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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
二部・第三章 ホリデーを楽しもう!

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飛行魔法を使ってみよう

 先生は高さの制限を事前に教えてくれた。


「飛んでいい高さは、先生の膝くらいまでだ。それ以上に飛んでも、高得点はやらないからな」


 飛行魔法でもっとも大事なのは、安定した飛行。すなわち魔力の制御である。

 私がもっとも苦手とすることでもあった。

 果たして上手く飛べるのか、不安でしかない。


 とりあえず、飛行道具を手にして集中しよう。

 

「ジェム、さっき預けた箒をくれる?」


 お願いした瞬間、長い柄が差しだされる。が、手に取った瞬間、ブリザード号とは異なるつるりとした手触りにギョッとする。

 

「なっ、何よ、これ!」


 差しだされたのはブリザード号ではなく、ジェム自身が変化した箒だった。


「ミシャ、どうしたんだ?」

「何か問題でもありましたの?」

「ジェムが魔法の箒に変化したの。それでびっくりして」


 柄の先に小さな目がついていて、使ってくれ、と言わんばかりにキラキラ輝いている。


「使い魔が変化した飛行道具なんて前代未聞よ。今度試してあげるから、今日はブリザード号を使わせてちょうだい」


 その言葉に納得してくれたのか、ジェムは脱皮するようにブリザード号をだしてくれた。


「ジェム、ありがとう」


 お礼を言って、抜け殻のようにぺたんこになったジェムを撫でてあげると、元の球体へと復活した。


 飛行魔法の練習は生徒二人が見守り、異常があったらすぐに先生へと報告する、という決まりのもとで行う。


 誰からやろうか、と聞いてみたところ、エアが名乗りでてくれた。

 なんでもエアは浮遊魔法が比較的得意なほうだったらしい。


「じゃあ、やってみるぞ!」


 エアは自慢のフレイム号を地面に置き、板の上に乗る。

 魔法の杖を握って、呪文を唱えた。


「――飛び立て、空中飛行フライト


 ドキドキしながら、アリーセと一緒にエアとフレイム号の初飛行を見守る。

 エアの体はフレイム号ごと浮いた。

 みるみる浮上していき、先生の膝丈くらいの高さでピタリと止まる。


「せ、成功ですの!?」

「エア、すごい!」


 私が褒めた瞬間、エアは両手をジタバタ動かし、最終的にフレイム号から落ちてしまった。きれいに着地したので、エアにけがはない。


「くそーーー、いい感じだったのに」

「ふむ、すばらしい飛行だった」


 先生はエアを褒めていたものの、先ほどの飛行魔法は百点中十点という残念な評価だった。


「えっ、低っ! 先生の膝くらいの高さまで飛べていたのに!」

「先ほども言っただろうが。大事なのは魔力の制御であると。あのように体の均衡を崩すことすなわち、飛行の魔力に体がついていけてない証拠だ」


 魔力で体のバランスを取るのも大事だという。


「あー、たしかに、飛行道具を使って空を飛ぶことだけに気を取られて、フレイム号に乗った自分の体については気にしてなかったな」

「次からは体を支えることも意識して、飛ばしてみるといい」

「先生、ありがとうございました!」


 空中落下と評価十点というダブルパンチを受けたエアだったが、果敢に二回目に挑戦していた。先生に見られている状態ではあったものの、すさまじい集中力を見せている。


「――飛び立て、空中飛行フライト!」


 呪文を口にした瞬間、フレイム号はゆるやかに上昇していく。

 先生の膝の位置くらいでぴったり止まり、飛行状態を維持していた。

 エアはどうだ! とばかりに先生を見る。


「ふむ、すばらしい! ただ、着地も大事だ。やってみろ」

「はい」


 着地はストーブなどで火力を下げるように、魔力の出力をどんどん絞っていくのだ。

 エアとフレイム号は下降していき、無事、着地することができた。


「やった!!」

「ふむ。今回は文句なく、完璧な飛行だっただろう」


 エアは嬉しそうな表情を浮かべていたものの、すぐにキリリとした表情へと戻り、深々と頭を下げていた。

 先生がいるうちにアリーセも飛行魔法に挑戦したほうがいいのではないか、と視線を向けたものの、首を横に振っていた。


「ご、ごめんなさい。わたくしはまだ、心の準備ができていなくて」

「わかったわ。私が先にするから」


 先生に一回見ていてください、とお願いしてから飛行魔法に挑む。


「リチュオルは前回、前々回と紙一枚分しか飛べていなかったな」

「ええ、そうなんです」

「頑張れよ!」

「はい」


 ブリザード号に跨がり、集中する。魔力を意識すると、これまでと異なる感覚に気づいた。

 魔力の流れが、手に取るようにわかる。

 以前、ヴィルが滝の水が滝壺に打ち付けられるイメージだと言っていたが、それに近い大きな魔力を感じた。

 その滝の流れを、自分の意思で制御するのだ。

 今の私ならば、できるはず。不思議とそんな自信があった。


「――飛び立て、空中飛行フライト!」


 呪文を唱えると、一気にふわっと上昇した。

 高さは先生の視線くらいだろうか。想像よりずっと高い。


「リチュオル、高いぞ! もっと低く飛べ!」

「はい!」


 落ち着いて、高さを調節しよう。

 蛇口を閉めるように、どんどん魔力を少なくしていけばいいのだ。

 落ち着いて、ゆっくり……大丈夫、できるはず。


 望み通り下降していき、先生の膝丈でピタリと止まる。


「おお、いいぞ! リチュオル、その調子だ!」


 十秒ほど空中で止まったあと、ゆっくり降り立った。


「――!」


 成功して膝の力が抜けたようで、その場に崩れ落ちてしまう。

 エアとアリーセが体を支え、立ち上がらせてくれた。


「リチュオル、すばらしい飛行だった。急成長したのだな!」

「は、はあ」


 自分でもびっくりするくらい、上手くいった。

 ただこれは、私の実力ではない。

 魔力の使い方を教えてくれたヴィルの指導もあったし、何より私の属性である雪と相性がいい、ブリザード号があったからだろう。

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