなんてことがあるのですか?」

「雪属性の箒は、過去に在学していた雪属性を持つ者が、無理を言って特注したのかもしれないな。なんらかの事情で、その箒を購入できなかったのかもしれない」

「あー……」


 なんらかの事情を抱えていた無理を言う雪属性の者に、心当たりがありすぎた。

 叔父である。

 注文したあと、退学になってしまったのだろう。

 どうやら叔父は飛行の授業に行きつく前に退学となっていたようだ。


「雪属性の杖を探すよりも、素材を集めて杖作りを依頼したほうが早いかもしれない」


 杖のオーダーメイドをヴィルは勧めてくれた。


「ちなみにミシャの飛行道具の素材はわかるか?」

「たしか、柄はスノー・ウッドで、穂先はスノー・ウィローだと購買部の店員さんが言っていました」

「なるほど」


 ヴィル曰く、スノー・ウッドは強い耐風性があり、どれだけ強い雪嵐が吹いても飛行がぶれることがないらしい。スノー・ウィローは雪が降る曇り空を切り裂き、視界をクリアにしてくれるようだ。

 ブリザード号は雪国で使うことに特化された飛行道具だったわけである。


「この二つは杖の素材向きではないな。少し調べておくから、待っていてほしい」

「わかりました」


 そんなわけで、雪属性の杖作り計画が立ち上がった。

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