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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
二部・第一章 怒涛の学校行事

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冬の思い出

 ヴィルは腰に手を当て、ハリネズミ軍団を従えた姿で、私を迎えてくれた。

 ただ、その表情は険しい。


「ミシャ、遅い!」

「も、申し訳ありません」

「どこで道草を食っていたんだ?」


 ……言えない。ホームルームが終わったあと、スノー・ベリーの樹を発見し、実が熟しているか確認しにいっていたなど。

 スノー・ベリーというのは、冬に実が熟す木イチゴで、寒ければ寒いほど甘くなるという、雪国のごちそうなのだ。

 領地では今のシーズン、スノー・ベリーが熟すのだが、王都の寒さはそれほどでないからか、未熟だったのだ。

 熟したら食べてもいいかは、ホイップ先生に確認する予定である。


 ヴィルはずんずん私へ接近し、腕を伸ばす。

 首根っこを掴まれるのかと思って肩を竦めたものの、制服に付着していた葉っぱを取ってくれただけだった。


「スノー・ベリーの葉だな。これは帰り道から少し逸れなければならない場所に生えている物だが」

「え、えーっと」

「まさか、誰かに呼び出されたのか?」

「いえいえいえ、まさか!」


 帰りが想定していたよりも遅かったので、心配していたという。

 ここまで言われてしまったら、白状する他ない。


「誰だ? 誰がミシャを呼び出した?」

「本当に違うんです! 実は帰り道でスノー・ベリーの樹を発見し、実が大好物だったので、熟していないか見にいっただけなんです!」

「スノー・ベリーが大好物だと?」

「ええ! 毎年、領地で実るスノー・ベリーを楽しみにしておりまして」


 素直に白状すると、ヴィルはいたたまれない表情で私を見つめる。


「スノー・ベリーなんぞ、酸味だけが強くて、おいしくないだろう」

「そんなことないですよ。とても甘くて――あ!」


 スノー・ベリーは寒くなればなるほど、甘く熟す。

 王都では寒さが深まる季節でも、スノー・ベリーが最大限にまで熟すほど、気温は下がらないのかもしれない。

 そんなスノー・ベリーの性質について説明すると、ヴィルは「なるほど」と納得してくれた。


「幼い頃、スノー・ベリーの実がおいしそうに見えて、樹に登って食べたことがあったんだ。苦労したのに、飲み込めないほど酸っぱくて驚いた記憶だけが残っていた」

「そうだったのですね」

「一度、甘くておいしいスノー・ベリーの実とやらを食べてみたいものだ」


 領地から取り寄せられたらいいのだが、スノー・ベリーの実を口にするまでには壮絶な戦いがあった。


「スノー・ベリーの実が熟す季節になると、鳥とのバトルが始まるんです」


 冬が深まると熟すスノー・ベリーの実は、鳥の大好物でもあるのだ。


「森にあるスノー・ベリーの実は、みんなの物だと納得できるのですが、鳥達は早々に森のスノー・ベリーの実を全滅させると、我が家の庭に植えているものを食べにくるのですよ」


 早く熟さないかと指折り数えて待ち、犬にも見張りをさせているにもかかわらず、毎年鳥達にやられてしまうのだ。


「雪国の鳥は賢くて、スノー・ベリーの実が熟すと、人間や犬が寝静まった夜にやってきて、食べてしまうのですよ。もう、何度スノー・ベリーを食べ尽くされた樹の前で、膝から崩れ落ちたことか!」


 夜だから目が見えにくくなるなんて常識は、異世界の鳥には通用しない。

 鳥避けネットを張っても嘴で噛み切るし、忌避剤もなんのその、天敵であるヘビのオモチャを吊していても、偽物だと気付く。


「一度だけ、降誕祭ノエルのごちそうにするぞ! って脅したときがあったんです。その年だけ、スノー・ベリーの実を食べ尽くさなかったんですよ」


 ただ、翌年にはそれが嘘だと見抜いたのか、容赦なく食べるようになったのだ。

 大丈夫だからと気を抜いていたら、やられてしまったのだ。あのときほど、悔しい思いをした年はなかっただろう。

 スノー・ベリー戦争について一通り語り終えたあと、ヴィルの肩が微かに震えていることに気付いた。


「どうかしたのですか?」


 その一言が止めとなったようで、ヴィルはお腹を抱えて笑い始める。


「真面目な顔をして、鳥と木の実を争った話をするから!」


 たしかに、貴族の娘がやる行為ではなかっただろう。

 

「それはそうと、ミシャの魔法を使ったら、スノー・ベリーの実を熟すことができるのではないのか?」

「私の魔法?」

「たしか、固有元素ユニーク・エレメンツが雪だっただろう」

「あ、そうでした!」


 雪魔法でスノー・ベリーの樹を寒い環境においたら、実は熟すかもしれない。


「でも、私の雪魔法、すごく弱いんです」

「弱い? どの程度だ?」

「えーっと」


 ベルトに吊していた杖を手に取り、呪文を唱え、雪魔法を展開させる。


「――しんしん降る、雪よスノウ


 頭上に大きな魔法陣が展開され、はらはらと雪が舞う。

 小雪と言えばいいのか。これ以上、激しい雪を降らせることはできない。


「これが精一杯です」

「なるほど」


 何を思ったのか、ヴィルは杖を握る私の手を覆うように両手で触れた。

 そして、ぶつぶつと何か呪文を唱える。

 頭上にあった魔法陣が激しく光り――。


「え!?」


 ドサドサドサ、と大きな音を立てて、雪の塊が降ってきた。

 私とヴィルの周囲は、あっという間に雪が積もる。


 このように一瞬にして、大量の雪を降らせたのは初めてである。

 いったい何が起きたのか、理解できないでいた。

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