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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
二部・第二章 小舞踏会へようこそ!

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軽食がもたらしたこと

 周囲を取り囲む生徒達は右往左往していた。その中にユルゲンを発見したので、すぐに声をかける。


「ユルゲン、彼女を保健室に連れていってくれる?」

「あ、ああ、わかった」


 コルセットのせいだろうか? それとも、もともと体調がよくないのに参加したのだろうか?


 落とした銀器を拾っていると、リアもやってきて、ナプキンで床を拭いてくれた。


「リア、ありがとう」

「いえいえ」


 フェーベやアルビーナもやってきて、どうかしたのかと聞いてくる。


「軽食を食べながらお喋りしていたら、みるみるうちに顔色が悪くなって、倒れたようなの」


 一緒にいた友達から聞いた情報を、そのまま報告する。


「軽食を食べながら?」


 そう、アルビーナが口にした途端、周囲からカラン、カランと銀器を落とす音が聞こえた。

 生徒達が次から次へと倒れたようだ。


「えっ、な、なぜ!?」

「嘘だろう?」


 軽食を食べていた者達だけでなく、ダンスを踊ったり、お喋りに花を咲かせていた者達も、倒れたり、その場に膝を突いたりしている。

 これは異常事態である。


「毒、か?」


 フェーベがそう口にしたものの、すぐに否定する。

 使っているカトラリー類はすべて、毒を感知する魔法がかかったものだ。

 もしも毒が混入されていたとしたら、すぐに黒ずんで、異常を知らせてくれる。

 軽食が盛り付けられたお皿や、取り分け用の皿、フォーク、スプーン、グラスに至るまで銀で統一されていたのだ。そのどれも、毒を知らせる黒ずみは見られない。

 その点について、アルビーナはフェーベに指摘する。


「毒が混入されていたのならば、銀に反応があるでしょう」

「だったらどうして――」


 生徒は次々と保健室に運ばれていたようだが、もうベッドがないと保健医から言われてしまったようだ。

 どうすればいいのか、と思っていたら、ヴィルが登場する。


「ここを救護スペースとする。元気な生徒は布団を運ぶ手伝いをしてくれ!」


 監督生や当番生が次々と布団を運び、倒れた生徒を休ませていた。

 ヴィルは私達のもとへやってきて、何が起こったのか問いかけてくる。

 アルビーナが震える声で答えた。


「わ、わかりません。ただ、銀が反応していないので、毒ではないと、思います」


 それに、私達は二時間以上も前に、同じ軽食を食べている。


「皆、平気なんです」

「おかしいな」


 そうだ。軽食に何か問題があれば、毒見をした私達も同じような症状を訴えているはずだ。


 ヴィルは続けて駆けつけた教師に、上位の鑑定魔法を使える者はいないのか、と問い詰めている。


「ホイップ先生だ! ホイップ先生を呼べ!」


 研究室にいたらしいホイップ先生が駆けつけてくれたが、鑑定魔法で毒は見抜けないと言われてしまった。


「毒の解析はできるけれど、すぐにできるものではないわあ。早くても一週間くらいはかかるかと~」


 教師陣は頭を抱える。

 毒を見抜けるような上位の鑑定魔法は、専門職でないと難しいらしい。


「とにかく、ホイップ先生は何か生徒達の症状を和らげる魔法薬を作ってください」

「原因がわからないと、魔法薬を作ることは難しいと思うのお」


 まっとうな意見である。

 保険医の先生が駆けつけ、報告してきた。


「あの、生徒が次々と嘔吐し始めています。ここにいる生徒達も、じきにそうなるかもしれません」


 原因は軽食以外にあるのではないか、と思っていたのだが、そうではないらしい。

 嘔吐したということは、確実に食べた料理に問題がある。


 しばし考えるような仕草をしていたヴィルが、ぼそりと呟いた。


「もしかしたら毒を盛ったポイズニングではなく、中毒状態インタクスィケイションなのかもしれない」

「え? それはいったい――?」

「この銀器が反応するのは、悪意をもって毒を盛ったときだけ。今回の症状は、悪意のない、中毒状態である可能性がある」


 毒と一言にいっても、ポイズニングは毒だとわかっていてそれを盛ることを示し、インタクスィケイションは毒だと意識していない状態で症状がでてしまうことを示すらしい。

 今回は後者、何かしらの中毒症状がでているのではないか、とヴィルは言う。

 軽食が関わっている中毒と聞いて、ハッと思いつく。


「中毒って――もしかして!?」


 食中毒なのではないか。

 腹痛と嘔吐という症状が見られるので、おそらく間違いないのだろう。


「でもどうして、毒見をしたらしい一学年の子達は大丈夫だったのかしらあ?」


 たしかに、私達はピンピンしている。


「何か、魔除けのお守りを持っていたり、儀式をしたり、特別なことでもした?」

「いえ、そのようなことは――あ!!」


 そういえば、食後に私が淹れた紅茶を皆で飲んでいた。

 もしかしたら私の淹れた紅茶に解毒作用が付与されたので、食中毒にならなかったのではないか。

 ならば、私が淹れた紅茶を飲んだ人は倒れていないはず。

 周囲を確認すると、アリーセとエア、レナ殿下とノアの姿を発見する。

 皆、苦しんでいる様子はなかった。


「ミシャ、何かわかったのかしらあ」


 私はホイップ先生の耳元で囁く。


「私が付与した解毒作用のおかげで、症状が現れなかったみたいです」

「そうだったのねえ。だったら、治療方法は簡単ね」


 ホイップ先生はこれから治療薬を作ると宣言したのだった。

 

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