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飛行道具を選ぼう!

 魔菓子コーナーでキャッキャと楽しんでいる場合ではなかった。

 私達は飛行道具を選びにきたのだ。


「そろそろ飛行道具を選びにいきましょう」

「ああ、そうだな」

「目的から逸れていましたね」


 購買部の奥に、飛行道具が展示されたコーナーがある。

 もっとも人気があるのは、スケートボードみたいなタイプらしい。このタイプはスカイ・ボードと呼ばれているようだ。

 エアは炎がペイントされたスカイ・ボードを手に取ったが、値札を見てギョッとしていた。


「うーわ! これ、金貨一枚半だって! どうしてこんなに高いんだ!?」


 金貨一枚は前世換算にすると十万円くらい。金貨一枚半ということは十五万円くらいか。

 たしかに、庶民の感覚からすると、授業の教材に十五万円もかけるのは高い気がする。

 エアがしょんぼりしながらスカイ・ボードを置こうとした瞬間、アリーセが「お待ちになって」と止めた。


「そのスカイ・ボード、あなたにとっても似合っていますわ。瞳の赤とそっくりな炎のペイントがあるからでしょうか?」

「そ、そうか?」

「ええ! あなたのその瞳、元素エレメントの影響ですよね?」


 アリーセが言うとおり強い属性を持つ者は、瞳や髪色にも先天属性が現れる場合がある。

 エアみたいな真っ赤な瞳を持つ人は見たことがないので、きっと属性の強さがでているのだろう。


「母親の目は赤くなかったから、属性の影響だと思う」

「やっぱり! わたくしはそのスカイ・ボードがいいと思います!」

「そ、そうかな~……。でもさ~、これ、金貨一枚半もするし」

「後見人のお方に、相談してみてはいかがですか?」

「相談か。そういや、したことなかったな」


 エアは私のほうをちらりと見る。どうやら意見を求めているらしい。


「私もそのスカイ・ボードが似合っていると思うわ。一回、お伺いを立ててみたら?」

「そうだな。そうしてみる。手紙のやりとりをしている間に、売り切れないといいけれど」

「大丈夫ですわ! お取り置きができるはずですから!」

「オトリオキ?」

「商品が売れないように、確保をお願いすることです。ここでできるかわかりませんが、一度聞いてみましょう」

「ああ、そうだな」


 どうやらスカイ・ボードの取り置きをお願いしてくれるらしい。

 お金が理由でエアがいろいろなことを諦めてしまうのが、惜しいと思っていたのだ。

 お取り置きなんて技は私だったら考えつかなかった。アリーセがいてよかった、と心から思う。


 レジに向かうと、ローブをまとった猫妖精ケット・シーが低い声で「いらっしゃい」と声をかけてくる。ソマリみたいな、キツネっぽい毛色の猫妖精であった。


「あのー、このスカイ・ボード、オトリオキってできますか?」

「できるよ。こっちの紙に名前と学年、所属寮を記入してくれる?」

「わかりました」


 椅子から立ち上がった猫妖精は、身長がかなり高い。一メートル八十センチはありそうだ。ここにいる誰よりも大きかった。

 猫の手で器用に申請用紙と羽ペンを取りだし、エアに説明してくれる。


「これでいいですか?」

「んー、はい」


 取り置き期間は半年とかなり長い。その間に、きっといい返事がもらえるだろう。


「よし! じゃあ次はミシャの飛行道具を選ぼう!」


 そう言うエアはどこか楽しげだった。


「ミシャはどんな飛行道具がいいんだ?」

「ブルーム――箒型がいいと思っているんだけれど」


 箒型は壁側にずらりと立てかけられていた。

 お値段は銀貨一枚から五十枚までと、最上ぴんから最低きりまでいろいろあるようだ。


「もっとも人気があるのは、コニファーの木材で作った物のようですわね」


 邪気を祓う効果が付与されているだけでなく、名前を刻印するサービスがついているらしい。さらに、銀貨三枚を追加したら、箒から落ちかけても助けてくれる魔法のリボンを結んでくれるようだ。

 このリボンが女子生徒にかわいいと人気だという。

 お値段は金貨五枚で、まったくかわいくない。


「ミシャ、どうするんだ?」

「うーーーーん」


 箒の飛行道具売り場を往復していたら、先ほどの猫妖精が声をかけてきた。


「君、雪の属性持ちだろう? だったらこれにしなよ」


 目の前に差しだされたのは、白い箒だった。


「わ……きれい!」

「だろう? スノーウィー・ウッドの柄に、スノー・ウィローの穂を使ったとっておきの一本だ」


 白い柄には、白革で作られた鞍みたいな物も取り付けられている。とてもおしゃれな一品だ。

 なんでも雪属性を持っていないと、使いこなせない物らしい。

 雪属性持ちは少ないので、普段は購買部に並べていない品だという。


「私が雪属性持ちって、よくわかりましたね」

「まあ、妖精族だし、普通の人には見えないものが見えるんだよ」

「そういうわけでしたか」


 握ってみると、不思議と手に馴染む。

 魔力も活性化されているのか、なんだか体がぽかぽかしてきた。


「どう?」

「すばらしいお品です!」

「だろう?」


 とても気に入った。けれども気になるのはお値段である。


「あの、こちらのお値段は?」

「金貨十枚だ」


 納得のお値段である。

 悲しいことに、金貨十枚の箒を買う余裕など、我が家にはない。

 諦めかけていたら、エアが私に指摘した。


「おい、ミシャ。なんか高いから諦めた感をだしているけれど、飛行道具の引換券をもらってたんだろう?」

「あ!!」


 そうだった!! と今になって思い出す。

 エアがお金を気にしていたので、私も引きずられていたようだ。


「あの、これ!」

「ああ、引換券だね。まいど」


 信じられないが、この白い箒は私の物となったらしい。

 嬉しくって、箒を抱きしめてしまった。 

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