雪降る夜に
ヴィルは大丈夫だったのだろうか。
なんて思いながら、クリームシチューをいただく。
こういう雪が降る晩は、あつあつのクリームシチューが食べたくなるので、いつも以上においしく感じてしまった。
今晩は自習をするしかない。ただ、以前よりは教科書の内容がわかるようになっている。
入学した当初のような絶望感はなかった。
ふと、窓から外を見たら、雪が止んでいた。
窓を開いて外を覗き込む。辺り一面銀世界になっていて、申し訳なく思ってしまう。
魔力を制御していなかっただけで、ここまで雪を降らせてしまうなんて。
自分の魔力と魔法の力だったが、恐ろしく思ってしまった。
はあーーーー、と深く長いため息を吐いていたら、白い息がふんわりと漂う。
明日の朝まで溶けるわけがないだろう。
いったいどれくらいの範囲内を降ったのだろうか。自分でやったことなのに、よくわからなかった。
しばらく眺めていたら、バサバサと羽ばたく音が聞こえた。
「え!?」
やってきたのは、先ほどデリバリーをお願いしたシマフクロウである。
料理を食べたあとの鍋と、お弁当のバスケットを届けてくれたようだ。
「あ、ありがとう!」
感謝の気持ちを伝えると、応えるように「ホー!」と鳴いてくれた。
何かお礼を渡せたらよかったのだが、この辺に生息するフクロウの好物といえばネズミやコウモリ、ヘビなどと本で読んだ覚えがあるような……。
残念ながら、それらの食料は私のほうでご用意できそうにない。
魔法生物なので、魔石の粒とか食べるだろうか?
ここにやってきたとき、魔石を砕く練習をするため、両親が持たせてくれたものを金槌でガンガン叩いたものがあったのだ。
「ちょっと待っていてね」
棚から取りだし、急いで窓の外へと運んでいく。
お皿に載せた魔石の粒を地面に置いたら、シマフクロウはすぐにぴょこんと降り立った。
近くで見ると、案外かわいい顔をしている。
シマフクロウは魔石の粒を嘴でつんつん突いたあと、パクッと食べた。
「どうかな?」
お気に召していただけたのか、続けて魔石をパクパク食べていた。
すべて平らげたあと、「ホー!」とお礼を言うように鳴いて、飛び立っていった。
鍋はきれいに洗われていて、バスケットの中には小箱とカードが入っていた。
なんだろうか。
カードには夕食がおいしかったことと、ホイップ先生から思っていたほど怒られなかった、というメッセージが書かれていた。
ただ、私との個人的な接触は一ヶ月間禁止されてしまったらしい。ヴィルは今回のことを重く考え、処分を受け入れたようだ。
謹慎などを命じられたのではないか、と考えていたものの、そこまで厳しいお咎めはなかったようで、ホッと胸をなで下ろす。
小箱にはトリュフが四粒入っていた。
カードの裏に、寮にある売店で購入したとある。
寮にもお店があるなんて、羨ましい。
別に足りない品があるわけではないものの、夜、友達と売店にお菓子を買いに行くとか、楽しそうではないか。
そんなことを考えていたら、寮に所属していない我が身に空しさを覚えてしまった。
そんな私の気持ちを察してくれたのか、ジェムが傍にやってきて、暖めてくれた。
「ジェム、ありがとう」
感謝の気持ちを伝えると、チカチカと点滅した。
「そういえばあなた、喋れるの?」
問いかけたものの反応はない。顔を覗き込んだら、サッと目をそらされてしまった。
この子の考えていることは本当にわからない、と思った瞬間であった。
私が作った魔法の雪は、朝になっても溶けるわけがなく、深く積もっていた。
この辺りでは珍しい積雪に、生徒達は庭を駆け回る犬のようにはしゃぎ回っているようだった。
クラスメイト達は口々に、こんなに積もった雪を見たのは初めてだ、と嬉しそうにしていた。
私は一人、戦々恐々としていたのである。
窓を眺め、ため息を吐いていたら、エアが話しかけてきた。
「さすがに雪国育ちのミシャにとっては、珍しい光景じゃないか」
「……まあね」
「この雪よりも、深く積もっているのか?」
「そうよ」
「へーーーー、想像できないな」
クラスメイト達は雪を好意的に受け止めていたようだが、ノアだけは「こんなに降るなんて、おかしくない?」と言っていた。なかなか鋭い。その感覚はいつまでも大切にしてほしいと思った。
◇◇◇
本日は休日――レナ殿下と軽食の試食会を行う。
お昼前にレナ殿下はやってきた。軽食は使い魔であるユニコーン、シュヴァルの鞍に載せてやってきたようだ。
休日だからか、レナ殿下は私服である。
詰め襟のジャケットに、ズボンを合わせ、マントをはためかせる。
絵に描いたような貴公子然とした格好であった。
「待たせたな」
「大丈夫、時間通りよ」
大きなバスケットを持ってきてくれたようだが、いったい何種類ほどの料理があるのだろうか。
「これ、鞍のベルトってどうやって外すの?」
「いや、待て。重たいと積んでくれた者が言っていたのだが」
「そうなの? だったらジェムに運んでもらいましょう」
ジェムに頼むと、鞍のベルトを解き、バスケットを家の中へと運んでくれた。
椅子の上にバスケットを置き、蓋を開く。中には二段にわたって料理が入れられているようだった。
一品一品テーブルに並べていく。
レナ殿下は料理について説明してくれた。
「これはフォアグラのグラタン、そっちはイチジクとホウレンソウの生ハムサラダ、ロース肉の紅茶煮込み、鶏肉の蜂蜜煮に冬鳥のパテ、エビのマスタードソース和えに、白身魚のレモン蒸し、子羊の薬草焼き――」
私達二人で食べきれないくらいの料理である。
どれもメインと言っても過言ではないくらいの豪華な料理の数々で、見た目が華やかなだけでなく、ボリュームもかなりある。
試食してみたが、当たり前のようにどれもおいしく、軽食といえどかなりの満足感があった。
「やっぱり、量が多いのね」
「ああ。給仕係が取り分けてくれるのだが、こう、たっぷりと盛ってくれるのだ」
せっかく彩り美しく作っているのに、お皿に取り分けた途端に残念な見た目になるという。
たしかに、手をつけるまできれいだった料理は、私達が試食のために一口ずつ取った状態になると、なんとも残念な状態になってしまう。
その問題については、フィンガーフードが解決してくれるだろう。
一口大に作られた料理は、個別に盛り付けても見た目を損なうことなどないから。
「いいアイデアになっただろうか?」
「もちろん! ありがとう」
あとは企画書にまとめて、次の話し合いで発表するだけだ。




